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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

UHV技術を用いた超広域送電インフラ - 中国が世界一のスマートグリッド大国になる理由(中)

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[後記] 内容がわかりやすいように改題しました。

Zpryme Research & Consultingという新興のリサーチ会社が先日、中国のスマートグリッドのポテンシャルに関する報告書を公開しました。

China: Rise of the Smart Grid

中国のスマートグリッドの大きさについては、昨年3月に日経が「中国のスマートグリッドの投資が向こう10年で50兆円に上る」と報じた際に話題になりました。

中国、送電網に50兆円
風力や太陽光、次世代技術で促進 日米企業に商機

その実体がどのようなものかは、依然として謎に包まれていたようなところがあります。Zprymeの報告書は、中国のスマートグリッドが今後どのような形を取っていくのかを描き出して見せたところに価値があります。

■昨年1月時点ですでに最大の国家予算

Zprymeでは昨年の1月にもスマートグリッドを扱った報告書を公開していて、こちらでは、各国のスマートグリッド関連の政府予算や補助金を取り扱っていました。オバマ政権によるスマートグリッド振興政策により、スマートグリッド関連状況はにわかに盛り上がったわけですが、昨年1月時点においても、この報告書では、すでに中国が世界でもっとも大きな予算措置を講じていることを告げていました。

各国のスマートグリッド関連予算(2010年1月時点、Zprymeによる)
中国 73億2,300万ドル
米国 70億920万ドル
日本 8億4,900万ドル
韓国 8億2,400万ドル
スペイン 8億700万ドル

このデータは日経が3月に上の報道を行う前、すなわち、中国の全国人民代表大会で温家宝首相がスマートグリッド整備の大きな計画を明らかにする前のものですから、数字が小さくなっているわけですね。

■米国のスマートグリッド

ここで中国のスマートグリッドの巨大さについて驚く前に、中国では、何をもって「スマートグリッド」としているのかを確認しておく必要があります。スマートグリッドは、その国の電力産業が置かれた状況によって大きく様相が異なるからです。

米国の場合は、電力の需給という意味では、2000年頃に輪番停電を実施したカリフォルニア州のような例外はあったにせよ、ほぼ需要に見合う発送電が行われており、中国のように毎年膨大な発電量を増設しなければならない状況にはありません。中期的な課題としては、90年代半ばから電力の自由化を推進した結果として、発電分野に対する投資は積極的に行われたものの、送電分野に対する投資が行われず、送電網が老朽化してしまったということがあります。これの改修や刷新が中期的課題です。
従って、本来なら米国のスマートグリッドへの投資は、文字通り「グリッド」に対して集中的に行われるべきところだったものを、(日本もそうでしたが)「スマートグリッド」の「スマート」のイメージが先行してしまい、末端のスマートメーター分野に多くの資金が割り当てられてしまいました。それが時期尚早だったのでしょう。現在では揺り戻しがきています
米国の場合、移民政策を続けていることもあって人口はまだまだ伸び(2050年までに1億3,000万人増えるという予測があります)、それに伴って電力需要も堅調に伸びるので、まずもって発電容量の拡大が必要。それが従来のような石炭によるものではなく(IEAのデータによると米国では発電の5割が石炭)、二酸化炭素排出の少ない天然ガス、次いで再生可能エネルギー、そして原子力による電源が新設されるのは間違いありません。それらをカバーする送電網に対する投資がまず不可欠です。その延長で、最低でも総発電容量の10%程度を占めることになると思われる再生可能エネルギー電源のフラクチュエーションを吸収する「スマートグリッド」が求められるようになるのではないでしょうか?ここに米国の本来的なスマートグリッドの実需があると思われます。(個人的には、民生分野のスマートな電力利用については誰が投資効果を享受するのかはっきりしないために疑問を持っています。)加えて言えば、電気自動車用の充電インフラでしょうか。

■日本の電力会社と同じ動きが「スマートグリッド」投資に

中国の場合は、そもそも電力が圧倒的に不足している状況があり、それが前投稿に見る1000億元以上を投じたとされる西電東送プロジェクトによってようやく需要に見合うものになり、これからその近代化を図っていくというステージにあります。送電網運営の自動化や送電路の冗長化などは今まさに取り組まれているところです。例えて言えば、日本の電力会社が90年代〜2000年代に行ってきた取り組みを今まさに実施しているというところでしょう。

こうした送電網の近代化が中国において莫大な資金が投じられる「スマートグリッド」の実体です。日本の電力会社においても、送電網の維持運営には毎年巨額の資金を使っています(電力会社10社の設備投資は2010年で2兆4,000億円。93年のピーク時には約5兆円。うち2割程度が送電関連か?)。その結果、世界的に見れば日本の送電インフラはすでに「スマートグリッド」であると言ってもいい実体ができあがってしまいました(高度な通信機能を盛り込んだ運用の自動化が実現しています)。中国の場合は国が大きく発電量や送電量もケタ違いに大きいですから、日本の電力会社と同じことをやった場合でも投資金額がまったく違ってくるわけです。

ということで、中国の場合は、送電網に対して現在必要不可欠である投資を行っているだけで、それが結果として「スマートグリッド化」になるという図式があります。

■超長距離を超高圧で結ぶ送電網

とはいえ、その「中国のスマートグリッド」も、現在得られる先端技術によって構築されるわけですから、できあがったものが旧式のグリッドであるかと言えば、そういうことはありません。

中国のスマートグリッドの特徴は、その巨大さにあります。前投稿で見た西電東送ですが、各ルートの送電距離では1,000kmを超えるものもあるようです。これだけ長距離になると送電ロスが問題になります。送電ロスを減らすためには、送電の電圧をいわゆる超高圧にする必要があります。それも世界最大の国土をカバーする送電なので、超高圧の程度も世界で最高のものが求められます。

中国で現在建設が進んでいるUHV(Ultra High Voltage)の送電網では1,000kV(100万ボルト)の規格が使われています。元々は日本において進んでいた技術分野だそうですが、日本では超長距離で使う場がないために、実装という面では実績がありませんでした。それを中国では実需があるがために実際に使い、それによって巨大な送電網を構築しつつあるのです。

中国の送電網構築を主導している企業、国家電網(State Grid)では、世界初のUHV送電の商用レベル運用を誇らしげにアピールしています。また、同社は中国におけるUHV関連製品の標準化を推進しており、関連企業群を育成しているような格好です。同社が巨額の調達をかけてUHV関連製品を使用することで、中国におけるUHV関連企業が躍進することは、ほぼ間違いないでしょう。ちなみに、国家電網は、世界の大企業をランキングするFortune Global 500で第8位につける巨大企業であり、送電会社も電力会社の中に含めるなら、世界最大の電力会社です。

ということで話を元に戻すと、中国のスマートグリッドは、膨大な設備投資によってできあがる超高圧の先端技術を用いた超広域の送電インフラであるということになります。

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