オルタナティブ・ブログ > マス菌の悪あがき >

文化を継承できるメディアの価値について考えたり関連情報を集めたり

初音ミク問題のツボ

»

「初音ミク」。このサイトをのぞきに来ている人なら、存在を知っている人も多いだろう(当然知っているとは言い切れないのがみそ)。一言でいえば「歌を歌わせることができるソフトウェアロボット」といったところか。Windowsパソコンにインストールして、歌詞と音符を入力すると、あたかもホンモノの人間のように歌を歌ってくれるというもの。あまりに自然に歌いこなしてくれることから、多数のカバー楽曲(著名作品を歌わせた作品)がYouTubeなどで公開されていて、一部のユーザーを中心に盛り上がっていた。

ところが、10月14日、TBSの番組「アッコにおまかせ!」でこのソフト「初音ミク」が紹介されたのを皮切りに騒動に発展してしまったのだ。初音ミクファン側の言い分は「TBSがオタク批判を恣意的に行っている」というもの。17日になると今度は「誰かの手によって検索エンジンの画像検索の結果から「初音ミク」が表示されなくなっている」という問題も浮上、Wikpediaの「初音ミク」項目に削除依頼が上がるなど、騒動は白熱の一途をたどっている。

番組のアーカイブを見ると「3次元には興味がない」とか「嫁の一人」とか驚くべき発言のオンパレードで、正直いって、2次元のアニメキャラが吐き気がするほど大嫌いな筆者にとって、さぶ肌ものの内容だった。おそらく騒動の大きさからすると、取材現場の雰囲気とは異なる流れで編集されたのだと思う、またナレーターが最後にバカにしたような発言をするのを踏まえると確かにひどいと感じた。

しかしながら、報道が偽装されたものでない限り、それは表現の自由であり、とやかういうことはできない。事前にシナリオがあったとのことだが、請負製作会社から編集に回ったところで、そんなものは”あくまでシナリオ”に過ぎない存在となる。いずれにせよ、改善なり弁明を望むのなら、具体的効果がある方法で戦った方がいい。例えば、この放送のディレクター(編集)、ライターが誰だったのか? ナレーターは、基本的にシナリオにそってしゃべるだけなので、この編集の責任はディレクターとライターにある。しかし、ライターが事前に書いたシナリオは、まったくの白紙になっていることから、この編集を指示したディレクターと校正を行ったライター(当初からのライターの可能性もある)を引っ張り出して話を聞くべきだ。また、TBSを批判しても、あれだけ巨大な企業なので効果は薄い。本気で批判したいのなら、TBSのチャネルを二度と受診しないという運動でも起こした方がいい。「初音ミク報道はだめ、世界ふしぎ発見はOK」では、局批判の意味がない。こういった批判活動が、本格化するのなら、いよいよ既得権益TVは終焉だと思う。

さて、この問題で大切なのは「初音ミク」の技術はとても素晴らしいということだ。音楽演奏や打ち込みをかじったことがある人なら、この楽しさ、そしてうまく歌ってくれたときの興奮が理解できるだろう。また、筆者はアニメキャラが嫌い、とはいったがそれは筆者の主観であり、番組に登場したようなアニメが好きな人たちを非難することできはない。初音ミクを使って作り出された作品はどれもすばらしいし、作る意欲にあふれているオタク(彼らをオタクというならば)達は、未来の宝だといってもいい。では、なぜ、初音ミク騒動は消えないのか。それはパッケージに描かれたアニメのキャラクターの好き嫌いかが、差別を生んでいるからではないだろうか。


嫁とか2次元に興味がないという話は、やっぱりやばい?


