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心理面で見た「モノづくり×アプリ」が勃興する3つの要因

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Googleによる日本のロボットベンチャー買収、シャープやPanasonicによる「モノアプリハッカソン」と呼ばれるようなハードウェア×ソフトウェアによるアイデアコンテストなど、とかく最近はWebアプリ単体ではなく、「モノづくり×アプリ」というのが、大流行の兆しです。

それを裏付けるかのように、この分野を象徴する「3Dプリンタ」(モノづくりの基点となる、3Dで造形物を作ることができるプリンタ)や「モノアプリ」といった言葉は、ここ数年で、右肩上がりに検索数が増えています。

 

では、こうした分野に、どうして多くの人達が次々と引き込まれ、時には現在の仕事を投げ打ってでも没頭するのでしょうか?

今回の記事では、その点について、主に心理面での考察を深めてみました。

 Monoapus

今回のアウトラインです(読了5分)

1.      【要因1】触感というチャネルの解放

2.      【要因2】協働・競争の空白地帯

3.      【要因3】圧倒的な追体験場面の増加

4.      ケーススタディ:「モノづくり×アプリ」に魅せられた男 

それでは、本編です。

  

1.【要因1】触感というチャネルの解放

フレミング(2001)によると、人間の学習パターンには、視覚(Visual learners),聴覚(Auditory learners)、触覚(Kinaesthetic learners)の3つのタイプの人たちが存在し、それぞれのタイプによって、学習スタイルが全く異なってくる傾向にあるそうです。それぞれのタイプの人の特徴は、以下のとおり:

 

【視覚タイプの人】

・  見ることによって学ぶ

・  頭の中で図形を描きながら思考をし、ビジュアルによって記憶をする

・  地図やチャート・絵・ビデオ・映画などを見ることを好む

・  図解したり、文章を書いたり、デザインをしたりするのが得意

 

【聴覚タイプの人】

・  聴くことによって学ぶ

・  喋ったりプレゼンしたりするのが得意

・  図形よりも文字で思考をする

・  他の人と議論や会話をすることで学ぶ

 

【触覚タイプの人】

・  何かに触れたり身体を動かしたりすることによって学ぶ

・  身体を動かして表現するのが得意

・  自分の身の回りのものとの空間感覚で記憶をする

・  ボディ・ランゲージやものづくりなどで表現するのが得意

 

自分がどのタイプに近いかを見分けるためには、以下の方法をお試しください:

 

「ネコを思い浮かべてください」

 

さて、この質問で、ネコの姿を思い浮かべた人は【視覚】、ネコの鳴き声が聞こえたという人は【聴覚】、そして、ネコを実際に触ったときの感覚が感じられた人は【触覚】が強いそうです。

 

そして、このタイプ分類のうち【触覚】で学ぶタイプの人たちが解放されるというのが、「モノづくり×アプリ」が勃興する第一の心理的要因です。

 

これまで、クラウドサービスが低価格化し、ネット上でのバーチャルな協働がSKYPEやGoogleHangoutsなどで簡便になってきたことで、特にアプリを中心として新たなベンチャーを興すことが容易になり、多くの人達が、企業を離れて独立する傾向が、アメリカを中心に15年程前から加速してきました。

 

この流れに乗り切れなかったのが、上記の【触覚】タイプの人たちです。彼ら彼女らは、文字を中心としたプログラミングや、そのアウトプットとなるアプリケーションのビジュアル中心のUIなどによって刺激を受ける【聴覚】【視覚】タイプの人たちと違い、せいぜい振動するスマートフォンによる【触覚】の刺激を受ける程度で、自分の感覚をフルに活かした刺激を受けたり、それを応用した何かを創りだす機会に恵まれていませんでした。

 

ところが、「モノづくり×アプリ」となったとたんに、例えば手に触れることができる小さなロボットや、腕に巻いていつでも感触を確かめられるウェアラブルツールなど、いつでも手に触れて、その感覚を楽しみながら取り扱えるものが、それまで発展してきた「アプリ」と合体することで、【聴覚】【視覚】タイプの人たちが作り上げてきた「アプリベンチャー」の流れに合流することができるようになりました。

 

この【触覚】タイプの人たちが解放され、様々なアプリの開発に合流できるようになったのが、「モノづくり×アプリ」が勃興する第一の心理的要因となります。

 

2.【要因2】協働・競争の空白地帯 

アメリカの心理学者ミハエル・チクセントミハイは、人が「没頭」し、最高のパフォーマンスをあげる状況を「フロー状態」と定義し、その状態になるための条件をいくつか提示しています。

 

その中の1つが、「他の人と競争、あるいは協働をすることにより、相互に刺激を受け、没頭していく」という要素ですが、「モノづくり×アプリ」は、まさにこの「競争・協働」が技術革新によって可能になったことで、飛躍的に伸びはじめました。

 

代表的な例は、ベストセラー「Makers」の中で指摘される、「何かを作ったら、その作り方と実物の両方をオンライン上でシェアし、それを他の人がコピー・編集・改造できるようになってきた」という話です。

 

