ITにもあるアマチュア音とプロ音:刺激されて音楽ネタで!
★[永井千佳の音楽ブログ]を楽しみに読んでいます。そこに刺激されて今日は音楽とITに共通項を感じたことのネタを!
【朝メール】20100302より__
===ほぼ毎朝エッセー===
□□楽器の音を正確に出す
大学生の頃、バンドをやっていました。上昇志向の強いサークルでした。大学3年生になると、サークルの運営費を稼ぐために、学外でやるダンパ(ダンスパーティーの略語です…死語?)や、忘年パーティ、ビアガーデンやパブなどでの演奏を、それこそダンスミュージックからポップス、歌謡曲(今で言うJ-POP)、軽音楽、サンバ、ジャズ、ボサノバまで、ジャンルを問わずに演奏していました。個人的に好きな音楽はフュージョンだったのですが、フュージョンはつぶしが利きますね。
当然のことながら、演奏をすることでお金をいただけるレベルになっている必要があります。もちろん、学生バンド演奏への報酬などというのは、普通にアルバイトでもしていたほうがいいような金額なわけです。しかし自分達の演奏を評価してもらいながらいただくお金です。価値が全く違うと感じていました。
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そのような1学年1バンド制のサークルに、ずぶの素人ベーシストとして入った自分は、バンドメンバーとともに、上達へのプレッシャーを感じながら1年生、2年生と練習を続けていました。「マージャンをやるくらいならフレーズのひとつも覚える!」そんな世界でした。3年生バンドになると外部からお金をいただける、人が安心して聴いてくれるレベルにまで到達する、なかなかいい目標です。バンド合奏の練習時間がたっぷり取れるのは恵まれている環境でした。
そのサークルでは、楽譜から音階を学ぶのではなく、カセットテープから自分の耳で音をとって譜面やコード譜にすることを伝統的練習方法としていました。アドリブ耳を鍛えるためです。課題曲を聞き込んで音を拾い、個人練習し、それなりに弾けるようになってから合奏します。
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練習も積み重なり、自分達の手が出す音が、レコードの音に近寄ってきたと思えてきた2年生の頃です。学年がひとつ上の先輩ベーシストがどうしても、ある演奏の場に出られないと、自分がピンチヒッターで借り出されることになりました。ピンチヒッターとはいえ、自分の実力が評価されたように思え、得意に感じます。
課題曲がカセットテープが渡されます。演奏の場は、男子学生が圧倒的に多い『早稲田大学理工学部のスポーツ大会前夜祭』でした。曲は松田聖子の「ガラスの林檎たち」「ロリーポップ」や中森明菜の「北ウイング」などです。それを、当時のミス上智をボーカルに招請して演奏するという「ウケ狙い万全企画」です。そのバンドに参加できることは楽しみでした。何百人もいる前で演奏できるのはなかなか気持ちがいいはずです。
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さて、先輩たちとの最初の練習日がやってきます。自分の耳で採った音をドラマーのカウントとともに弾き始めます。いきなりボーカルを入れた状態で曲を最後まで通します。弾き終わって思います。
「さすが3年生バンド、いきなり通せるんだ。
それについていけた自分もまんざらじゃないレベルなんだぁ(^_^)」
演奏の後しばらくの沈黙があります。そして気まずそうにキーボードの人が口を開きました。
「坂本ぉ、お前、ちゃんと練習してきたのか?」
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愕然とします。自分ではちゃんと弾いていたつもりでした。曲の終わりまでもついていけてました。自分なりにリズム感とか、音のとり方とかには自信がありました。それがダメだというのです。いつものベーシストとは歴然とした差があるようなのです。そして恐る恐る聞いてみます。
「あ、あの、どこがダメなんでしょうか…?」
ダメなところで演奏を止めるサドンデス方式で曲を始めます。驚異的なプレッシャーの中で演奏を始めるとすぐにバンドが止まります。
「ほら、音がびびっているし、たまに間違う!」
