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ソフトウェア製品開発現場の視点

欠品を「前向きに」許容する戦略があるか

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本日配信されてきた日経ビジネスオンラインの記事の中で「ウォルマートの“見えない”強さ - 欠品を「前向きに」許容する戦略があるか」というタイトルが目に留まった。

記事の内容の中に、「ウォルマートに行くと商品が売り切れてしまった欠品がよく見られるが、それは管理がずさんだからではなく、利益を高くするために欠品をも許容している可能性がある」という説明がある。欠品があると、売り上げを上げる機会を失うが、もし欠品を減らすためには、在庫を増やす必要があり、在庫のコストが増える。そのバランスをとるための指標として、「許容欠品率」という指標があり、経営判断として決められているということだ。

一方、日本の小売りでは、欠品は許されないので、そもそも許容欠品率という考え方自体がないと書かれている。小売業には詳しくないため、日本の小売業がすべてそうかどうかはわからないが、この考えは、日本ではいろいろな場面で見ることができる。例えば、以下のような例を思いつく。

1. 電車の運行は正確で遅れはない
2. 銀行の ATM の現金がなくなることはない
3. 飛行機であずけたバッゲージがなくなることはない。なくなってもすぐに出てくる。

1. の電車の運行については、ウォルマートが電車を運行すると、「許容遅延率(時間)」を定義して、その許容度の中で電車を運行するにはどうすればよいかを考えるであろう。例えばそれを5分とすると、5分以内の遅れが出た場合は、その遅れを取り戻そうとするよりも、遅れが5分を超えないような対応をすることになる。

2. の ATM については、昨日ビッグサイトの「コミックマーケット」の会場で、ゆうちょ銀行の ATM の現金がなくなったことが話題になっていたので、取り上げてみた。銀行にとっては、ATM に現金を入れておくことは、収益に貢献しないので、できるだけ ATM に入れる現金の量を減らしたほうが良いはずである。それでも昨日のように ATM で現金がなくなったことがニュースになるということは、現金がなくなることがかなり「まれ」だからであろう。ウォルマート的考え方だと、ATM に現金を入れすぎているわけである。都会だと ATM などはコンビニも含めてそこら中にあるので、ある ATM の現金がなくなって困ることは非常にまれなはずである。ATM に入っている現金量はもっと減らして収益性を上げることを考えても良いと思うが、どうだろうか?

3. については、以前友人から聞いた話を思い出したので書いてみた。友人は、アメリカで飛行機に乗るときに預けた荷物がなくなり、問い合わせても紛失後2日目くらいまでは要領を得ない返事でどうなることかと思っていたが、3日目になったとたんに航空会社側から連絡があり、その日のうちに荷物が届いたということだった。この話を聞いて理解したのは以下のようなことであった。「荷物がなくなったとしても、ほとんどの場合、特別な対応をしなくても、システム上荷物は2日以内に自動的に持ち主のところに届く。したがって、担当者はあたふたせずに放っておく。ただ、3日目に入るとかなりまれなケースとなるので、人が介在して荷物を探し出して持ち主のところに届ける努力をする。そうすると多くの場合その日のうちに問題は解決する。」これによるコスト削減はどのくらいか分からないが、仮に紛失後2日以内に90%の荷物が持ち主のところに自動的に届くとすると、人が介在して探さなければならない荷物は、3日目に入った10%だけとなる。すなわち、荷物探しコストは 1/10 となるのである。


前にもブログに書いたが、遅れをゼロにする、欠品をゼロにするということを追求するとコストは無限大となる。どこまで完全でないことを許容するかは、その社会全体が決めることになると思うが、何もかも完璧でないと許さない社会は、その完璧のためのコストを払わされていることは、理解しておく必要がある。コスト削減が重要な要素であるならば、完璧を求めるのではなく、どこまで許容できるかという考え方を持つことが必要である。

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