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発送電分離によって再生可能エネルギー発電は増えるのか?

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「発送電分離」と聞くと、「ずいぶんと懐かしい響きだな」と思う方も少なくないと思います。私も2000年前後に電力関連の仕事に関わった際に電力自由化の動向を色々と勉強させていただき、この言葉に触れました。一般には発電事業や小売事業への新規参入を促すために、送電網へのアクセスがフェアになるように行う措置を指します。現在は東京電力による賠償の原資を増やす目的で、同社の資産を売却するという意味も重ね合わせて使われているようです。また、再生可能エネルギー発電の増強のためにもこれが必要だと考えられているようです。

今日は、現在話題になっているこの「発送電分離」とはどのようなものかを整理した上で、再生可能エネルギー発電がほんとうに増えるのかどうかを考えてみました。

■再生可能エネルギー発電が増えるには投資回収が可能な環境が必要

日本は依然として世界に二酸化炭素排出削減の責務を負っていますから、二酸化炭素排出量ゼロの原子力の比率を減らした場合には、それに代わる電源の比率を増やさなければなりません。

天然ガスは石油や石炭に比べれば排出量が何割か少ないものの、それでも基本的には化石燃料であるため、燃やすことによって二酸化炭素は出ます。原子力をすべて天然ガスで代替した場合には、鳩山前首相が打ち出した「2020年までに90年比で25%削減」という目標はおろか、それをかなり緩和した修正目標(先日のバンコクでの温暖化防止会議における政府代表の発言を踏まえる…)の達成も難しいのではないでしょうか。やはり再生可能エネルギーの比率を増やして行かなければなりません。

米国や欧州では、風力、太陽光、太陽熱を使った新しい発電施設が数多く立ち上がりつつあります。この動向は現在確認しているところで、これから何回かに分けてご報告できると思います。対する日本では、そのペースはにぶいです。また、再生可能エネルギーを使った発電所の規模も、米国、欧州、中東、中国などの事例に比べると大きいとは言えません。日本では、再生可能エネルギー発電が大きなうねりになるには、何らかの根本的なてこ入れが必要だと言えるでしょう。

国民が、あるいは政府が「再生可能エネルギーを増やさなければいかん」と考えた場合、常に「その発電所を作るのは誰か?」という問題がつきまといます。この「誰?」を現実的に考えた場合、2系統の当事者しかありません。1系統は「既存の電力会社」。もう1系統は「電力会社以外の民間企業」です。
現在の日本で再生可能エネルギー発電の動きがにぶいのは、電力事業関連の制度にネックがあり、既存の電力会社にも再生可能エネルギー発電に積極的に取り組むインセンティブがないばかりか、欧州や米国で関連動向の主役になっている電力会社以外の民間企業においても、投資意欲がわかない状況になっているからだと考えられます。

欧州や米国で再生可能エネルギー発電に積極的に取り組んでいるのは、既存の電力会社以外のプレイヤーです。金融機関であり、インフラファンドであり、エネルギーを手広く手がける事業会社であり、日本の商社のような役割を果たす企業であったりします。こうしたプレイヤーは多大な初期投資を行って発電所を建設しても、売電によって中長期的に安定した収益が得られ、投資回収が可能になるからこそ、そのように行うわけです。2月下旬にご紹介した欧州の洋上風力発電の活発な動きもその一端を物語っています(洋上風力発電が活発化している欧州)。

また、再生可能エネルギー発電だけでなく、同じようなプレイヤーがガスタービン発電所の建設を行う動きも見られます。

政府の制度設計の目線で言えば、このように電力会社以外のプレイヤーが発電所建設に活発に動ける環境を整備した上で、その時々の状況により、再生可能エネルギーの比率を増やすのが目的であればその方向でうまく働くインセンティブ方策を厚くすればよいし、燃料価格動向などで天然ガスを増やすべきならそうすればよい、そういう「自由な競争を方向付ける」というやり方が基本でしょう。電力会社だけに任せていると、そうした新しいプレイヤーがアニマルスピリットを発揮する場が生まれません。

■電力自由化の基本

さて、表題の問い、「発送電分離で再生可能エネルギー発電は増えるのか?」ですが、結論から先に言うならば、「再生可能エネルギー発電の高い電力料を助成金などでカバーする制度があるならば増える」、あるいは「再生可能エネルギー発電の高い電力料を払うことに合意した顧客がいるならば増える」と言えます。そういう条件がなければ、発送電分離だけで再生可能エネルギー発電は増えません。

