ジャックと豆の木の隠された意図:「物語」を新しいマネジメント理論で活かす方法とは?
前職にて組織変革/人材開発をメインとしたコンサルティングに携わっていた時代、この業界でトップクラスの方々を集めた勉強会に参加したり、海外のカンファレンスなどで情報を集めたいた時代、本当に様々なことを吸収する機会に恵まれていましたが、その中でも最もインパクトがあり、実際の業務でも極めて役立った要素の1つに、「物語」というものがあります。
今回は、この「物語」に隠されたとてつもない価値について、ご紹介したいと思います。
■今回の要旨
*物語の裏には、様々な人生訓が隠されている
*心に残る物語の裏にある人生訓こそ、自分の大切にしている価値観である
*物語を使って自分の大切にしている価値観を浮き彫りにする具体的な方法紹介
■物語の裏に隠された真理
まず、物語はそもそもどのような目的で生まれ、数千年も前から人類の中で伝承されたり、新たに生み出されたりしたのでしょうか?
この答えは、「自分たちの子孫が繁栄するために、残しておくべき人生訓を、最も効率的に伝達するため」だと言われています。
例えばなのですが、ジャックと豆の木、という物語があります。
この物語、どのような内容だったか、覚えていらっしゃいますか?
ジャックと豆の木の要旨は、こんな感じです。
1:貧しい家で母親とふたりぐらしのジャックは乳牛で生計をたてていた
2:そして、とうとうその牛を売らなければならなくなり、ジャックは町へ
3:ところが、ジャックは魔法の豆と牛を交換しようと言われ、牛を手放す
4:それを聞いた母は嘆き悲しみ豆を投げ捨て、ジャックを部屋に追いやる
5:翌朝、大きな木が育ち、空まで伸びている
6:ジャックがそれを上ると、巨人の住む家にたどり着く
7:人間を食べる巨人から危うく逃れ、巨人の隠している黄金を持ち帰る
8:その後、お金が尽きるとまた木を登り、巨人の宝をいくつか奪う
9:最後に巨人に追いかけられ、ジャックは豆の木を切り落とし、巨人は死ぬ
さて、この物語での1つの人生訓は、例えば以下のような点です。
「3」の行動は、お金に困っているのに、普通に売却せずに魔法の豆などという怪しげな、だけれどもひょっとしたらという可能性を感じさせるものへと交換するという、「大多数の人は取らない行動を、インスピレーションに従ってとる」ということをしています。
その結果、すぐにハッピーが訪れるのではなく、「4」にあるような迫害、孤独を引き起こします。
ですが、このインスピレーションに従った、他の人がしないようなことをすることで、「5」のステップ以降で新たな可能性が切り開かれていくわけです。
このように、ジャックと豆の木では、「人生で創造的なことに取り組むときには、他の大勢がやらないことであっても、インスピレーションに従って行動をするのがよい」という人生訓が、物語を使って暗黙裏に伝えられているわけです。
これは、小さい子供に何かを言い聞かせるときに、直接何かを伝えても直感的に伝わらないから、親が比喩やたとえ話をして言って聞かせるといった行動の延長線上にあり、それが何世代にわたって口述され、ブラッシュアップされることで物語が生まれてきたと想像すると、とても自然なことのように思われます。
■近年のマネジメント理論では「価値観」は極めて重要な意味を持つ
さて、ここから「物語」がどのようにビジネスの世界で重要な意味を持つかという点ですが、そこには、マネジメントの世界でここ10年程でかなりポピュラーになってきた
「人の強みと価値観はその人それぞれに固有であり、その強み/価値観を互いに把握し、活かすことでパフォーマンスを上げることができる」
という考え方が関係してきます。
これをまとめると、大きくは以下の2つとなります。
1:社員一人一人の価値観の可視化:
どのような物語が響くのかということ把握したり、自分の仕事を自分自身で物語化して語ってもらい、互いの価値観とそれに付随する強みを可視化し、よき組み合わせが自分たち同士でできるようにする
2:自社の価値観の可視化:
自社の大切な価値観について、その企業での実際のプロジェクトや、過去の営みそのものを物語化し、より理解しやすいものとし、社員への共有を加速させる
今回は特に、1つ目の項目が、話の中心となります。
■響く物語の裏には、自分自身の持つ価値観がある
まず、人の価値観そのものが本当に様々だという前提を理解するために、下記の内容に賛同できるかどうか、考えてみてください。
「戦国時代の有名な武将である武田信玄の信条は”戦う前に勝利を確定させよ”というものであり、実際の戦闘が始まる前に出来る限りの準備をしておくことを大切にした」
さて、あなたは、この考え方に同意できますか?