冒頭で述べたとおり、登場されている功労者2人を非難したくないが、正直報道の内容は気持ち悪かった。やはりあの編集は「濃いオタク文化の紹介」であって、初音ミク紹介ではないということだ。仮に同じVTRで、初音ミク紹介なら、そんな気分にはならないはずだ。メーカーやファンの怒りもそこにあるだろう。「初音ミクの紹介」といっていたのに、なんでオタクネタに変わってしまったのか。筆者も、同じような体験をしたことはあるし(ワールドビジネスサテライトなんて、大勢集めて取材しておきながら、1カットも放送しなかった・・・)、その怒りは理解できる。ただ、こればかりは仕方がない、雑誌や書籍のような情報量を詰め込める訳でもないし、編集に関して取材された側がバイアス(放送前に確認させろとか)をかけられるようになってしまったら、それこそ今以上にメディアの存在意義が無くなってしまう。

また、筆者が、前提成しにあのVTRを編集しろといったら、つかみを得るためにもあの部分を使ったと思う。萌〜の感覚が理解できない筆者としては、それをどうこういう資格すらないと思うが、衝撃的なカルチャーだと思った。ただ、これを「悪い」と決めたり、バカにするのはまた別問題だと思う。やばいと感じても、それを「悪い」ということはできない。ましてや既得権益に固執する大メディアが、それをやってしまっては、報道というか社会・文明の危機とすらいっても過言ではないと思う。そういう意味では、今回の編集は偏っているといえるが、実は、初音ミクファンの「偏向報道だ」という強い意見がある一方で、「何らおかしなことはない」という意見も根強く存在している。それは、もうすでに日本のメディアが、切り込み隊長の言葉を借りれば「フルボッコ」なしにはいられない状態にあり、また、日本のメディアにならされた大衆もそれに追従した情報消費の連鎖が生まれているといってもいいのかもしれない。


取材と放送、なぜああなったか


今回の報道内容について、取材現場と編集に相当な乖離があることが、さまざまな人の説明を読んで理解できた。

筆者は一応マスコミに所属しており、多数の取材活動をしてきたが、内容については編集者と打ち合わせをしつつ、方向性に齟齬がないように気を遣い、それほど大きくずれることはない。ただ、ずれた原稿を出したあと、大幅に修正されて出版されていたということは、数え切れないほどある。仮に書き手と一人の編集者の関係であっても、それは起こる(単に筆者が実力不足なだけという話も大いにある)
おそらく、テレビという大メディアの製作現場は、雑誌や書籍とは日にならないくらい大勢のスタッフが関与するだけに、情報伝達やら、ジャーナリズム云々のモラルや秩序が崩壊しやすいのだろう。などと、弁護したりして。

そんな動向をみつつ、初音ミクのメーカーであるメディアファージの報道をみると、身が引き締まる思いがする。今回の動向を、一番冷静に受け止めているのが、彼らといってもいいだろう(10月14日のテレビ放映に関しましてご報告とお詫び:メディアファージ事業部 ブログ
まず、開口一番、自らのおごりを反省し・・・・

けれどもその一方で、"良い製品なのだから良く放送されないわけがない"という弊社サイドの驕りもあったと思います

単なる批判に終始せず、マスとの接し方について、実にフェアなとらえ方をしている。この一文だけでも問題の番組を編集したディレクターに暗唱してもらいたいものだ。
お、今回TBS様の取材にご協力された、xxxx様、xxxxx様には大変感謝をしております。アキバカルチャーに対して色々と批判はあるかもしれませんが、人々の表現に制約はあってはならないと考えてます。どんな文化・芸術活動であれ、その人がどんな人種なのか、その人がどこに住んでいるのか、そういうことを一切抜きにして発表できる自由な場がネットの中にあると思います。誤解を恐れずに言うと、我々特に日本人は"否定"の代わりに"包含"していく知恵を持っているのだと思います。どうかご理解いただきたくお願い申し上げます。


メディアの取材を広告だと思っていないか?


