「反骨精神を持ってほしい」という先輩の声。
ここのところ、OJT担当者向けのフォローアップ研修が続いています。6月~8月くらいに配属された新入社員(など若手)を指導中のOJT担当者は、そろそろ「あれこれの成功事例」を持っていたり、「困った、困った」と悩みを抱えたりする時期です。
早いところ(短いところ)で、OJT期間は、12月末まで、あるいは、3月末まで。 気づきを共有したり、今後に向けて、立て直しをしたりするには、ちょうどこの秋ごろがふさわしいわけです。
ですから、研修というっても、講義をするというよりは、経験の棚卸と共有と議論と気づきの醸成と新たな活動計画の立案といったワークショップ型となり、私は、講師というよりは、ファシリテータをしている感じです。
そういうフォローアップのワークショップでいろいろな現場の声を聴くことができます。
最近では、「新人に反骨精神を持ってほしいんだよね」という声でした。
先輩や上司が何を言っても、”素直”に聴く。「はい」「はい」「わかりました」「はい」「わかりました」と何でも「Yes」と言ってしまう。素直に聴く、というよりも、素直に聴きすぎる。
若いんだから、もっと反骨精神を持って、上司や先輩に反論してもいいのに、大丈夫なのかな?という訳です。
ちょっと面白いな、と思ったので、私が突っ込んでみました。
「つい最近、こういう例を耳にしましたよ。先輩や上司が何を言っても、全部反論する。新人のほうが間違っている、勘違いしていても、”いや、ボクは、これでいいと思う”と言い張る。仮にエラーが出ているような状況で間違いを指摘しても、”これは、ボクの操作が悪いのではなく、もともとの設定がおかしかったから”と言い、決して間違いや勘違いを認めない。どこまでも頑固で、上司まで呆れて、困り果てている。どうしたら、もっと素直に話を聞いてくれるのだろう、というのですが、そういう”反骨”はいかがですか?」
「それは、嫌だなぁー」
「じゃ、どういう反骨を?」
「自分の考えや意見をもっと前面に出してほしいんですよね。素直すぎて、今後がシンパイで」
「では、もう一つ伺いますけれど、みなさんが新人のころ、11月時点で、反骨精神を持っていて、しかも、それを上司や先輩にぶつけていました?」
「・・・・・・・」(全員で顔を見合わせる)
「いかがです? 私ははっきり記憶ありますが、1年は少なくとも大人しくしていました。心では反骨?というか、反発を感じたこともありました。でも、まだ自分に実力もないし、知識や技術も、はたまた、仕事での実績も上げていないのに、ナマイキなことを言う立場じゃないな、と思っていたからです。 反骨精神はあっても、表現しない、という感じだったのが、自分の1年目の記憶ですが、いかがです?」
「そういえば、はっきりとリーダーに食って掛かったのって、3年目だったな、オレ」
「そういわれてみれば、面と向かっては言えなかったか」
「でしょうー? でしょー? ですからね、新入社員にそれを求めるのは酷かもしれませんよ。第一、反骨精神を前面に出して、何か新人が訴えたら、先輩たちは、たいていの場合、ナマイキだ、めんどくさいと思うことも有るでしょう? それより、まずは、素直に人の話を聞けと言ったり。バランスが難しいんです」
「でも、それでもやはり、素直すぎるのはよくないと思うんですよね」
「それもわかります。皆さんが新人に求めているのは、”自分の考えを持ち、上司や先輩の言うことをうのみにせず、もし、間違っていたり、疑問に感じたりしたら、なんでも<はい>と返事するのではなく、こう思うけどどうですか?と表明してほしい”ということなんでは? それを反骨精神と言っている・・・。」
「ですね」
「じゃあ、それを新人に伝えてますか? 上司や先輩の言うことに納得がいかない場合は、質問してもいいし、意見を言ってもいいし、そのために、いつも自分で考えてご覧、的なことを。言ってもいいんだ、って伝えてます?」
「あ、それは、言ってない、かも。」
「新人は、空気読んで、年長者の顔色見て、心では反発を感じても、ここはひとつ、大人しく、とか、自分が意見言える状況まで、と思っていて、でも、考えてないわけじゃなくて、いろんなことを考えてはいるんですよ、たいていの場合。だから、表現してほしい、表現してもいいよ、ということをまずは教えてあげてはいかがでしょう?」
「そうか、そりゃそーですね」
・・・・・。
といった会話を交わしました。
新入社員たちの中に入ると、案外、先輩のことをあれこれ評価?というか、評論していたりします。
「僕たちはプレゼンをたくさん習って練習したけど、配属されたら先輩たちのプレゼン、下手でびっくりした!」なんてことも話していたりします。
「理不尽だなあ、と思うこともあるけど、まだぺーぺーなので、今は我慢というか、黙っていて、でも、何か言うためには実力つけないととも思うんです」なんてことも言うことがあります。
どうあってほしい、という希望、期待が上司や先輩側にあるのであれば、それは言葉でまず伝えていけばよいと思うのです。
伝えたからって、全員が、意見を言ったり、自分の考えをいつもまとめたりするものではないですが、「●●をしてもいいんだよ」「●●をしてほしいんだ」ということは伝えておく必要があるのではないかな、と。 「親ごころ」なんて、以心伝心なんてことありえない。 「こういう気持ちであなたの成長支援をしているのだ」ということは、言葉で伝え続けなければ相手にはわからないものです。(言葉で言ったところで、1回では伝わりませんけれども)
ところで、OJT担当者のフォローアップのワークショップに参加していると、「みんな悩んで大きくなったー」という、昭和なCMのコピーをつい思い出します。
新人や若手という「指導される側」ももちろん、悩んで大きくなるのだけれど、「指導する側」もうんと悩んで大きくなるのですよね。
そこが、職場で人を育てることの面白さな気がします。