「発送電分離」は電力自由化に関連した言葉なので、その意味を正しく理解するには、電力自由化の基本的な発想を理解する必要があると思います。

電力自由化とは、まず、電力事業を上流から「発電」、「送電」、「配電と小売」の3領域に分けます。送電は一般的に「発電所から変電所まで」、配電は一般的に「変電所から世帯まで」を指します。このように3つに分けた上で、市場競争が起こった方がよい領域、すなわち「発電」および「配電・小売」では規制緩和を行います。一方、社会インフラ的な位置づけがある「送電」(送電網)については、複数の事業者が同じものを作る重複投資を避けるために、規制を行って1社だけが運営するようにする、というのが電力自由化の基本発想です。

これによるメリットは、発電で競争が起これば、発電コストの高い発電会社が淘汰され、発電コストの安い発電会社が増えます。結果として市場全体で電力価格が安くなります。配電・小売で競争が起これば、携帯電話市場にみるように複数の事業者が様々な工夫を行って消費者サービスを高め、かつ電力料金が下がるように努力するようになります。基本的には、そういうことです。ただし、日本固有の事情があるため、実際には様々な例外事項や制約事項があります。また、発電分野における自由競争からもたらされる発電価格は、その時々の燃料コストの相場を反映したものになりますから、ある時、あっと言う間に発電料金が3倍になるという事態が起こらないとも限りません。そのように電力自由化にはメリットもある反面、デメリットもあります。

■発送電分離とは?

発送電分離は、次のような流れのなかで出てきた概念です。日本の電力自由化の制度を作る際に、1)まず「発電」についてある程度の自由化を行うこととし(→これにより新規参入が可能になった)、2)「配電と小売」の分野でもある程度の自由化を行う(→同)こととしました。続いて、3)すでに存在している電力会社が「発電」「送電」「配電・小売」をすべて持っている、いわゆる垂直統合型の営業形態である状況をどうするかに議論が移りました。海外の自由化事例を参考に「発電と送電を分離すべきだ」(自由化論者の考え)、「いや発電と送電は一体の方がいい」(電力会社側の考え)という2論が出て、激論が交わされた結果、最終的には後者に落ち着きました。

この際に自由化論者が主張した「発電と送電を分離すべきだ」という考えが「発送電分離」です。米国や欧州の自由化事例にモデルがあります。

この発送電分離にはどういう意味があるのでしょうか?新規参入者の立場で考えて見ると、よくわかります。

発電市場に新規参入する企業の視点で見ると、エンドの需要家に送電するために必要な送電網は、なるべく低コストで使いたいということがあります。また、送電網へのアクセスが利害の絡む事業者などによって妨げられるようなことがあってはなりません。新規参入者にとって理想的な送電網の利用は、その送電網が公平な管理者によって維持運営されている時に初めて担保されます。すなわち、ある意味でライバルでもある既存の電力会社が送電網を保有している状況では難しいのです。発送電分離により送電網が既存の電力会社から切り離されて初めて、新規参入者にとってフェアな環境が生まれます。

一方、既存の電力会社にとっては、仮に発送電分離が行われ、発電市場で発電コストの本格的な競争が起こると、自分たちも発電事業においてそのコスト競争に参加しなければ顧客を失うことになります。特に原子力発電のような国策による発電事業を持っているなかでは、一方でコスト構造が不透明な原子力を抱えながら、もう一方で熾烈な発電コストの競争に勝ち抜くということは難しい話です。従って、発送電分離にはまず反対します。
続いて、発送電は分離しないと国が決定した後でも、新規参入者が自分たちの送電網を使う際には、設定する利用料(託送料金)をなるべく高めに設定して、新規参入者がコスト競争力を持ちにくいように動いてしまいます。(電力会社が意図するか否かは別として、競争状況にある事業者はそのように振る舞わざるを得ないという原理を述べています。)

■日本の自由化制度のなかでは新規参入者が収益を上げにくい

1995年から始まって2002年に完了した日本の電力自由化は、発電分野についても小売分野についても、部分的なものに留まっています。これは一概によいともわるいとも言えません。
よい側面を挙げるなら、福島第1原発事故が起こるまでは、日本は世界で最高水準の電力供給品質を誇っていました。端的には年間の停電時間がものすごく少ないということがありました。世界を見渡せば、まだまだ発電が需要をカバーせず、頻繁に停電に見舞われている国が少なくないことを考えると、敗戦後のたいへんな状況から高度成長期を経て現在に至るまで、電力供給責任を果たしてきた電力会社の功績は大いに評価されるべきです。これは、発電、送電、配電・小売が一体化されて運営されてきたからこそ、可能になったことだと言えます。(弊ブログのこちらの投稿の末尾も参考→厳寒のテキサスで夜間に輪番停電が発生