事例として紹介されている「AR Drone」と呼ばれるヘリコプターの分野では、標準的なキットを通販で購入することができ、そのハードウェアを各自が自作で改造したり、連動させるソフトウェアを様々にプログラミングすることで、動き方の組み合わせなどを自由に変更することができます。

 

ポイントとなるのは、これら自分たちが行った独自のハードの改造や、ソフトの改造といったものが、下記のようなフォーラムなどに次々とUPされ、「どうだ、俺の作ったこれは凄いだろう!」という見せびらかしを行いあうことで「競争」が促進されたり、他の人がUPしているプログラム内容を参考にして、さらに自分が新たな改良を加え「僕はさらに、こんな風にしてみましたよ」というように、「協働」ができたりする点です。

 

Drone図:Droneのコミュニティで共有されている様々な情報

インターネットの回線が飛躍的にスピードアップし、各種のSNSやフォーラムなどを使いこなすことに多くの人が慣れ親しみ、ハードやソフトの基準となる製品や規格が次々と登場することによって、こうした流れが大いに加速し続けています。

 

こうした流れによって、以前よりも遥かに多くの「競争」や「協働」が発生し、その刺激によって多くの人達が魅せられ、没頭していくというメカニズムが、「モノづくり×アプリ」が勃興する、2つ目の心理的要因となります。

 

3.【要因3】圧倒的な追体験場面の増加

最後の心理的要因は、最もパワフルです。これはズバリ、「追体験による共感が可能になった」という点です。

 

マーケティングの場面で最も重要なのは、利用するユーザーが何をどのように使うか、そのときの心理状態はどういったものであるかを、ユーザーと共感し、その心理に則したものを作るという点にあります。

言い換えると、脳内で「自分たちがターゲットにする人は、きっとこういう気持ちで、こういうことを経験し、そこでこんなことがこの製品で起きたら、こんな風につながるな・・・」というようにイメージできることで、彼らが何を望んでいるかを共感し、いいものをつくることができるようになります。

 

「モノづくり×アプリ」という分野は、こうした作業を多くの人達が単なるアプリよりも遥かに行いやすくなった点に、ポイントがあります。

 

PCを操作したり、スマホを触ったりしている以外の時間、例えば帰宅して電気を付けて、エアコンを入れて服を着替える。シャワーを浴びて、食事の準備をして・・・こうした多くの場面が、「モノづくり×アプリ」の対象となってきます。

例えば有名なのは、既に米国で100万台以上の製品を出荷し、累計で8000万ドル(日本円で約80億円)以上を調達しているNEST社。同社のデバイスは、簡単な温度センサーとiPhoneを組み合わせることによって、一日中部屋の温度を生活リズムに合わせて快適にコントロールしてくれます。

NEST社の製品紹介動画

この製品は、これまでスマホアプリ単体では対象にならなかった、自宅での一日のエアコンのコントロールをどうするか?といったことが、開発上での追体験の対象となり、「消費者はいつも、どんな風にエアコンを使い、快適な日常とエネルギーの節約を考えているだろう・・・」というイマジネーションが必要とされました。

 

このように、自分が一日を通して体験すること、他の人が一日の中で体験することのほぼ全てが追体験の対象となり、製品開発のヒントへと拡がることが、「モノづくり×アプリ」の勃興する第三の心理的要因と言えるでしょう。

 

4.ケーススタディ:「モノづくり×アプリ」に魅せられた男

ここまでにご紹介した3つの心理的要因によって、「モノづくり×アプリ」の世界には、日本でも続々と、それまでのキャリアを捨てて、このフィールドにチャレンジする人たちが増えてきています。

 

ここではその1例として、戦略コンサルに勤務、その後外資系メーカーでのマーケティング職を経て、そこから裸一環、「モノづくり×アプリ」の世界に無謀にも(?)飛び込んだ方の実例をご紹介したいと思います。

ご紹介するのは、高萩昭範氏。彼は、大学卒業後、A.Tカーニー、メルセデスベンツ日本株式会社を経て、Moffという、腕に付けた加速度センサーとiPhoneが連動して、子供が剣を振り回したりして遊ぶときに、iPhoneから連動して様々な音が出るというおもちゃを開発しています。

そんな彼に、どうしてこうした道に入るようになったか、どのようなことを感じ、考えて取り組んでいるかを、聞いてみました。

 

「Q:ものづくり×アプリが面白いな〜、と初めて感じたときの経験を教えてください」

Takahagi

 

私達が作っているのはウェアラブルなスマートトイで「手にしたもの全て、自分の動き全てをおもちゃに変える」全く新しい概念のスマートトイです。ウェアラブル端末×アプリ×クラウドを連携させた「ものづくり×アプリ」なプロダクトといえます。

Moffの製品プロトタイプ:ネコの手が音を奏でる楽器に変身

父親が技術者であり、また私自身も元々メルセデス・ベンツ日本にて商品企画部の仕事をしていたこともあって「ものづくり」には大変興味がありました。ただ、自動車は一つのモデルを開発・生産・製造をするために多額のお金と人員と時間をかけていたことを目の当たりにしていたこともあって「ものづくり」をスタートアップでできるとは全く思っていませんでした。また、単なる「ものづくり」であれば既に優れた企業が数多ある状況でしたので大きなビジネスチャンスもなく、スタートアップが参入する余地がないと思い込んでいました。

