コンピューターと人間の新しい関係

文科系のための人工知能入門 "第3回" 人工知能をめぐる都市伝説 〜なぜ誤解は生まれるのか?~

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本屋さんに行くとタイトルにAIと入った本が平積みされ、新聞でも連日AI関連の記事を見かけます。豊富な情報は諸刃の剣、中にはSFと現実を混同した都市伝説的なものもあり、文系人間を迷わせていると筆者は感じています。人工知能を正しく理解するためには、この都市伝説の霧を晴らす必要があります。

多くの都市伝説を生んでるのがこの二つの誤解

  • ディープラーニングへの誤解
  • 人工知能の将来展望への誤解

ディープラーニングへの誤解

前回もお話ししましたがディープラーニングは機械学習の一つの手法です。その高い精度と適用範囲の広さが注目を浴び、現在の人工知能ブームを支える一つの柱になっています。ただ基本的に出来ることは他の機械学習と同じです。SFの世界のようなあっと驚く特別なことができるわけではありません。

(1)"ディープラーニング"という名前が生む誤解

ディープラーニング(日本語では深層学習)という名前から『人類をも超えるすっごい深い考えが出来る』という都市伝説が生まれます。

実際は
ディープラーニングはその内部構造が多層になっているのでディープという名前が付いています。色気の無い呼び方すると多層式学習。この構造が従来の機械学習では実現出来なかった高い精度を実現しているのはすごいことです。しかし精度の差はあれ出来ることは他の機械学習と同じです。ロダンの考える人のように深く考えているわけではありません。

(2)"囲碁名人に勝った"が生む誤解

昨年人工知能が囲碁名人を破ったというニュースはご存知の方も多いと思います。囲碁名人を破ったGoogleのAlphaGoはディープラーニングを使っています。ここから『囲碁名人に勝ったディープラーニングは人類の知能を超えた』という都市伝説が生まれます。

実際は
まず、鉄腕アトムみたいなロボットが「よし、囲碁名人に挑戦だ」と思い立って囲碁をやり始めて独力で成長して囲碁名人に勝ったわけではありません。
AlphaGoはコンピューター囲碁で従来から使われていたモンテカルロ法という手法に、ディープラーニングを加えた合わせ技の作りになっています。この合わせ技で、碁盤のどこに石を置けば勝利に近づくかという選択をしているのです。ディープラーニングを使ったことによるレベルアップは目をみはるものがあり勝利の大きな要因になっていますが、あくまで勝利のための道具の一つにすぎません。[*1],[*2]
AlphaGoの勝利の意義は従来のコンピューター囲碁に汎用的なディープラーニングの手法を取り入れる仕組みを人間が作り囲碁名人に勝利したことにあります。

(3)"脳と同じ仕組み"が生む誤解

ディープラーニングの説明で「人間の脳の仕組みを模した」という言い方をよく聞きます。ここから『人間の脳と同じ仕組みだから人間と同じことができる』という都市伝説が生まれます。

実際は
脳はニューロンとシナプスで構成されています。この仕組みを模した作りなのがディープラーニング。あくまで構成部品を模しているだけで、脳と同じ仕組みではありません。
そもそも脳の仕組みはまだ謎だらけです、解明されていないものを模すことはできません
一例を上げると人類はまだ脳の配線図さえ手に入れていません。
脳は1000億個のニューロンと160兆に及ぶであろうシナプスから構成されています。現在までの研究の脳の機能を生んでいるのは個別要素ではなくニューロンとシナプスで構成されたネットワークであるとされています。[*3]この脳のネットワーク配線図はコネクトームと呼ばれており、まだ解明されていません(人類が完全な配線図を手に入れることができるのは今世紀末と言われています)。[*4]
この他にも脳、知能、意識についてはその仕組み解明のため様々な分野からのアプローチが行われていますが、解明にはまだまだ長い道のりがあります。

(4)"特徴抽出"が生む誤解

ディープラーニングの説明で「特徴抽出をコンピューターが行う」という言い方をよく聞きます。これを聞いて『私の性格や好みも人工知能に把握される時代になった』という都市伝説が生まれます。

実際は
ここで言われている"特徴"はあなたの性格とか好きな野球チームとかではありません。
"特徴"とは分類するために必要な情報のことです。例えば写真に人間が写ってるかを判断する場合に、写真データから人間を識別するために必要な特徴量を取り出すことを特徴抽出と言います[*5]。
従来は特徴量抽出の前処理を人間が行うのが普通でした。ディープラーニングの場合ケースによってはこの前処理をしなくても分類ができるという事実を「特徴量抽出をコンピューターが行う」と言ってます。これはすごいことなのですが、あくまでデータの扱いのお話で、あなたの性格、好みを見抜くなんてことはありません

次回予告

人工知能の世界では擬人化した表現など、誤解しやすい表現が使われることが多いので気を付けましょう。さて、次回は都市伝説を生むもう一つの、そして最大の誤解について記します。

次回:人工知能の将来展望への誤解 

〜シンギュラリティーって何ですか?〜

(参考資料)
*1:越境するコンピューター 〜日記〜 囲碁とコンピューター
http://kenshi18.hatenablog.com/entry/2016/03/17/093612
*2:Mastering the game of Go with deep neural networks and tree search
http://www.nature.com/nature/journal/v529/n7587/abs/nature16961_ja.html?lang=ja
3:意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論
https://goo.gl/kaJryC
4:コネクトーム:脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか
https://goo.gl/U95ozI
5:フリーソフトでつくる音声認識システム
https://goo.gl/M4HY49

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