この考え方、「準備をすることが大切である」という価値観の反映とも言えるものなのですが、私がこれまで聞いてきた経験でいくと、見事に好き嫌いが半々に分かれます。そして、この考えが響かない人たちの特徴は「物事は、実際にやっているときにどう対応するかが大切である」というものなのです。
このように、人によって響く中身、価値観は、見事に違ってきます。
そして、上記で試してみていただいたように、自分がどのような価値観を持っているかを確認するためには、「あなたは○○ということを大切にしていますか?」と聞かれるよりも、実際に情景が思い浮かぶようなことを想像し、その響き度合いを確認する方が、効果的です。
この「情景が思い浮かぶことを想像して価値観を確認する」という手法の中で、最も強力な方法こそが、「物語」による確認となります。
言い換えれば、「これまで観てきた映画や物語の中で、最も自分に響いたものを1つ2つ挙げるとしたら、何になりますか?」という質問こそが、その人の価値観に迫るための、最も強力な手段のひとつとなるわけです。
最も響く物語が持っている「人生訓」こそが、その人の「価値観」を如実に反映していることになるのです。
■物語を使って価値観を浮かび上がらせるための具体的な方法
では、具体的にこれをどのように進めるかですが、手順は下記の通りとなります。
1:まず2人1組となり、聞き手と話し手を決めます。話し手の方が、価値観を洗い出される対象者、ということになります。
2:1つ目の質問を聞き手が投げかけ、話し手が回答します:「あなたの気持ちに響いた物語を1つ2つ挙げるとしたら、どんなものがありますか?」
3:2つ目の質問を聞き手が投げかけ、話し手が回答します:「その物語の中で、特に自分の印象に残っていることを教えてください」
4:3つ目の質問を聞き手が投げかけ、話し手が回答します:「その内容って、あなたのどんな価値観につながっていると思いますか?」
5:聞き手は、上記で聞いた内容についてA4の紙などに簡単に記録します
6:聞き手と話し手を交代して、同じことをします
7:ふたりともこれが終わったら、お互いの結果を記録した紙を手元に持ち、そこに書いた価値観について、日々の仕事などを交えて確認をし合ってみます
以上のステップを行なうと、その二人の間では、お互いの価値観が非常に鮮明に共有され、その後の仕事でパートナーシップを組むときなどに、例えば「あいつは準備周到さを、俺はその場での即興性を、それぞれ大切にしていて、得意でもあるから、交渉の場面などでは、事前準備はあいつが、その場でのやりとりは俺が、それぞれ中心になるのがよさそう」など、飛躍的に仕事がやりやすくなります。
もしご興味がありましたら、ぜひとも職場の同僚、特に、これまで仕事を一緒にやってきた共有経験の多い方を巻き込んで、お試しください。きっと、お互いについての新たな発見があることかと思います。
なお、この内容にさらに興味のある方は、下記の書籍2冊がお勧めです。
クリエイティヴ脚本術―神話学・心理学的アプローチによる物語創作のメソッド
物語が持つ構造などについて、詳細に解説された書籍です。上記のジャックと豆の木の事例なども紹介されており、物語の持つ効用や、有名な物語が持つ構造、それを解き分けるフレームなどについて深く知ることができます。
最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと
この記事でご紹介した、「強み」「価値観」をマネジメントにどのように活かすかを解説した良書です。
また、この記事に関連性が高い、過去の記事として強みについてその2~鳥と魚が一緒に泳ぐ~、という記事がお勧めです。こちらでは、「人によって価値観や強みが大きく異なる」ということが、具体的にどんなことなのか、かつての私と同僚とのやりとりを事例として、詳しく紹介しています。「本当にそんなに人によって価値観は違うもの?」と、ぴんとこない方には特にお勧めのエントリーです。
それでは
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