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商社マンの営業として33年間(うち海外生活21年間)、国内外で様々な体験をした。更に、アイデアマラソンのノートには、思いつきを書き続けて27年間、読者の参考になるエピソードや体験がたくさんある。今まで3年半、ITmediaのビジネスコラム「樋口健夫の笑うアイデア動かす発想」で毎週コラムを書き続けてきたが、私の体験や発想をさらに広く提供することが読者の参考になるはずと思い、ブログを開設することにした。一読されれば「読むワクチン」として、効果があるだろう。

食べることの珍体験 下痢対処 1

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食べることの珍体験 下痢対処 1

 これから2部作で下痢に対する対処を書く。


ゲリら戦争
 ベトナム・ハノイに駐在していた時のことだ。
数か月遅れて、家族が到着した2日後に、ハノイ事務所の駐在員とその家族が集まって、Hホテルの中華料理を囲むことになった。
 他の駐在員が3名とその内の1名の奥さん、ベトナム語の語学修業生が2名、私のヨメサンと三男。
 席に着くやいなや、三男が、「ぼく、気分が悪い」と言う。
「どうした」
「下痢と吐き気がするの。今日、昼寝から目を覚ましてから、ずっと下痢しているの。正露丸を飲んだんだけれど...」と言いながら、けっこう苦しそうだ。
「どうしたんだ。何か悪いものを食ったのか」と、ヨメサンに顔を向けた。
「疲れているからよ。ちょっと休めば大丈夫よ」と、言い切る。ここで小さな戦争が始まりかけていた。
 三男が「ぼく、トイレに行ってくる」と、若い同僚に案内されて立ち上がった。
「トイレの後、ソファーで寝ていなさい」と、ヨメサン。
「医者に連れていくか」と、私。
「大丈夫だわよ。それくらい」と、ヨメサン。三男に一緒に付いて行った同僚が帰ってきて、「吐いてます」と報告。そこで私の態度は決まった。「医者に電話しよう」と、手帳の緊急対応時の頁を開けた。すでに私は当地に生活を始めてから、緊急対応マニュアルを作り上げていた。ベトナムでは、警察が13、救急車15、消防車14であるというようなこと。また同僚との連絡方法。緊急時日本側関係者などである。
 「Hクリニック」の、夜間緊急時の電話を携帯電話で呼ぶと、ヨーロッパ人のK医師が出てきた。「息子が、下痢をし、吐いています。軽く熱もあるようです」と、(英語で)言うと。
「分かった。今晩、10時に診療所に来てください」という。
「お願いします」と、私。
「ソファーに寝かしておいたら大丈夫だって。そんなにおおげさにしなくても...」と、ヨメサンが横で人を小馬鹿にした顔をしてほざいている。
「じゃ、一端家に連れて返る」
「せっかくみんなが集まっているのに...」と、言う。
「おい、おい、本当なら、お前が付いていくと言うのが本当だろう。下痢だけならともかく、吐き気もあるからな」と言いながら、私は立ち上がった。

 小さいが近代的なHクリニックに、10時に到着し、即三男の治療が始まった。血液の簡単な検査の結果、
「白血球の数が増えていますからね。『感染性の下痢』です」と診断された。

「この下痢だと、家でじっとしているだけで治るでしょうか。ソファーで寝ているだけで治りますか」
「無理でしょう。血液中を走りまわっている菌は、薬でやっつける以外には無理です。到着して2日目のなら抵抗力もありませんからね」
(そりゃ見ろ)と、私は内心非常に満足していた。病気や怪我などの緊急事態で、自分の判断が正しいことを証明したのだ。これで、あの「下痢など細菌自由放任型」のヨメサンに一発かませることができよう。

「これから10日間、これらの薬(コレラの薬ではない)を飲み続けることです。その間は、絶対に海産物を食べてはいけません。それからミネラルウオーターは飲まないように。ピュア過ぎるので血液の養分を奪われるのです。だから良いのは、コーラ、ペプシなど。紅茶、ベトナム茶などに軽く塩を入れるなり、砂糖を入れるなりして飲ませることです。はあ?日本茶も良いでしょう」

私はこの下痢という現象を分かりやすく表現してみようと考えた。下痢(ダイアリア)には、簡単な下痢から、アミ―バー赤痢の下痢やコレラなどのような激しい脱水症状を伴う下痢の王様まである。

 

 息子が掛かったのは、典型的で、立派な「旅行者下痢(トラベラーズ・ダイアリア)」の一つである。「旅行者下痢」「国内化」とか、「現地化」とか言う。また「そこの人になった」とか、「洗礼を受ける」とか言う。外国で生活する人は10人が10人とも掛かる現象である。

 「旅行者下痢」は、食べ物が悪いということに限らない。水が変わったり、生活が変わることすら下痢の現象につながるという。同じ物を食べていても掛かる人と、掛からない人がいるし、食べる分量にもよる。がつがつ食べる私は当然ながら頻繁に犠牲者となる。

 駐在員の場合には、「ストレス性下痢」というのがある。ストレスが急激に高まったり、逆にストレスが急激に無くなっても下痢になるという。

 「エアコン下痢」というのは、夜中に切り忘れたエアコンで冷やしすぎた腹の下痢。
 この他、我々ビジネスマンが掛かるのは、「会議性コーヒー下痢」とか、「社内打合性下痢」、「月曜朝方性下痢」など、何杯ものコーヒーで下痢になる人は結構多い。

 また、「きついパンツゴム下痢」というのもある。きついパンツのゴムのおかげで、胃や腸の歪みが生じるのだろうか、これらも下痢になることがある。

 その他、雑種の下痢としては、起きたてに冷たい牛乳を飲む「早朝冷乳下痢」とか、逆に起きたてに熱い味噌汁を飲むと生じる「熱味噌汁下痢」なども発生の報告が来ている。これらは通勤時間に症状が発生する可能性があり、満員の車内が地獄と化す。
風邪薬や頭痛薬や抗生物質の投与で下痢をおこす「薬害性下痢」もある。きっとヨメサンが五月蝿い時にも下痢になる可能性もあるだろう。これを「五月蝿いヨメサン性下痢」と名付けよう。

 私はヨメサンと共著で本を何冊か書いているが、共著というのは狂著であったり、強著であったり、競著であったりするから、それから下痢を起こす。これを「共著者下痢」と呼ぶ。

 

 いつだったか、サウジアラビアに住んでいる時に、英国人やフランス人とこの旅行者の下痢の話題を話していた。
 私が、フィリッピンやタイで下痢になった話をしていたら、英国人が日本に出張して、日本食でひどい下痢に掛かったという話をしているのを聞いて、「日本だけは衛生的なんだ」という先入観を木っ端微塵にされたことを覚えている。

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