昨日、花火工場の爆発事件についてエントリを書きました。

花火工場の爆発事故はリスク管理の成果

そして今日、まさか都内で爆発事故が起きるとは思いませんでした。
原因は温泉に含まれる天然ガスが地下室に貯まって引火・爆発した、
と見られています。

# 2007/6/21 関連エントリ追加 爆発事故の責任は誰が負うべきか

 

東京都では平成17年5月19日に温泉採掘に関するガイドラインを出しました。
その内容はこちらの通りです。

「温泉掘削等に係る可燃性ガス安全対策ガイドライン」の策定

内容は専門的で理解が難しいところもありますが、
ほとんどは掘削中のことに関したものです。
シエスパでは既に掘削を終えて何年も経っていたとのことです。

こちらのガイドラインは東京都北区で発生した温泉採掘現場における
火災に対応したもののようです。その内容はこちらの通りです。

温泉掘削現場におけるガス噴出・火災発生事故について

報道によると、シエスパもこのガイドラインに基づいて
天然ガスを分離する装置を着けていたそうです。
その装置の安全性がどれほどのものか、私は理解しておりませんが
その上で従業員が日常的に休憩を取ったりすると言うことが安全なのか疑問に思います。

いわし博物館の爆発事故というのがありましたが、
あちらは地面から勝手に上がってきたガスでの爆発事故ですので、
今回の事故とは少し事情が異なるかな?と思います。

都市部で温泉を掘るというのは東京に限らず名古屋や大阪でも
行われていることです。人口密集地で1500メートルも2000メートルも土を掘ることは
ノウハウが足りない部分もあると思いますので、今後の対策が望まれます。

さて、この件について現場監督歴40年のKさんに話を伺ってみました。
Kさんは10年前にスーパー銭湯の施工をしたこともあります。
主な担当はマンション・ビルが中心とのことです。

自分「今回の事件、爆発のダメージが大きかったようですが」

Kさん「建物というのは中から外向きの力は想定していないからね」

自分「建物は屋根の重さで壁などの構造物を押さえて安定させている、でしたっけ」

Kさん「そうだね。台風などで屋根が飛ぶのも吹き飛ばされているのではない。
風による陰圧で持ち上げられるから剥がれるという感覚が正しい。
真正面から吹き付ける限りでは相当な強風にも耐えることができる。」

自分「ではまぁ、報道で言われているような凄まじい破壊力というわけではないと」

Kさん「ガス爆発だとか小麦粉の粉塵爆発で屋根と壁が全部飛ぶのはよくあること。
鉄骨は残っているからね。とんでもない量のガスが貯まっていたということではないと思う。
また、地下室で爆発が起きると、前後左右と下の5面が行き止まりなので
爆風は上に集中する。そのため大きな力が発生する。例えばこれが地上1階であれば
前後左右と上の5面にそれぞれ爆風が分散するので壊れ具合は異なるだろう。」

自分「では、『ガス爆発するかもしれない』という認識がある場合、
例えば今回のケースでは1階と地下1階の間に防護壁を作っておくことはないのか」

Kさん「ないね。火薬工場などで無ければ義務でないはず。上を居住空間とするのも自由。
東京は土地が高いから、無人の緩衝帯にするのはもったいないという人がいても仕方ない。」

自分「都心部で1500メートルも掘る許可は出るのか?」

Kさん「知事さえ許可を出せばどこでも掘っていい」

自分「天然ガスというものはそんなに簡単に出るのか?」

Kさん「ガスを甘く見てはいけない。深く掘ると出ると思ったら間違い。
トンネル工事でも出る時は出る。パワーショベルでちょっと掘っても匂いがすることもある。
それはただの沼の痕跡だったりする場合もあるが。関東では畑を耕していたらガスが出た、
ということも珍しくないと聞いた。」
(私による注:水平に掘っていくトンネル工事ですらガスが出るというソース

#2007/6/20 追記
純粋なメタンガスは無臭だそうです。
匂いの元となる成分は硫化水素など。

自分「そういうことがあるともっと事故があるのでは」

Kさん「屋外ではあっと言う間に拡散してしまって爆発に至ることは少ない」

自分「では、今回の事故の原因をずばり言うと」

Kさん「温泉と言って喜ぶと気持ちはわかるが、日本中で温泉が出ない場所を探すほうが難しい。
源泉が50度以上あって、成分が豊かなものは珍しいが、地下水だったらどこでも簡単に出る。
ただし水温が30度くらいだったりして熱くないので、それを沸かして利用することになる。

天然ガスというのは、そのままの形で地中に貯蔵されていることもあるが、
地中の高い圧力により、地下水に溶け込んだ形で眠っていることがある。
それが大規模なものになるとガス田として利用可能になる。つまり、温泉や地下水を掘ることと
ガスを掘り当てることは関係が深いと言える。それがガス田なのか、
すかしっぺみたいなものなのかは、今の技術では調べるとわかるのかもしれないが、
掘ってみて運次第というところではないか。

掘ってみたところ、大量のガスが出た場合、山奥であれば拡散させても問題ないはずである。
都市部で採掘中にすごい量のガスが出たらどうするつもりだったのだろうか。
上から泥水に圧力をかけてガスを噴出させない技術もあるが、失敗して火事になったら
ということを考えたらまず『採掘もしない』という結論に至るのが普通ではないだろうか。

ガスが噴き出ても建物のような密閉空間に貯めてから爆発させない限りは
今回のような大爆発にならないと思われるが、火災が発生するだけでも大きな事故であると思う。
ユニマットという会社は沖縄でホテルを建設するときに自然破壊が問題になって
住民運動が起きた。同じく都心部の温泉を売りにする会社にアパグループがあるが、
あちらも耐震強度偽装問題が発生している。細やかなところまで気の回る会社であれば
都心部での温泉採掘、という決断は難しいと思うし、それらのような問題も起こさないと思う。

