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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

もう水に流してもいいんじゃないか。「俺たちの頃は誰も丁寧に教えてくれなかった」という過去は。

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私が企業のOJT支援を始めたのは2003年です。その頃から業界問わずに「OJT制度」というのがぼこぼこと誕生し始めたように思います。若手をきちんと育てないと、この「多様化する時代」「ものすごいスピードで世の中が動く時代」「リスク管理が以前よりももっと大変になってきた現代」において、新入社員をのんびりと育てている余裕がなくなってきたからです。

「OJT制度」が生まれてきたのは、「人間の本質は何十年も前からさして変化していない」のに「新入社員(若手社員)に求められるものは、すごーく変化した」という、その”差分”を埋めなければならない、というニーズが背景にあるのであって、決して世に言われる「ゆとり世代がどーしたこーした」ということが要因ではないのであります。

2003年ごろからこういう企業の「OJT制度」が発足し、いまだなくなることなく、導入する企業の方が増えているというのは、この「OJT」がとても大事だし、結果的には若手の早期立ち上げに役立ったり、あるいは、メンタル不全を予防したり、はたまた離職率を下げたりすることが体験的にわかってきたからでもありますし、実は、「教えている側」「指導している側」もうーんと成長するんだな!と実感している組織が多いからでもあるでしょう。

こういう制度が発足当初というのは、以前も書きましたが、とにかく荒れます。「反対意見続出」という企業が多いものです。

だいたい、何か新しいことをしようとすると、それがどういう種類の、どういう性質のものであっても人は大なり小なりなんとなく「抵抗」を示すものですが、「OJT制度導入」というのは、私が経験した中でもかなりの嵐を呼ぶイベントではありました。

ですから、「OJT制度の説明会」だとか「OJTトレーナー向けの研修」だとか「管理職向けの意識づけセミナー」といった場面では、よく、こういった声が聞こえたものです。

「俺たちが若いことは、こんな手厚い制度はなかった。でも、俺たちは上司やせパイの背中を見ながら必死に食らいついて育ってきた」
「どうして今の若者はこんなに丁寧に親切に育てないとダメなのか。甘いのではないか」
「新人なんてほっといても育つし、育たないような新人なんて、うちの部署にはいらん」
「私たちは、自分で仕事を見つけて、勉強して、努力してきましたが、今の若手は、先輩がついてあげないとダメなんですか?」

・・・・枚挙にいとまがないほどの嵐。

しかし、こういう制度も導入後3年の経てば、たいていは、「案外いいものだね」「自分のためにもなった」「新人が育つのを見ていると楽しい」「自分もまた初心に戻り、モチベーションが上がった」「指導している先輩たちが、上司の目からもイキイキしだした」「結果として、全員が成長した」・・・という体験を経て、「この制度はいいから継続しよう。もっとみんなで力を合わせて組織的に人を育てよう」と言う風に変わってくるものです。

ようやく安定稼働・・というのが制度発足から3年目くらいでしょうか。

しかし、やはり、今でも、「なんで新人をこんなに手厚く育てないといけないの?根性がないの?甘いんじゃないの?」とおっしゃる方もいなくもなく。

たいていは40代後半以上の年代です。私と同年代以上ですね。

うーん、気持ちは分かる。きもちはわかう。キモチはワカル。

でも20年(以上)前の自分たちの状況と今、働く若者を取り巻く環境って全然違うんですよね。

だから、「20年前、僕たちは育ててもらえなかった」ということはそれはそれとして、もういい加減に水に流してもいいんじゃないかと思うのです。

20年前、一人の新入社員の愚痴が全世界を駆け巡ることはあっただろうか?
20年前、一人の新入社員が大量の資格取得や広範囲の技術の習得を求められただろうか?

・・・・・色んなことが変わってきています。

昔は昔。今は今。 これは、決して若者が「なっとらん」からではないのです。(いや、若者は、年長者から見れば、今も昔も「なっとらん」存在ではありますが)

だから、もう納得して育てることを楽しんでみたらよいと思うのです。案外、新入社員の育成って楽しいものです。

目の前で「色んなことがめきめきと上達していくさま」を観察できると、本当にヤリガイを感じます。自分だって、自分と全く違う他者と密に関わることで絶対に成長するわけですし。

過去のことは水に流して、今の若手ときちんと向き合っていこうじゃあーりませんか。


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ところで、若手育成に関する連載の4回目が昨日(7月24日火曜日)、公開されました。隔週火曜日の連載です。

こちらもどうぞよろしくお願いいたします。

●ITmediaエグゼクティブ 「田中淳子のあっぱれ上司!」
第4回 「どこまで褒めるか、どこから褒めるか

※「褒」という漢字、一見難しそうですが、実は、「衣」の上下を離して、間に「保」を挟むだけなんですよね。 「保」を「衣」で挟む。簡単、簡単♪

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