 

そのような状況の中出会ったのがクリス・アンダーセンの書籍「Makers」です。書籍の中でオープン・ハードウェアの流れを知り新しいものづくりの可能性を感じました。そしてそれを実際に体験として感じたのは昨年1月大阪市が主催した「ものアプリハッカソン」への参加です。ハッカソンを通じて私が感じたことは、センサー×アプリ×クラウドを連携させることで、今までの画面UIを前提とした仮想空間・視覚中心のユーザー体験から、もっと人間に自然で・現実空間で・視覚以外に人間がもともと備わった他の感覚を活用した新しいユーザー体験が実現できるかも?ということです。

UdemoffMoffのプロトタイプ:手の動きを感じ取るセンサー 

私には元々画面を凝視して眼と指しか使わない画面中心のユーザーインターフェースやユーザー体験に疑問を感じていました。ハッカソンイベントを通じて、アプリのユーザー体験の接点にハードウェアおよびセンサーを使えば、画面ユーザーインターフェースに代わる新しいもっと人間の能力と感覚を使った心地の良いユーザー体験が実現できる可能性を感じました。今ではそれが確信に変わっています。

 

「Q:企業を辞めてMoffをやろうという決定には、どんな葛藤がありましたか?」

ものづくり×アプリの無限の可能性、そしてとても素晴らしい仲間との出会いもありMoffをやりたくてやりたくて本当にウズウズしていました。そうはいっても気になるのは家族の存在です。一昨年待望の子供を授かりました。産まれてきた子供の未来のために新しいユーザー体験を実現したい!という想いなのに、スタートアップを始めることでもしかすると家族を犠牲にするかもしれない・・・このような葛藤がありました。

 

「Q:ご家族の反応はどのようなものでしたか?」

家族について上記のような葛藤がある中、実は後押ししてくれたのはまた家族でした。妻は「やりたいことがやれなかったと後でウジウジ言われるくらいだったら挑戦してもらった方がいい!」と言ってくれました。これは本当に嬉しい一言でした。また、私の両親については、相談をする前から反対されるのでは?と1人で心配していました。そして思い切って相談したところ「お前が頑張りたいんだったら頑張ったらいい」と言ってくれました。この言葉も本当に嬉しかったです。

 

「Q:今の気持ちは?」 

スタートアップを立ち上げた今、かつての葛藤が嘘のように澄み切った心で日々邁進することができています。Moffは既に何回も子供達を対象にしたプロトタイプを使ったユーザーテストを実施しています。ユーザーテストの度に子供達が活き活きと笑顔で体を使いながらとても楽しそうに遊んでくれる姿を見ると本当に喜びがこみあげてきます。引っ込み事案で大人しい子が、Moffで遊べばはじけるような笑顔に変わって元気に遊んでくれる姿を見ると本当に嬉しいですよね。

 

「Q:助けて欲しいことは?」

そうですね。やはりハードウェアを作るということはどうしても「お金」がかかってしまいます。私達は既に試作品は完成し、基本技術について特許も出願し、展示・商談用のサンプルを工場と連携して制作中です。また、今年2月・3月はSXSW2014への展示を始め国内・海外にどんどんアピールしていきたいと思っています。しかしながらそのためにはまとまった資金がどうしても必要となります。資金的にはかなり苦しいやりくりをしている実情です。今後世界に売っていくためにもご支援が欲しいと思っています。

また、今年3月には海外のクラウドファンディングにプロジェクトを出品予定です。クラウドファンディングに向けて、事前のマーケティング活動、Webサイト・画像素材などのクリエイティブの制作、プロダクトの収益計算、出品手続きに向けた様々な作業などがあります。私達は少ない人数でスタートアップを切り盛りしています。日本のハードウェア・スタートアップが海外のクラウドファンディングに挑戦する軌跡を体験してみたい!という方がいらっしゃいましたらぜひ力を貸して欲しいです。よろしくお願いします!

 

いかがでしたでしょうか?

今回ご紹介したような心理的要因からも、今後益々発展とチャンスの広がりが期待される「モノづくり×アプリ」というフィールド。

もしも今、実際にハードに携わったり、あるいはこうしたハードを扱う人と組んでアプリを開発してみたいと思ったりしている方は、この高萩氏のように、そうしたフィールドにチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

それでは

【追記:2014年3月11日】

上記取材させていただいた高萩さんのMoffが、遂にキックスターターにて販売を開始しました!ぜひみなさま、下記リンクより購入してみてください。高萩さんのメッセージも閲覧することができます。

キックスターターでのMoffはこちら

▼【要因2】でご紹介したチクセントミハイ「フロー理論」に関する記事

http://blogs.itmedia.co.jp/yasuyasu1976/2011/11/post-66a9.html

▼「モノづくり×アプリ」に関する様々な仕掛けをするイノベーション大阪のページ

http://www.innovation-osaka.jp/ja/

▼ケーススタディに登場した高萩氏のMoffの詳細ページ

http://www.moff.mobi/jp/

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