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あなたはアイデアを物質と捉えるか?

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最近、会社の枠組みを超えて、様々なアイデアや考えを多様性溢れる人たちと議論したり、検討したりする機会が続いているのですが(その参加のため、ややもすれば、このブログの更新が遅れたりするのですが。。。)、こうした経験を通して「アイデア」というものをどう捉えるのか、その点における社会の価値観が、大きく変化しつつあるなと感じ、その点について今回は考えてみたいと思います。

■今回の要旨
*社会の状況は、二者択一の考え方の「重心」がどちらにあるかで記述できる
*アイデアを物質として捉えるかどうかという二者択一の考え方がある
*この二者択一の葉境は「アイデアの陳腐化への見立て」と「アイデアの進化可能性」で決まる
*アイデアを物質として捉えない考え方、「アイデア進化派」が増加しつつあり、それによって社会が変わりつつある

■二者択一の価値観で社会が表現できる
様々な価値観の中には、二者択一を迫る判断基準、人によって異なる判断基準があります。例えば、「独断専行でスピード重視でつっぱしる」のか「一人ですべてを抱えずに周囲を巻き込んで進める」のかは、人によって判断が違ってくるかと思います。

こうしたことを捉えるとき、社会の状況を表現するのであれば、どの考え方が正しいのかではなく、どの考え方により「重心」があるか?言い換えれば、どの考え方を大多数の人が直感的にとっているか、ということが言えるかと思います。

例えば、「スピードを重視」するのか「調整調和を重視」するのかを二者択一で取るのであれば、

社会A 「スピードを重視」:「調整調和を重視」=70%:30%
社会B 「スピードを重視」:「調整調和を重視」=20%:80%

とした場合、社会Aはスピードを重視して、個人個人が個別にカチカチと動いているような社会、社会Bは調整調和を重視するので、歩みはゆっくりで、多くの人同士が会話をしているというような社会になり、社会全体の個性が見えてきます。

■アイデアに関する二者択一の価値観
こうした「重心」をベースにして社会を捉えるとき、最近大きく日本、世界でその「重心」の位置が変わりだしている要素が、

「アイデアをどう捉えるか?」

についての重心です。それは、端的に以下の問いに置き換えられます。

「アイデアは人と差別化をするためのエッセンスであり、その秘密がバレないように表面にコーティングをし、財産として保持し続けようとすべき」

VS

「アイデアは置いておくとどんどん陳腐化するが、世に出して他の人のアイデアと掛け合わせると、そこからさらに新しいアイデアが生まれるので、世の中に表出させ、手放し、進化させていくべき」

この2つの考え方をそれぞれ、「アイデア物質派」「アイデア進化派」と呼ぶことにします。

この二者択一の内容について考えるときに、いきなり比率について考える前に、それぞれの派閥の具体的なイメージ、それから両者の境目がどのあたりにあるかについて、少し詳しく見てみましょう。

「アイデア物質派」
これは、物質を扱うのと同じメタファーで、アイデアを扱うものです。例えばですが、アイデアは、それを知っていて使うことができる人が少ないほど、他と差別化し、自分を優位に導くことができる。それは、他の人が持っていないよう高性能な車を持っていて、それを運転することで圧倒的なスピードを手にいれたり、より遠くまで楽に移動することができるようになるのに近い。逆に、他の人が同じような車をみんな手に入れるようになると、他の人と同じスピードでしか目的地にたどり着けないので、優位性は失われてしまう。
保持し、同じアイデアの所有者が少なければ少ないほど、そのアイデアが効果を発揮することができる。なので、なるべく他の人が入手できないように、アイデアに名前を付け、もっともらしい経歴書を付け加え、「知的財産」という名前を付け、他人が無断でそのアイデアを行使できないようにプロテクトする、これこそが、アイデア物質派の本懐です。

