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福岡「SHARE」ワールド・カフェの常識って世間の常識と食い違っていることが多いよね

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さて、いきなりですが、みなさんは

これから、「SHARE」(=あらゆる形式でモノを共有するサービス形態)が主流になってくる

という話に、ピンと来ますか?

今回は、このテーマに端を発した3つのストーリについてご紹介したいと思います。

(本記事の要旨)

・地球環境と幸福論の2つの観点から「SHARE」はきっと流行るはず
・こういうトレンドを話しあう時は、参加者全員でワイワイ話し合う形式がよい
・そんな話し合い、敢えて東京でなく福岡でやるのが熱い

■そもそもSHAREサービスってどんな感じのもの?

まずは、こちらのVTRをご覧ください

これは、典型的なSHAREサービスの1つであるZimrideという、通勤途中などで、知らない人同士が自動車を乗り合いするためのサービスの、プロモーション動画です。

Zimride from Harrison Bowden on Vimeo.

どうです?なんだか、楽しそうじゃないですか?

このような、「楽しそう」という要素が、実はSHAREサービスがこれから主流になっていく最大の理由と言われています。

■経済発展と共に、20世紀は「MORE & BETTER」(より多くを所有することが、より良いこと)だった

20世紀、世界の経済は先進国を中心に、めざましく発展しました。例えば、世界主要各国の労働生産性は、以下のグラフのように、文字通り右肩上がりになり、食べるのにも困る、という状況から、働けば働く程生活が目に見えて豊かになっていく、という状況が生まれました。

Seisansei1

この時代の典型的なCMが、こちらです。

これは、1970年代を中心に展開された、いわゆる「トヨタピラミッド方式」と呼ばれたマーケティング手法の頂点に君臨した「いつかはクラウン」というもので、

・社会人になったらまずカローラ
・家族ができたらカムリ
・出世してお金が貯まったらマークⅡ
・そして、サラリーマン生活の最後にクラウンが購入できるように

というように、頑張って働いて、どんどん稼いで、それによってどんどんいい車を所有していくことが幸せである、という価値観を捉えたものでした。

■この調子でいくと、地球が足りなくなる

さて、こんな調子で世の中は発展してきたわけですが、現在、中国やインドなどの国々は、まさにこの時代の日本を始めとした先進国と同じように、猛烈な成長をしています。

では、どれくらい成長の余地があるか、というのを見るために、こちらのグラフを御覧ください。

Kankyofuka

こちら、アメリカやヨーロッパといった先進国に比べ、遥かに人口の多いアジアなどの国々は、まだまだ1人あたりのエネルギー消費が少ない、言い換えれば、これからこの層がぐっと経済成長をそのまますると、相当な量のエネルギー消費が発生し、地球への影響が大きくなります。

では、これだけ多くの人が消費をして、地球は大丈夫なんだっけ?というのをまとめたデータに「エコロジカル・フットプリント」というものがあります。

これは、「その時点でのエネルギー消費を本来賄うためには、地球が何個必要?」というものなのですが、そのデータは、こんな風になっています。

Globalhootprint

はい、このままいくと2050年には、地球が2.5個必要だと。。。つまり、地球はパンクしてしまうわけですね、大きすぎリ消費によって。

■でも、幸せになるためにはより多くの所有が必要なんでしょ?

ですが、この傾向をそう簡単に止めることは、できないようにも思えます。それは、先ほどのクラウンのCMにもあったように、経済成長して所得が増えたら、それによって所有をすることで満足感、幸せを感じることが不可欠なように思えるからです。

ん?ほんと?

これに真っ向から異を唱えるのが、前回の記事でもご紹介した、米国の著名な心理学者ミハエル・チクセントミハイが紹介する、次のデータです。

Mihai2

これは、アメリカでの平均所得の伸びと、「自分は幸せだ」と思っているアメリカ人の比率、2つのデータの推移となります。

どうでしょう?所得は急激に伸びているのに、実は幸せだと感じる人の割合は、変化していません。

つまり、過去数十年間、所得を一生懸命伸ばし、所有を増やすことによって幸せになれると思っていたけれど、フタを開けてみたら、実はそれって幸せにつながってなかったよ、というのが、先進国の大きな学びの1つである、と、このデータは言っているわけです。

■じゃあ、何が幸せなのさ?