一方で、発送電分離が行われなかったがために、新規参入者にとってはきわめて不利な営業環境が残っているということも事実です。電力自由化後、2000年頃から、発電事業を営む特定規模電力事業者が商社、ガス会社、メーカーなどの分野から多数参入しましたが、顧客に電気を送り届けるための送電線の利用料(託送料金)が高止まりする構造があり、なかなか収益を上げづらいビジネスだということが明らかになりました。また、特定規模電力事業者がビジネスの相手とする大口の電力契約者(企業、官庁、大学等)に対しては、既存の電力会社も料金交渉に応じるなどして、営業現場で価格競争が起こり、これによって新規参入者が不利にならざるを得ない状況もあったと伝えられています。結果として、このビジネスは尻すぼまりという状況にあります。

現在から振り返ると、発送電分離がなされなかったがために(=送電網を管理する事業者が既存の電力会社から独立した存在にならなかったがために)、新規参入が起こりにくい事業環境が温存されたと言うことができるでしょう。

こうした状況をまとめれば、日本の現在の制度では、発電事業の新規参入が起こりにくい状況にあり、ひいては、再生可能エネルギー発電の新規参入もきわめて不活発な状況が続きそうだと言うことができます。

■再生可能エネルギー発電は安くはない

仮に、発送電分離が行われれば、再生可能エネルギー発電の新規参入が活発になるのでしょうか?
これは、再生可能エネルギー発電のコストをどう吸収するかにかかっています。

再生可能エネルギー発電に限らず、原子力やその他の燃料による発電コストがどうなっているのかを明らかにする試みは、米国でも欧州でも行われています(日本で従来、発電単価として用いられてきた数字は、原子力のコストの安さを裏付けるために使われた経緯もあって、原子力のコストが他の発電源に対して有利になるように試算されている風がなきにしもあらずです。欧米の試算と比較するとそのように思えます)。
現在、インターネットで入手できる主な発電単価試算には以下があります。

Electric Power Research Institute (EPRI)
Program on Technology Innovation: Integrated Generation Technology Options, 2009

California Energy Commission
Comparative Costs of California Central Station Electricity Generation, 2009

EU Energy Security and Solidarity Action Plan
Energy Sources, Production Costs and Performance of Technologies for Power Generation, Heating and Transport, 2008

EPRIは日本の電力中央研究所に相当するアメリカの研究機関。カリフォルニア州は米国のGDPの13%を占める大きな州であり、その州のエネルギー関連機関であるCalifornia Energy Commissionの発電単価資料は相応に権威を持っていると見ることができます。EUでも各国が政策に生かせるように発電単価の資料を作っています。

発電単価の試算は、燃料コストの動きをどう予測するか、稼働率をどういう水準で設定するか(特に太陽光や風力ではお日様任せ風任せで稼働率が低いので見極めが重要です)、発電所の規模をどう設定するか(規模が大きければ発電効率が高まり単価が安くなります)、用地取得コストなどその地域固有のコストをどう設定するか、さらには原子力の場合には廃炉の費用をどう見積もるか、使用済み核燃料の処理にまつわるコストを含めるのか含めないのか、等々のシナリオないし想定によって結果が大きく異なってきます。従って、よく引用されるように「○○発電の単価はkWh(キロワット時)あたり××円」というように、わかりやすい数字で言い切れない特性を持っています。例えば「Aに比べるとBは安い傾向がある」という風な相対的な言い方しかできません。それを理解した上で、以下の数字を見てみると…。

Generationcost2


<追記> 初回アップ時には単位として原資料の「ドル/MWh、ないし「ユーロ/MWhをドルに変えたものを使っていましたが、アップから4時間後に、わかりやすいように、日本で通常使われている「円/kWhに改めました。また、Californiaの数字は他とかけはなれているので、差が小さくなるようにMerchant Power Providerの数字からPublic Owned Utilityの数字に変更しました。それでも他の2例とまだ数字に開きがあるのは、おそらく織り込んでいる費目が多いためではないかと思われます。3つの資料を精査すればわかることですが、そこまでできていません。