「アイデア進化派」
一方、アイデア進化派は、アイデアがどれだけ行使しても、すり減るものではなく、アイデアが多くの人に知られ、他のアイデアとクロスすることで、さらに新しいアイデアが生まれ、そこから生まれた行動、アイデアの行使こそが、よりよい、よりエキサイティングな結果を導くことを信じています。
手放し、多くの人にさらけ出し、そこで出会い、形を変えていくほど、そのアイデアが効果を発揮することができる。なので、なるべく他の人が入手できるように、アイデアを括弧とした名前付けと定型化をせず、そのアイデアを他の人と交換したり、出会わせたりする機会を探り、「コラボレーション」「ミートアップ」「茶飲み話」、、、という様々な場に名前を付け、アイデアが自分自身を離れ、次々と変化し進化できるように環境を整える、これこそが、アイデア進化派の本懐です。

■2つの派の葉境となる見立て
さて、こうしたとき、2つの派閥で見解が異なるのは、下記の2点です。

陳腐化スピードの見立て:アイデアは時間とともにどのくらい速く陳腐化するのか?
進化可能性の見立て:アイデアは他の人/他のアイデアと交わることでどれくらい進化するのか?

アイデア物質派の感覚は、「陳腐化スピードは遅く、優れたアイデアであれば10年単位で価値を発揮できる」と思い、「完成されたアイデアであれば、それ以上人と交わったり、考えても大した進化はしない」と思っています。

アイデア進化派の感覚は、「陳腐化スピードは速く、かつ最近どんどん加速しており、優れたアイデアでも数ヶ月、そうでないアイデアなど数日で価値を失うかすでに価値を持っていなかったりするかというところだ」と思い、「アイデアは、他のアイデアと掛け合わせたり、他の人に晒していったりすると、自分が想像もつかなかったような、凄い進化を遂げることがある」と思っています。

■少しずつ増加している「アイデア進化派」
こうした確認の上で、先ほどの「アイデア物質派」VS「アイデア進化派」ですが、私が直接知っている世界観の中でいうと、

*10年前: 「アイデア物質派」:「アイデア進化派」=98%:2%
*現在: 「アイデア物質派」:「アイデア進化派」=95%:5%

といったところでしょうか。

「アイデア進化派」はもっと多いんじゃないの?という声も聞こえてきそうですが、断固としてせいぜい上記の割合かと思います。そう、この派閥の重要な点は、冒頭で述べた「直感的にどっちを行動として選んでいるか?」ということなのです。

もちろん、「アイデア物質派」と「アイデア進化派」、文字面を読んで、どっちがこれからの世の中で良さそうか?と聞かれたら、おそらく70%以上の人が「アイデア進化派」の方がいいと答えるのではないかと思いますが、実際に行動レベルで見ていくと、アイデア交換をする機会を作り出し、行っている人よりも、アイデアを保持し、それを形にし、行使するタイプの人の割合の方が、はるかに多いという実感が、この数字を提示する源泉となっています。

具体的テストをしてみましょう。

例えば、

「本業で取り組んでいるアイデアを拡大するために、社内外の人を巻き込んだブレスト(あるいはそれに類似するもの)を企画し、実施したことがあります?」

どうでしょうか。こういう企画、実際にやろうとしてみると、「それだと、会社の秘密をオープンにするリスクがある」「規定に反する」と、もっともらしい顔をしてトライしない「古典的アイデア物質派」に出くわすことが多いです。

ですが一方で、10年前と比べて「アイデア進化派」が2%→5%と増えてきたという、その3%はどこにあるのでしょうか。それは、オープンソースでソフトウェアを開発したり、技術をそこで道場破りのように交換し合う行動に携わる人たちの増加にあります。

シリコンバレーはもとより、日本でも多くの友人がこのタイプにあてはまるのですが、彼らの最大の特徴は、とにかく外部での会合や勉強会、ミートアップと呼ばれる特定の製品やテーマでの集まりなどに積極的に参加し、そこでアイデアやプログラミングの手法などを交換しあい、お互いの腕や新しいビジネスのアイデアを醸成していく点にあります。