ずばり、その答えが「SHARE」を通して、他の人と関係しあい、その時間を楽しむ、というところにあるのではないか?というのが、書籍「SHARE」の主張であり、先ほどのデータを提示したミハエル・チクセントミハイの主張にも関連するところとなってきます。
※但し、このチクセントミハイが、他者との関係を幸福論においてどう捉えているか?という点は、とても興味深く複雑な話なので、別途ブログ記事、および「フロー体験」の読書会などでのテーマとしたいと思います

まあ、こちらのVTRを御覧ください。

これは、カウチサーフィンという、世界中を旅する人と、その人達に自宅を宿として提供する人とをマッチングするSHAREサービスの1つなんですが、そこでの訴求要素は、「宿が安くなる」とか「無駄なお金をセーブできる」という話ではなく、お互いの交流による「楽しい時間」そのものです。
こうした、「様々な人同士が互いに出会い、絡み合い、その時間を楽しむ」という要素は、多くのSHAREサービスのプロモーションVTRに共通した要素となっています。

つまり、SHAREをすることがきっかけになり、そこに人と人の交流が発生し、その時間によって人が幸福になれるのでは?というのが、SHAREサービスの本当のコアな魅力である、ということです。

■テクノロジーがあるからSHAREが成立する

さて、このSHREサービスが、なぜ今になって普及し始めたかという点ですが、そこには、テクノロジーによるサポートがあります。

主な要素を下記に:

1.信用担保 フェイスブックなどにより、相手がどのような人であり、周囲の友人たちとどのような関係にあり、果たして信用できる人なのかどうかが、昔より遥かに把握しやすくなっていて、見ず知らずの相手であっても、信頼できるかどうかが判断できるようになってきた。
2.マッチング効率の向上 多くのニーズと、多くの物体をマッチングできる幅が、テクノロジーにより、遥かに拡がってきた。1万人が登録していて、1万のアイテムを共有するときに、お互いが欲しいものを検索し、その詳細を把握し(例えば、そのDVDって痛んでるの?新品同然なの?といった情報)が分かり、取引が成立する確率が飛躍的に向上した。
3.フィードバックによるルールの厳格化 実際に行為に参加した人が、お互いの利益に反するような行為を行ったとき、その情報が集団全体に共有され、そうした行為を行った人が排除されるフィードバックが働くようになった。例えば、Yahoo!オークションで、悪い取引をすると「BAD」の評価がつき、その評価がついている人を、他の人は利用しなくなる。
4.コミュニケーション 直接は合うことのない人同士であっても、システムを介在してコミュニケーションができるようになってきている。Skypeなどのツールもそうだし、CarShareであれば、1つ1つの車に「ベニー」などの愛称をつけ、「ベニー」をいつも指名して使っている人同士が、間接的に交流することができるようになる。

このように、以前であれば「相手が信用できない」「大したものを交換できない」「危ない感じがする」「やりとりが不便」といった、SHAREを妨げてきた現実的制約条件が、次々とクリアされてきたわけです。

■SHAREによる「MORE OR BETTER」(=より多くを所有しなくても、幸せになれる)の世界観

さて、このSHAREが拡がっていくと、かなり地球への影響を軽減することができるようになります。
例えばですが、先ほどのクラウンを、日本中のおじさんの多くが、週末にゴルフをするためだけに、それぞれ自宅に1台所有している状況と、1台の車を何人もが一緒に乗り合って通勤をするのでは、トータルで必要になってくる自動車の台数は、遥かに違ってきますよね。

SHAREが普及することで、1つ1つの物体の稼働率が遥かに高まり、それにより、必要な生産量は激減し、環境へのインパクトが軽減されるわけです。

そして、先程から見てきたように、「所有することで得られる幸せは?」という話は幻想であり、それに代わる「共有をきっかけとした交流によって、幸せが得られる」という話が、幸せをもたらしてくれるわけです。

この2つの点がカバーされることで、SHAREサービスは、世界を「MORE OR BETTER」に変えていくのではないか?

これが、SHAREが今後大きなトレンドになりうる、理論的な背景となります。

■でもそれって本当に流行るのかなあ?