そして、『安全管理』の考え方をまともに理解しているかどうか疑問に思う。
事故が起きて被害者が出た以上は、例えそれが不可抗力だったとしても、
隕石にぶつかるような運の悪さだったとしても、『安全管理に問題は無かった』
なんてことは口が裂けても言えない事だと思うが。」

自分「興味深い話をありがとうございました」

Kさん「で、お盆は帰ってくるのか」

自分「仕事があるので難しいかと」

Kさん「まぁほどほどに。元気でね」

自分「はい。お母さんによろしく」

というわけで、実父から貴重なアドバイスをもらいましたので掲載させていただきました。
父は建設現場での無事故継続20年だか30年だかというのを達成して
表彰されたことがあるそうです。現場では朝礼がお決まりです。朝の挨拶でひと言。

「私は今年で無事故継続★★年目になりました。事故が起きるとそれが途絶えてしまいます。
怪我をした人がいたら報告してください。パワーショベルで埋めてその上にビルを建てます。」

というジョークで現場の空気を引き締めていたそうです。
私がそんなこと言われたら本気でびびります。

今回のケースでは3名の方の尊い命が失われました。ご冥福をお祈り申し上げます。
同じような過ちを繰り返さないよう、行政が規制を強化する必要があると思います。
そして行政ではない我々にできることは、どのような意思決定の過ちが
今回のような結果を招いたのか、(それとも本当に不運としか言いようのない事故だったのか)
それを見極めて学ぶことだと思っています。

yohei

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コメント
せのお 2007/06/20 03:00

大変興味深く読ませていただきました。
シエスパ。結構あちこちの情報番組とかで紹介されていましたね。気になる存在でした。
でも、確かに。
かつて何故都市部の天然温泉なんて施設があまり無かったのか?を考えると・・・ちゃんとリスク管理を含めた経営判断がなされていたのかもしれませんね。
ところで、yoheiさんってまだお若いのに、そんなに長い経験のある建築関係の方とお付き合いが・・・?、それにみずほ情報総研はゼネコンとのお付き合いも・・・?、なんて思って読んでたら・・・やっぱそうやったか、というオチも用意されてて大変勉強になりました。
あらためて、私も犠牲になられた方のご冥福をお祈り申し上げます。

yohei 2007/06/20 23:05

せのおさん、コメントありがとうございます。
私はスパというものには1回しか行ったことないです。友達が半額券を持っていたので一緒に池袋のタイムズスパ・レスタに行きました。コインパーキングのタイムズが運営してまして、立体駐車場の上層階をスパにしたものでした。上手なやり方だと思います。
今から10年ほど前のアトランタオリンピックの開催中にちょうど父がスーパー銭湯の施工を監督してまして、当時自分は高校生だったのですが人手が足りない部分を手伝いに行ったことがあります。エクセルに鍵の製造番号を入力するという雑用だったのですが、大きなボイラーから伸びる太いパイプがうねうねと館内を這い回るところはぐっと来ました。建設中じゃないと見れないレアな眺めでした。
そのことを思い出して父に電話してみたところ、色々と意見をもらいましたのでせっかくだからエントリにしてみました。ご参考にしていただければ幸いです。

K 2007/06/21 03:07

私は都心でも何でも掘っていいと思います。十分な危険予知をすれば、予防は可能な範囲のできごとです。マンホールに入るだけでも、ガスを憂うのは当然です。それを人知で克服することで技術の蓄積ができました。
むしろ、
>そして、『安全管理』の考え方を...
ここのくだりの部分が問題でしょう。日本人はかつては「結果の品質管理」理由がどうあれ結果がダメなら大いに恥じるべきで、そのためにあらゆる不測の事態に備える、という考え方でした。事故ゼロ不良ゼロじゃなければ恥だったのです。それが最近は欧米型の「プロセスの品質管理」になり、手順書さえ守っていれば。。。になってしまいました。さらに外注や下請けの細分化でルールの抜けを自分の才覚でカバーする人がいなくなり、施主は現場を把握しない時代になりました。
お父様の「口が裂けても言えない」というコメントが本来の技術者の誇りを表していると思います。そういう思いに報いなかった日本からはどんどん誇りが失われています。

yohei 2007/06/22 01:15

Kさま、コメントありがとうございます。
安全な技術が確立できたらら都心でも掘って構わないというところに賛成です。これまで露天でガスを拡散させる構造は多かったようですが、室内で換気扇によりガスを拡散させる構造は多くないようです。渋谷ですとガスを拡散させている横に焼き鳥屋がある、なんていう立地もあるかもしれませんので、その辺りには都市部向けの規制が必要になってくるかと思います。
品質管理の部分でもためになる指摘をいただきまして、勉強になります。以前からちょくちょくこのブログでQCのようなことも取り上げております。私の父は古いタイプですのでまさしく「技術者魂」な人と言えます。何年か前に父は定年退職をしました。これから数年に渡り、同じく技術者魂が旺盛な方々が退職されることだと思います。そのような方々に支えられてきた部分で今後もちらほらとほころびが現れると思います。私のような若手の技術者は今のうちに「誇り」を受け継がなくてはならないですね。
なお本日新しくエントリを作成させていただきました。Kさまのコメントなどを参考にさせていただきました。御一読いただけましたら幸いです。
「爆発事故の責任は誰が負うべきか」
http://blogs.itmedia.co.jp/yohei/2007/06/post_37c3.html


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山口 陽平

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