報道と取材の関係について、全段でメディアファージさんが、反省されていたことをまとめると、取材記事をパブリシティの道具と思っている人が多すぎることがこの数年気になっていた。「プレスリリースはまず○○新聞にリークして書かせる、記者のAくんを読んで食事にいこう」などということを平気で主張する企業役員も大勢いる。一部のブロガーも似たようなことを書いているが、自分の趣旨に添った内容にしてもらわないと困るというスタンスになると、メディア・書き手の表現の自由を奪う危険がある。そこまで、自分の意見を通したいのなら、自分のブログやホームページなりで書いた方がいい。こういう形で問い詰めると、結局、「影響力のあるメディアに載せなきゃ意味がない」という広告媒体としての認識にすり替わっていくのがオチである。

YouTubeを例に、大企業が消費者の活動をさまたげ、意見の存在を消すことができるという恐怖

今回、報道内容についての問題が各地に燃え広がってから、「検索エンジンで初音ミクが引っかからない」という不可思議な問題が発生した(17日夕方に発生し、2007/10/19 8:00にもGoogleなどは表示されず)。なぜ、これが大きな問題になるかというと、YouTubeなどでは、NHKなど大手放送局が個人がアップロードした映像を削除しまくっているからだ。今回、初音ミク番組の映像もTBSによって削除されまくっている。いたちごっこもおきるが、シラミをつぶすように削除されていく。ここまで大企業が、個人の活動を妨害しているのだから、検索エンジンの画像問題もきっと彼らの仕業だろう、というのは当然の疑惑だったのだ。いくつかのメディアは、検索エンジン各社に問い合わせをしており、「削除依頼も調整もしていない」という声明を出しているが、何が起こったのかそのどうこうから目が離せない。

現在、一部の検索エンジンで検索結果に表示されているようになっているが、そもそもなぜパッケージ写真ならまだしも、手書きの初音ミクまでもが削除されたのか? 初音ミクに連想される画像はほかにもあるのに、「初音ミク」と連想できる画像だけが消えたのか。あたかも人の目で消していったようで、とても不可解だ。エンジン各社からの回答を待ちたいものだ。

また、現在、Wikipediaについても削除依頼が発生しており、メディアファージの伊藤社長が自らの公式ブログで「削除を依頼したこともないし、する必要はない」という声明を公表する異例の事態となっている。著作権法にふれるという運営ルール上の問題があり削除に動いたらしいのだが、本人がOKといってもWikipediaのルールがあるとかで、一筋縄ではいかないようだ。
いずれにせよ、なんで削除にこんなに敏感になっているかというと、先にも述べたとおり、企業によって私たちの意見が抹殺されていくということだ。イタズラな不正コピー防止ならともかく、言論弾圧に近い行動に恐怖を感じざるを得ない。

ささやかな反旗

既得権益と、権力、金、がある大メディアに論戦で勝とうと思ってもなかなかすんなりとうまくいくわけがない。じっくり構えるとして、まずは地上波テレビをみるのをやめようじゃないか。今回の問題で、二度と「アッコでおまかせは見たくない」と思うのは自然だろう。しかし、TBS系の他の番組をぼけーっとみるのはやめないか?どのチャネルを回しても同じニュース、ドラマも似たような作り。もう地上派民放はみなくてもいいじゃないか?局批判をするなら、地上は民放テレビはみない。そして別の方法を考え、実行する。これを広めることこそが最善の道なんじゃないかと思索する次第だ。ITの世界に生きる我々だけにしかできないことを、今こそやるべきなのではないか。


【関連URL】
10月14日のテレビ放映に関しましてご報告とお詫び:メディアファージ事業部 ブログ
【2ch】ニュー速クオリティ:10月14日TBS「アッコにおまかせ!」で初音ミク紹介
TBS「アッコにおまかせ」の初音ミク特集に批判相次ぐ - ITmedia News
「アッコにおまかせ」批判を理解してないテレビ関係者 デジタル家電&エンタメ-最新ニュース:IT-PLUS
たけくまメモ : 「初音ミク」事件について
 初音ミクの魅力はオタクにしかわからないのか? - Something Orange
日本はフルボッコ先を求めている
続・日本社会はフルボッコ先を求めている

from metamix.com(2007-10-19)

Comment(3)