さて、ここまでを考えてくると、SHAREはいかにも流行し、今後のトレンドになっていくような印象も受けますが、自分たちの身近なところ、即ち日本の中で本当にそれが流行するかどうかは、疑問に思われるところも多々あります。

例えば、

・これが主流になったら、生産される絶対量が減少し、経済が停滞しちゃう
・アメリカ人とかはこういうの好きそうだけど、日本人同士は絡みあうとかがなじまない気がする
・肝心のお金を持っている中高年層が、ここに参加しない感じがするし、それではインパクトは限定的

といったところですかね。一方で、日本の中でも、こうしたトレンドが垣間見える要素もあり、

・最近の20代は、一昔前に比べて自家用車を購入しなくなっている
・シェアハウスやソーシャルアパートメントといった生活スタイルが流行り始めている
・環境問題への取組を真剣に考える若者が増加しており、例えばマッキンゼーや投資銀行出身といったビジネスエリートがそこに参画するようになってきている

などは、このSHAREの流れに肯定的とも言えるかと思います。

そこで、本当のところどうなんだろう?という単純な疑問に端を発して、

「多くの人を集めて、これを考える場を作ってみよう」

という興味・関心から、去る10月20日に、リクルートさんの本社をお借りして、こんなことをやってみました。

■「SHARE」について考えるワールド・カフェ

こうした社会的に大きなトレンドを考えるときは、そこに関連するステークホルダー(利害関係者)をなるべく多様に集め、実際の社会の縮図のような状況の中で話し合いをするのがよい、というのは、直観的に多くの人が賛同されることだと思いますし、理論的にも、例えば「Future Search」や「みんなの意見は案外正しい」「メディチ・インパクト」といった書籍などでも支持されているところです。

まあ、言い換えれば、世の中の複雑性は極めて高くなってきているので、昔のようにどこかから偉い先生や「権威ある人」(笑)を連れてきて、大上段から語ってもらっても、そんな予想は大して宛てにならないし、大抵すでにインターネットで知っているし(SHAREに関する考え方も、このブログでの解説で知っているわけですし)、改めてわざわざ足を運んで出向いて話を聞いても、さしたる価値がないわけです。もう「ニコ生中継」なんて、これにトドメをさしてしまいますよね。

それに変わって、こうした複雑性の高い、将来へのトレンドなどを考えるときに注目されるのが、多くの人が一同に会して、そこで様々な意見の交換を行い、それを通して未来を見据えていこうというような、ワールド・カフェなどの手法に代表される検討方法です。

今回は、この方法を使って、およそ60名程度の方々を、指名制にてご招待し、なるべく多様な観点から、このトレンドを考えることにしました。

■こんな多彩な参加者60名で検討してみた

今回のワールド・カフェでは、こんな方々をお呼びし、議論を行なっていただきました。みなさんもよくご存知の、日本を代表するサービス開発会社、商社、いわゆる資本主義の中心に居るような方々から、NPO、弁護士、大学生などの若者、ベンチャー系の人材など、多岐に渡る60名程の方にお集まりいただいた次第です。

・「シェアハウス」「カーシェアリング」など、直接的にSHAREに関連するビジネスに携さわる人たち
・「イクメン」などに代表される、よりよい子育て環境へ率先して取り組んでおり、「シェア」を始めとする社会的な変化に日々携わっている方々
・事業会社にて事業企画などサービス開発に携わっており、今後のビジネスへの「シェア」という潮流の影響を見極め、新たな仕掛けを行おうと模索している方々
・教育関連の事業などに携わっており、5年先10年先の社会を見据えて、現在の教育に「シェア」の概念を取り入れようと考えている方々
・NPOにて、既存の概念に囚われず、「シェア」も含めた、より社会的意義が大きく、枠組みの大きな課題に取り組まれようとしている方々
・官公庁や弁護士など、「シェア」が社会的な潮流となっていく場合に、その受け皿となる社会的な仕組み・法制度などを整備し、運用していく方々
・大学生や海外留学経験のある若手であり、すでにこれまでの生活の中で「シェア」に関わりを持ち、その実際を経験し、理解している方々
・ベンチャー企業などで、技術を通して新たなサービスを開発しており、「シェア」を行うためのプラットフォームやアプリケーションなどを今後創りだしていく方々

■検討してみたら、日本でのSHAREの未来について、こんな話が出てきた:


様々な観点の意見が出てきました。読み飛ばしていただいて結構かと思いますが、ご参考までに原文そのままで記載させていただきます。

Outputworld_2

「シェアは今後どのようにして日本に根付いていくのか?」というテーマで検討させていただきましたが、概ね下記のようなポイントが出てきました。

・大企業の利益創出の中心に居るメンバーも含め、シェアの浸透に肯定的
・テクノロジーの下支えが、シェアの展開を大いにサポートしそう
・色々と障壁や対象物、法律的な問題などはあるけれど、やっぱり浸透していくんじゃないの?

