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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

Twitter+リアルイベントで起こっている「リワイヤリング」が幸運を運んでくる背景

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「リワイヤリング」という言葉は、先日の投稿で触れた一橋大学イノベーション研究センター 西口敏宏教授の「遠距交際と近所づきあい」で初めて知りました。「リワイヤリング」(rewiring)…直訳では「配線の組み換え」です。

西口氏が研究しているのは、学的にはまだ新しい「ネットワーク論」で、人や組織などの成功事例をフィールドワークによって丹念に拾い、成功の理由を社会ネットワーク分析の知見によって科学的に解明するということをやっていらっしゃいます。

ちなみにGoogleで「リワイヤリング」を検索すると、時事通信社の湯川鶴章編集委員が使っている「経済のリワイヤリング」がヒットします。経済のリワイヤリングとは、ITによって様々な分野の情報をつなぎ変えることで、経済が活性化するということを言っているようですが、得られる資料が少ないので保留にしておきます。

西口氏の文章からリワイヤリングに関連したものをいくつか拾ってみましょう。

 成功する人や組織は、意識せずとも、遠距離交際と近所づきあいの絶妙なバランスをとりながら活動している。濃密な近所づきあいを維持しながら、触手をはるか遠くへ伸ばし、情報伝達経路のつなぎ直し(今泉注:リワイヤリング)をして、通常なら決して結びつかない遠距離のノードとも、短い経路でつながっている。そして、そこで得られた冗長性のない情報を、巧みに利用する。
 これこそが、最新のネットワーク理論によって解明されつつあるネットワーク能力の不思議なメリットであり、遠距離交際と近所づきあいの「いいとこどり」なのである。

 「一橋ビジネスレビュー」2009年8月号 特集・ネットワーク最前線「特集にあたって」西口敏宏


 いわゆる運がよい人や成功しつづける組織をよく調べてみると、宝くじを当てるように幸運が降って湧いたわけではなく、「運が、構造化している」ことがわかる。人や組織の運は、実はそれを取り巻くネットワークのトポロジー、つまり、隣の友人や遠くの知人(ノード、結節点)と、ネットワークを通してどのようにつながっているかという、構造特性に依存する部分が大きい。重要なのは、あなたが直接、誰を知っているかよりも、その誰かがあなたの知らない誰かを知っており、その人がさらに、他の誰を知っているかということなのだ。しかも、五感でとらえられる範囲しか知らない人間固有の認知限界によって、本人たちはそのことに気がつかない。だから、これは運だと錯覚する。
 ところが、実際に意識しなくても、成功する人や組織は、遠距離交際と近所づきあいの、絶妙なバランスをとりながら活動している場合が多い。濃密な近所づきあい(高いクラスター係数、high clustering coefficient)を維持しながら、他方では、いくつかの触手をはるか遠くへ伸ばし、情報伝達経路のつなぎ直し(rewiring, リワイヤリング)をして、通常ならけっして結びつかない遠距離のノード(node, 結節点)とも、短い経路(short path length)でつながっている。そこで得られた冗長性のない情報を、巧みに利用するのである。これこそが、近年グラフセオリーに基づくシミュレーションによって数学的に解明された、スモールワールド・ネットワークの不思議なメリットである。それはいわば、遠距離交際と近所づきあいの良いとこ取りなのである。

 「遠距離交際と近所づきあい」西口敏宏、NTT出版


 加えて、メジャーCDデビューをしたことによる、音楽事務所や大手レコード会社との正式な契約関係を媒介として、クラシック系オーケストラや音大出身者を中心とする純クラシック系の音楽家グループ、また、J-クラシックと呼ばれるより幅広いアーティストのコミュニティーなど、先述のA先生の人脈と部分的に重なるクラシック系アーティストの豊かなコミュニティーに強くリンクされていることも、図の右半分から明らかである(今泉注:図とは、記述対象となっている松本あすか女史の社会ネットワーク図)。
 中略
 総じて、依存期のスカスカ状態の図、また、自立期のジャズ、ロック、ポップス系音楽に偏重した図に比べると、この相互依存期のネットワーク・トポロジーは、各分野間でバランスが保たれている。クラシックと非クラシック系の直接交渉は少ないかもしれないが、図左半分を大きく占める非クラシック系の各コミュニティー間には、適度の連携や「架橋」が認められる
 こうしたトポロジーを観察すると、中心のハブ、あすかにとって、つながりがすぐに利用できるノードは適度に分散し、その数も多く、先々への「通じ具合」もよいことが示唆される。そのため、数学的な実証は難しいとしても、「遠距離交際」と「近所づきあい」の各長所や利便性が適度に組み合わされた、均整のよいスモールワールド・ネットワークに取り囲まれた彼女に「いいとこどり」を許すので、そこから得られる利益の総計はかなりのものであろうことが推測される。

 「松本あすかという作品」西口敏宏、「一橋ビジネスレビュー」2009年8月号所収

 最後に掲げている「松本あすかという作品」はクラシックピアニストの松本あすか女史の半生をヒアリングと資料の分析によってネットワーク論的に記述する意欲的な試みです。以下をご覧ください。すごいです。


 また、筆者の閲覧に供与された、ハードコピーにして1.2メートル厚に達する(!)膨大な量の非公開手記、日記、小文、さらに、非公開を含むブログ類や、写真、パンフレット、動画演奏記録などのオリジナルデータの解析をもとに、その波乱に富んだ半生の意味を、最新ネットワーク理論の枠組みで見直すと、いかなる眺望が得られるかといった観点から探ったにすぎず、探索的な試みの域を出ない。

 同上

そんなこんなで社会ネットワーク目線で言う「リワイヤリング」、すごいですね。

自分の言葉で簡単にまとめれば、リワイヤリングとは、日常的な人間関係とはほとんど縁もゆかりもない、かなり遠いところにある人間関係と、何らかのきっかけを通して関係が生じること。往々にして、仕事やプライベートで利用できる情報(人の情報を含む)の量や質が一変する。

実は、Twitterを使い、Twitter関連のリアルイベントに参加し、名刺交換などをしたりしてゆるくつながり、その後も継続的にTwitterでゆるくつながった延長で起こる、新しいタイプの「なんかやろうよ」(一種のコラボレーション)も、このリワイヤリングの効果だったんですねー。すごいことです。

西口氏はその著書で、リワイヤリングには経済を活性化させる効果があると述べておられます。また、組織においても、沈滞から脱するためには、リワイヤリングを構造的に仕掛けていくことが有用だという意味のことを述べておられます。

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