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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

「日本版フューチャーストア・プロジェクト」雑感

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多少旧聞になってしまいましたが、3月6日~9日まで東京ビッグサイトでRETAIL TECH JAPAN 2006が開催されていました。以前はストアオートメーションショーと言っていたやつです。最終日にちょこっと行って「日本版フューチャーストア・プロジェクト」のブースを覗くことができたのでご報告します。経産省のこの手の取組みとしては非常によいという印象を持ちました。

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RFIDなどを活用した近未来の流通小売の具体形を実証実験によって確かめてやろうというアプローチは、周知のように、ドイツ最大手総合スーパーのMETROによって、2002年あたりから進められています。2003年4月にはラインブルグのリアルな店舗が丸ごと「未来店舗」として開店し、RFIDによる入庫管理・在庫管理、電子値札、電子キオスクによる商品情報提供、無線LAN付端末を載せたショッピングカートによる各種情報提供などがテストされてきました。
本プロジェクト専用のウェブサイトが開設されており、当時の実験の内容も現在進行形で取り組まれている内容も、かなり詳しく知ることができます。中には動画によるコンセプト紹介コンテンツもあり、非常に興味深いので見てみて下さい。
また、同プロジェクトのレポート記事としては、こちらの日経BPの企画セクションのが詳しいです。

このMETROのプロジェクトは、同社1社がコスト負担をするのではなく、SAP、Intel、IBMなどがハードウェア、ソフトウェアに加えて、資金、人材なども供出する形で行われています。私の主クライアントのシスコシステムズもネットワークまわりで参画しています。コンサル会社としてBoston Consulting Groupも関わっており、全体像の構想や効果測定などでノウハウを提供しているようです。
この1つの大手流通企業+複数のITベンダー+1つのコンサルティング会社というコンソーシアムスキームは、未来系のイノベーションを進めるにあたって非常に有効そうに思えるフォーメーションです。流通以外の業種でもいけるでしょう。

このフォーメーションの威力をまざまざと思い知らせてくれるのが、2004年7月に開設された「イノベーションセンター」です。これはMETROが持っている倉庫の敷地に作った近未来店舗実験用ファシリティで、お客さんを入れずに、いろいろ実験をしてみるためのものです。
近未来系電子機器やRFIDを使った「売り」の姿を、商品陳列、機器配置、顧客の動線、RFIDリーダーの検知感度、商品補充等々の側面から検証してみることができるようになっています。
また、家庭において、近未来的な冷蔵庫(RFIDなどと連動)を使うスタイルはどんなものか、といったことを確かめるためのゾーンなども作られており、なかなかすごいと思います。
このイノベーションセンターの企画概要に相当するものがこれ。未来を記述する企画書という雰囲気があって、すごくよいです(全部しっかり読んだわけではありませんが)。
日本の記者の視点からどう見えたかは、やはり日経BP企画セクションのレポートを参照。

カネがどこから出ているのか気になるわけですが、結局は参画企業の持ち寄りということのようです。たぶん200~300億円億円程度のプロジェクトなのではないかと考えられます(土地代を除く。機材・ソフトウェア等は現物供出)。
こういうことを仕掛けられるMETROもすごいなぁと思いますし、たぶん知恵を出しているBCGもうまくやれているなぁと素直に思います。
ここまでがMETROのフューチャーストアの話。

日本が決して遅れているということはなく、「日本版フューチャーストア・プロジェクト」の計画は2004年末から始まっています。
通例、この種の新技術ものの実証実験を経産省が進める場合、技術ベンダーが複数集まってわいわいやるのが普通ですが、今回は主メンバーがユーザー側、すなわち流通小売企業であるところに大きな特徴があります。
経産省の産業振興方策は通産省の昔からどうしても「機械振興」になりがちで、対象はメーカー(ベンダー)というのが通り相場。流通小売企業に対しては箱ものに関する補助金とか、出店の規制・調整・緩和などが主で、あまり技術振興系施策はやっていなかったように思います(間違ってたらすみません)。
従って、「日本版フューチャースト・プロジェクト」の母体となった「未来型店舗サービスを考える研究会」の主メンバーがイオン、イズミヤ、クイーンズ伊勢丹、マツモトキヨシ、三越などの流通企業であったのはかなり異例のことだと思います。座長の国領先生の意見も反映されているのでしょう。