■SHAREの強烈な裏付けになる「交流による幸福感」


そして、実は個人的にこのイベントで最も印象的だったのが、冒頭のそもそものSHAREが流行する源泉になる「互いに絡み合うことの幸福感」という点が、まさにこの場での議論への参加そのものによって、参加者全体から感じられた点です。下記、参加コメントを抜粋させていただきますが、とにかく「こうやってお互いに様々な人と絡み合い、話をするのがエキサイティングで仕方ない!」という点そのものに、SHAREの源泉である「人との交流による幸福感」の可能性を感じずにはいられません。

※参加者の感想抜粋

Tanoshi

■で、東京ではなく福岡で「SHARE」について考えてみる

さて、こうした形で「1:SHAREって拡がりそう」「2:多くの人で考えるのっていいよね」ときて、3つめのお話ですが、これが「東京じゃなくて福岡じゃん」という話です。

上記のようなイベントを開催するとき、言い換えれば多様な人達で新しいトレンドを捉えていく時に、どうしても基本的な開催場所は東京になりがちです。もちろん、自分自身も東京に住んでいるというのもあるんですが(汗)、やはり多様なバックグラウンドの人を集めるという風に考えると、東京というのはいい場所かと。今回も、各社の企画系の方々は東京本社にいらっしゃいますし、行政や有力弁護士事務所も東京、NPOなどの活動基盤も東京、ベンチャーも実は東京本社が多い・・・と、当たり前のように東京開催になってしまいます。

ですが、これに大きく物申すのが、「福岡」の存在かもしれません。

辺境から革命は発生する、とは、かの有名なXXの言葉でもありますが、現状のシステムや仕組みの中心地とは違った場所でこそ、中心地に存在する制約条件や固定概念に囚われず、大胆な改革や変化のトレンドが起きることは、歴史が証明しています。明治維新が江戸や京都ではなく、薩摩・長州といったところが主導したように、今回のシェアのような大きなトレンドも、実は、東京ではなく、別のエリアからその変化の兆しが起きるのかもしれません。

そういった前提で注目されるのが、「福岡」です。

福岡は・・・

・適度な都市としての規模を保ち、かつ大きすぎないため、IT・クリエイティブ・事業会社など様々な人種が一道に会するイベントスペースが定まっていたりする(東京だと、散らばってしまう)

・IT関連のベンチャー企業が多く軒を連ね(WorldBusinessなどでも取り上げられていますが)

・アジア各国とのアクセスがよく、海外からの影響を強く受ける

といった背景から、まさに現代の薩摩・長州になりうるな、と感じます。

その象徴だなというイベントが、アメリカで開催されているSXSWの日本版として開催される「明星和楽」という、日本では前代未聞の大イベントです。

こちら、基調講演には孫泰蔵氏や、アレン・マイナー氏などが参加し、数千人の参加者が見込まれている、クリエイティブとITの一大イベントです。

個人的には、以前神戸に3年間在住し、その後に東京に戻ってきたときの圧倒的な人脈やビジネスの中心感により「やっぱり全ては東京か?」という感覚が強いのですが、「所有がSHAREにとって代わる」「一方的情報提供が参加者全体の議論にとって代わる」というような大きなトレンドの変化を考えると、ちょっと今回「福岡が東京にとって代わる」という可能性を垣間見てみたい、という衝動にかられています。

そして、その実験の1つとして、このイベントの1つの企画として、東京と同じように、福岡でもこのSHAREワールド・カフェを、この記事でご紹介した東京でのワールド・カフェと同様に、開催されることとなりました。

Warakushare1

▼福岡「SHARE」ワールド・カフェの詳細/参加申込はこちら

もしも、SHARE、ワールドカフェ、福岡、この3つのキーワードいずれかに響くものがあるのであれば、参加をご検討されてもいいかもしれません。

以上、長文にてお付き合いいただきありがとうございました。

あなたには、SHAREはどのような価値をもたらしそうですか?Twitterまたは福岡イベントにて、ぜひともお聞かせくださいませ。

それでは

▼今回ご紹介した書籍:シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略

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