止められる回数を重ねるとわかりました。どうやら『一つ一つの音を正確に出す』ことができていないようなのです。カセットテープから自分で拾って決めた音、それをバンドだからと言って「ノリ」とかでいい加減な弾き方でごまかすのはダメなのです。耳からとったとはいえ、まずは自分で弾くと決めた音は正確に出す必要があるのです。クラシックの人にはあたりまえのことなのでしょうが、自分はそのあたりがとても甘いことを認識したのです。
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アマチュア音は「通して演奏できる」ことを以って良しとします。プロ音には「決めたことを正確に演奏する」という違いがあります。正確に演奏する中で、全体の音の調和をみて、初めてアレンジを変えてみたりとか、音の調和を取ったりするのです。でたらめな音がいくら集まってもきっちりした曲にはなりません。
・まずは出す音をきっちりと決める。
・そして決めたらそのとおりに出す。
・音を出してバランスが悪かったらアレンジしなおす。
・全体の調和を取る。
楽器を正確に弾く、音を正確に出す。それが如何に難しいことかを認識したことは、自分の音楽演奏に対する姿勢を変えました。何事も事実を認識することが大切です。まずは正確に演奏するための絶対リズム感が不足しています。そして指の動きも悪いです。
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二学年上の、サークル内で実力が高いと評判いいベーシストに個人的講座をお願いします。一般的にバンドをやっている人は、鼻っぱしが強いし自分もそうなので、こういったことは恥ずかしく感じていました。ただ実際に教わると、音の出し方ひとつからして違いがあることも分かりました。
その後はメトロノームとお友達になるほどの基礎練習をして、何度もベースの弦を切るような体験もして、徐々に正確な音が出せるようになっていきました。まがいなりにもお金をいただく演奏にようやく脱皮できたのです。
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話を現代に戻します。なぜこの体験談を思い出したかというと、それが4年前、タッキーさんという技術者がうちに参加してくれてから発生したことと類似していると思ったからです。
CACHATTOは元々、アマチュア音的な「なんとか一通り動いた」というレベルの製品でした。ひとつの製品とは言え、その仕様には膨大な数があります。さらには、多数の人が関わって作ってきた建て増し温泉旅館のようなプログラムです。その仕様のあちらこちらに矛盾が内在していました。
IT業界での経験が多い人の視点からは、その仕様たちの詰めの甘さが明確に見えたのでしょう。タッキーさんの入社後半年くらいから、いわゆるプロ音の「プログラムを決めた通りに正確に動かそうよ」ということが社内のコンセンサスになってきました。
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その考えが徐々に浸透してきたのでしょう。アプローチは論理的になり、表示の細部にまで手が届くようになってきました。各メンバーにより、仕様ファイルの詳細一覧、課題一覧の整理、ドキュメンテーションの習慣化、マニュアルの整備更新の正確化、様々なことが、まるで「プロ音」を目指すように鍛錬され始めました。
・まずはきっちりと仕様を決める。
・そして決めたらそのとおりに動かす。
・動かしてバランスが悪かったら仕様をアレンジしなおす。
・全体の調和を取る。
あれ、どこかで聞いたような?似ていますね。
ありがたいことに、今のCACHATTOは、製品としてしっかり「プロ音」を奏でるようになりました。そして品質とは積み重なるもののようです。
先週の2月最終週には、5日間で実に10社への導入現場作業がありました。そして、そのどれもがノートラブルでした。様々なケースがあるお客様環境で、ノートラブル導入を実施できるためには、それこそ、様々なケースが事前検証され、打ち合わせされ、ドキュメンテーション化されていることが前提です。優秀な現場技術者の力技で切り抜けることができたとしても、10件をノートラブルで実施するなどということはできません。
★充分に正確な練習を積み重ねておくと、本番で間違いなく演奏ができる。音楽とITには大いなる共通点があると思ったのです。仕事には皆、共通点があるのかも知れませんね。