2005年前半には計画概要が定まり、2005年後半~2006年前半にかけて数件のプロジェクトがイオン、クイーンズ伊勢丹、三越などの店舗において実施されました。実験の概要は経産省が公開しています
その結果を紹介する趣旨で設けられたのだが、今回のRETAIL TECH JAPAN 2006の「日本版フューチャーストア・プロジェクト」ブースでした。ここまでが前置き。

気づいた点をざっとまとめます。

・ビデオ主体の出典形式が非常に理にかなっている。
 個々のプロジェクトの全体像を10分程度で把握できるビデオが各プロジェクトごとに制作されたようで、私は三越のをじっくりと2回、イオンのを1回見ましたが、よく練り上げられた内容なのでムダなく全体像をインプットできました。この出典はベンダーが販促目的で行うものではなく、あくまでも公の補助金等を活用した自分たちのための勉強会のお披露目であるので、主たる人材をこの種の展示会場に貼り付けておくのは経済合理性を欠きます。その点、ビデオで済ませていたのでかえって好感が持てました。なお、小セミナーブースも設けられており、個々の参画企業の人たちが実際に説明を行う企画も実施されていました。
・経産省商務情報政策局流通・物流政策室長の浜辺哲也氏がビデオで登場したのも非常によかった。
 経産省のこの種のプロジェクトでは仕掛ける側の官僚があまり顔を出さないのが普通ですが、本プロジェクトでは浜辺氏が顔を出し、明確に趣旨などを説明していました。これが非常にいいなぁと思わせました。
・テストされているアプリケーションのレベルが高い。
 一般的に現在欧米で試行されている流通小売系RFIDアプリケーションの多くは、バックヤード関連か店頭補充関連が主で、消費者の五感に訴えて購買を喚起する式のものは少ないように思います。クイーンズ伊勢丹がやっていた、ワイン棚にRFIDリーダー、ワインの瓶にRFIDタグを仕込んで(首からぶら下げる形)、あるワインを棚から取った瞬間にそのワインの詳細情報をさっとディスプレイに表示させるというアプリケーションは、なかなか芸が細かいと思いました。消費者が予期していない時に情報を供給してどう反応するかを確かめる実験だったそうです。明確な販促効果があったとのこと。
・(近くの人間が関わっているので内輪ぼめになりかねないですが)個人的には、三越がやっている実験のレベルの高さにめまいがするほどでした。概要はここにあります。報道記事はITMediaさんのこちら
 簡単に言うと、来店した顧客の状況に適した情報を出しつつ、店頭在庫の有無に柔軟に対応しつつ、店員の動きがムダなくなるようにプロセスを設計しています。文字にしてみると簡単ですが、機器、ソフトウェア、情報コンテンツ、店員のトレーニングなどを総合的に手当てして、それが最終的に顧客の目から見て非常に自然に映るように仕立て上げないといけません。携帯端末の使い勝手、反応速度、画面設計なども絡みます。Service Scienceの原初形のような作業だったのではないかと思います。

ブースはそのような内容でした。

全体として、このプロジェクトを俯瞰してみると、「顧客と一緒にイノベーション」的な図式が見えてくるのが非常に興味深かったです。
個々のプロジェクトには小売企業だけでなく、当然ながら機器等のベンダーも参画しています。たぶん機器やソフトウェアは持ち出しでしょう。これを顧客に提供して、新しいノウハウを一緒に極めていく姿がまさにCustomer Focused Innovationになっていました。
また、経産省の立ち位置もそれに近いです。同省にとって本プロジェクトにおける流通小売企業はいわばお客さんなわけです。そのお客さんと一緒になってイノベーションをやっていこうという、ある種くだけた姿勢が非常に好ましく思えました。こういうのはどしどしやっていただきたいですね。

希望を言わせていただくと、会場で公開していた各サブプロジェクトのビデオは、どこか適当なサイトに置いて、しばらくの間、資料として流してくれるといいなと思います。非常にレベルが高い内容であり、関連業界全体に大きな刺激を与えます。

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