やはり再生可能エネルギー発電は他の電源よりもコストが高い傾向があります。

太陽光よりは太陽熱が安く、太陽熱と比較すると風力がかなり安いということも言えそうです。(なお、太陽光がかなり高めになっているのは、試算が2008年ないし2009年に行われたものであり、昨今の太陽電池パネルの価格下落を織り込んでいないからだと見ることができます。現在はこの試算の半分程度にはなっているのではないでしょうか。)

こうしたことから、再生可能エネルギー発電を増やすということは、コストの高い発電が増えることであり、そのコスト分を誰かが負担しなければなりません。

再生可能エネルギーを使った風力、太陽熱、太陽光発電所の建設が盛んな欧州や米国では、長期間にわたって固定価格で再生可能エネルギー発電の電力が売れる仕組み、固定価格制度(フィードインタリフ制度)が導入されています。これは新規参入者にとっては非常にありがたい制度です。というのも、発電所を建設する際には大きな初期投資がかかるわけですが、その回収が、例えば15年で終了できるといった見通しが立つからです。売れる価格が不透明であれば、投資回収のメドも立ちにくく、結果的に投資意欲は萎えてしまいます。

しかしこのフィードインタリフも、買い取る側の電力会社が負担する場合は、回り回って消費者や顧客企業がコストを持つことになりますし、政府の助成による場合は納税者がコスト負担をすることになります。末端の個人や企業が薄く広くコスト負担を行うことで成立している仕組みだと言うことができます。ある意味では税金のようなものです。

それ以外には、エンドの消費者や企業が再生可能エネルギー発電事業者と直接取引をし(発送電分離が行われている前提)、再生可能エネルギーの高い料金を直接支払うというやり方があります。例えば、現在と比べると2倍といった高い電力料金を支払うのです。これが機能するかどうかは、その時々の社会のコンセンサスによります。

再生可能エネルギーには賛成、しかし、コストが自分のところに回ってくるのは承服できない、というのは成り立ちません。そういう意味では、社会を構成するわれわれ一人ひとりも、再生可能エネルギーのコスト負担について、新しい認識を持つ必要があります。

そんなこんなで、発送電分離がなされても、すぐに再生可能エネルギー発電が増えるという状況にはありません。新規参入者側にも配慮し、エンドの顧客にも目配せした制度の調整が必要です。また、社会のコンセンサスも不可欠です。

■ひとつのウルトラC

仮に発送電分離が行われると、日本の電力価格をある程度安くすることができる「ウルトラCのスキーム」も可能になると考えています。

先般の日経の記事で、ロシアが海底送電ケーブルを使って日本に安い電力を売ってもよいと提案していることを知りました(2011年5月12日付「日ロが資源協力拡大 LNG調達へ次官協議」のなかに「ロシアが極東で生じる600万キロワット規模の余剰電力を海底ケーブルを使って日本に転送する構想など…」という記述)。

現在、超長距離をロスなく送電できる超高圧送電(Ultra High Voltage、UHV)の技術開発が進んでいます。日本も高度な技術を持っていますし、中国ではすでに全土を覆う超高圧送電の送電網を構築しつつあります。こちらの投稿でその関連についてまとめてあります(→UHV技術を用いた超広域送電インフラ - 中国が世界一のスマートグリッド大国になる理由)。

このUHVの技術を使い、ロシアないし中国から、安い電力を輸入するというシナリオがないではありません。仮に発送電が分離していると、ロシアないし中国経由で送られてきた電力を、いったん卸事業者のような企業がどこかで受けて、そこが独立的に運用されている送電網を使って送電し、エンドの企業顧客や消費者に小売するということが可能になります。

これまで日本の電力制度は、日本が島国であり、他国から電力を輸入することが現実的にはあり得ないという前提の下に作られてきました。UHV技術を使って海を越えた送電が可能になってくる今後は、そうした前提を取り払い、多国間で電力供給の最適解を図るというアプローチも必要になるかと思われます。

わが国における再生可能エネルギーの比率を増やす目的では、中国が計画している再生可能エネルギー発電を当てにすることもできます。中国の再生可能エネルギー発電の計画容量はきわめて巨大であり(全発電容量の25%を水力、風力などの再生可能エネルギーにする予定)、ここから余剰分を買い取って、わが国の再生可能エネルギー発電の必要を満たすのです。エンドの企業や消費者に、高い再生エネルギーのコストを転嫁させるのが難しい場合には、中国の安い再生可能エネルギー発電から調達するのも一考でしょう。

発送電分離について考えることは、日本の電力の未来のあり方を考えることにもなるので、前向きな議論を望みたいと思います。

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