こうした環境の場合、先ほどの2つの派を決定づける「見たて」でいくと、

「陳腐化のスピード」:プログラミング/技術の変遷は極めて速く、古い技術のままではあっという間に取り残されてしまう。特に、新しい技術トレンドが出現したり、Facebookなどの新しいプラットフォームが出てきたときに、そこへの対応などが遅れてしまうと、致命的になってしまう。

「進化可能性の見たて」:複数のプログラムを組み合わせて1つのシステムをつくったり、他の技術を押さえている人と交流することで新たなものを作り出す経験値が高く、若き日にはそもそもそうしたコミュニティの中で育ててもらった体験を持ち合わせており、人と交わることでの進化に楽観的な見立てをしている。

といったように、「アイデア進化派」の立場をとる要件をしっかりと満たしています。

そして、こうしたソフトウェア、プログラミングが、経済の中でも重要な地位を占めてきている現在の趨勢に伴って、このような「アイデア進化派」の社会における割合が、周辺の業態への浸食も含めて、増加しています。

こうして、特定の業界やコミュニティに所属する人の中での「アイデア進化派」割合が高まる一方で、他の業界やコミュニティでは相変わらず「アイデア物質派」の割合が残ることにより、同じ世代の中であっても、2つの派閥の存在割合が、企業や業態、コミュニティその他様々な切り分けの中で大きく異なり、そこにデバイド(格差)が発生するという状況が今まさに出現しつつあります。

このデバイドが発生することにより、さまざまなうねりや混乱、そして新たな社会構造が誕生していくものと思われますが、あなたはその流れにどのように関わっていくことになるでしょうか?

最後に、現時点でどちらの派閥に所属しているかをチェックするテストを制作してみましたので、ご参考に試してみていただければと思います。

それでは

「アイデア物質派」VS「アイデア進化派」チェックテスト

*自分のアイデアや課題を表明し、直接的に仕事で関わっている以外の人たちに対し、その進化や解決を依頼したことがあるか?YES/NO
*直接的な業務上の関わりのない他の人や会社から、アイデアや課題の検討への協力や参画を求められ、参画したことがあるか?YES/NO
*自分が日々どのような分野に興味関心があるか、どのようなことを考えているかを、直接的に業務上で関わりのある人以外にも露出し、認知してもらうための行動をとっているか?YES/NO
*業務上、契約上の守秘内容をプロテクトしながら、直接的に仕事で関わっていない人たちからアイデアをもらうために必要な法律上、管理上の手だてを知っているか?YES/NO
*業務上、契約上の守秘内容をプロテクトするという観点で参加をしぶる相手を説得し、工夫し、参加させたことはあるか?YES/NO

→上記内容で、YESが2つ以下なら「アイデア物質派」、YESが3つ以上あれば「アイデア進化派」と言えるかもしれません。繰り返しになりますが、この派はあくまで、行動レベルでの区切りと定義しています。

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Comment(2)

コメント

ardbeg32

なぜ物質派が優位なのかと考えると、究極自分が、自分だけが儲かりたいからではないかと思うのですが如何でしょうか?
逆にLINUXやOPENOFFICEでも問題化してますが、公開してもパトロン不在では息切れしてしまう。
そう考えると、公開しても発明者(社)はきちんと儲かり、利用者は安価に利用でき、儲かった人はきちんと社会還元(パトロン)することで、アイデアの延命が出来る、なんて仕組みが出来ないかなと夢想します。
そうでないと、資本主義下ではいつまで経っても物質派の優位は変わらないかと。

>ardbeg32さん
コメントありがとうございます、吉沢です。そうなんですよね、金銭面での儲けをある程度確保する仕組みがないと、物質派側に社会がステイする要因が強くなるかと思います。ですが一方で、トフラーが「富の未来」で指摘しているように、現代の社会で、特に知識を中心とした社会では、以前に比べてはるかに小さなコストで事をなすことが可能になってきているので、物質派にとどまるインセンティブが低くなってきているということもあるかと思います。ちなみに、こういう場面で、思いきって物質派を手放す企業が出てくると、とてもインパクトがあるかと思う次第です。

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