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集合住宅における香害対策 ~日用品公害・香害(n)~

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今冬から、筆者のオフィス(名ばかり書斎)のある地域で、香害が強まっている。
屋外が臭い、室内も臭い。原因は、さいきん発売された柔軟剤の香料だと確信している。

ビルやマンションでは、排水は共用の配管を流れていく。
自分の使っていない製品のニオイが排水溝から立ち昇り、配管の埋まった壁や天井から漂ってくる。
上下左右階はもちろん、他の階でも臭うようになる。上層階が住居で、低層階にオフィスやテナントというのは、よくある構造。全国に、困っている人が多々いるはずだ。

ニオイが強まって数カ月。現在では、屋外は臭うものの、室内の排水による香害問題は、ひとまず終結した。
その経緯を書いてみる。なにがしかの参考になるかもしれない。

まずは換気して対策を考える

今年にはいり、オフィスの水回り部分の天井で、かすかな、水滴のような音が数回した直後から、異臭が漂い始めた。厳寒のこと、結露かもしれない。

同時期から、オフィスから比較的近くにある親宅でも、異臭が漂うようになった。地域の住民は同じ店で日用品を購入するため、新製品が発売されると、共通して含まれる香料が、地域内を席巻するようになるのだろう。

たとえるなら、ベリー系のフルーツや腐ったリンゴと下水を混ぜたようなニオイである。これに、屋外から流れ込む、強烈なポマード臭、殺虫剤臭(抗菌臭)が混じり合う。

まずは、ドアや窓を全開にして換気。寒波襲来の深夜の換気はつらかったが、30分ほどで、かなりマシにはなった。

ただし、常に換気できるとは限らない。屋外のニオイが強い場合は、窓を閉めるタイミングが一呼吸遅れるだけで、逆効果になる。換気中は、室内、屋外、両方のニオイに嗅覚を研ぎ澄ませておく必要があった。

さらに、常温保存の食品はポリ袋に入れて保管、食器類は洗浄したうえで使用するようにした。生存に不要な(むしろ健康リスクになる)化学物質は、できるだけ付着させず、取り込まない方がよいからだ。

封水トラップを埋める

水回りのニオイは、封水トラップを埋めると弱まることがある。

キッチン、洗面、浴室など、すべての排水溝に、日に一度は水を流す。使わない場合は、さらに、フタになるもので塞ぐ。
また、毎日、最低水量でタオルだけでも洗濯して、洗濯排水溝に水を流すようにした方がよい。
筆者は、洗濯排水溝にポリ袋を何重にも被せて養生テープでとめていたが、その程度では防げなかったので、洗濯機を購入した。据え付けに来た家電量販店のスタッフは、マスクの役立たない強烈なニオイに驚いていた。夏場はトラップの水が枯れやすいので気を付けてください、とのことだった。

築年が古い物件では、封水トラップがない直管の場合がある。
封水トラップがあっても、封水切れになりがちなケースもある。コインランドリーやデリバリーを利用するなどして、水回りをほとんど使わない世帯。旅行・出張・入院等による不在が長期におよぶ世帯。また、在宅ワークや副業の推進により、居住用マンションを仕事場として借り上げ、洗濯機置き場や浴室はあっても使わず、水を流していない世帯。暑く乾燥した日が続けば、封水切れが起こるので、注意が必要だ。

脱臭機を使う

筆者の自宅はといえば、屋外の空気は問題ないが、香害製品ユーザーの来訪や、移香した商品の持ち込みにより、室内がにおう。ダイキンのストリーマ空気清浄機をターボ運転すると、半日ほどで気にならない程度にはなる。ただし、その間に、衣類や備品やエアコン内部に、移香してしまう。短時間でニオイを消す方法はないものか。

消臭を目的とするなら、空気清浄機よりも、脱臭機のほうが有効だとおもう。汎用機より専用機だ。

オフィスには、「富士通ゼネラル プラズィオン」を設置した。この製品、ペットのニオイ対策に購入するユーザーが多いようだが、香害にも有効とおもわれる。

親宅には、「シャープ 空気清浄機 プラズマクラスター」と、「ナイトライドセミコンダクター LEDPURE AM1」を設置した。香料臭を脱臭機で分解し、マイクロカプセルの壁材を空気清浄機の花粉モードで捉えるという、2段構えの「つもり」だが、どうだろうか。

プラズィオンは、比較的広い範囲を満遍なく無臭化できるような感がある。オートクリーンで手入れがラクだ。
LEDPUREは、閉鎖空間を短時間で無臭化できる感がある。ニオイの出所をピンポイントで叩くのに適しているとおもう。
また、SNSで教えていただいたものに「AirNEX」がある。悪臭が強い場合や、化学物質過敏症を発症しているケースでは、一考の価値があるだろう。
なお、(あくまで筆者の感覚だが)、移香した綿100の衣類を、脱臭機の傍に数日吊るしておくと、ニオイは半減するようである。これ以外にも、効果のある製品はいくつかありそうだ。

もっとも、こうした新素材や電子部品を使った製品は、いかに環境に配慮して開発・製造したとしても、何がしかの環境負荷は避けられない。使わずに済むならそのほうがよい。
香害製品は、環境中に、マイクロカプセルを拡散する。カプセルには、樹脂製のものもあると言われている。そして、その対策のために、筐体が樹脂の製品を必要とするなら、環境中のプラスチックは増える一方になる。
日用品のメーカーが、ボトルやパッケーのリサイクルに取り組む姿勢は、一消費者として大歓迎だ。しかし、それ以前に、取り組むべきことがあるのではなかろうか。

管理会社に相談する

換気、封水トラップの見直し、空気清浄機と脱臭機の設置、これらによりニオイは、低減した。だが、元のニオイが強烈であるため、残るニオイだけでも生活に支障をきたす。そこで管理会社に相談した。

管理会社の担当者はすぐ管工事業者に連絡してくださり、調査日時を決定。管工事業者のスタッフさんにも、口頭で説明。参考までに、と、印刷した文書を渡した。WordでA4×2枚、経緯、対策、現状、相談の4項目を簡潔にまとめ、ニオイのする場所を示した間取り図を付けたものだ。

内容はといえば、報告に終始したもので、製品名や物質名などは一切書いていない。香害については数行、サラリと触れただけである。おおむね次のような内容だ。
「柔軟剤には香料マイクロカプセルが含まれており、花粉より小さいナノサイズであることから、下水処理場をすり抜けて流出する。東京大学と愛媛大学の共同研究により、魚介類から検出されている。また、吸入による健康被害が全国で増加している。臭いだけでなく、環境中にできるだけ漏出しないほうがよいと考えられる。」

管工事業者は、排水管をチェックして、U字でなかった一か所を発見。配管を交換してくれた。これにより、ニオイは7割減、残る3割は様子見となった。数日後には電話をかけてきて、状況を尋ねてくれた。万全のサポート体制である。ありがたい。

そしてその後、ニオイは急激に薄れ、さいきんではニオイのない日が続いている。管理会社の手腕によるものとおもう。感謝している。

切り口を考えてみよう

悪臭だけを訴えても、嗅覚の個体差は大きいため、伝わりにくい場合もある。管理会社やオーナーさんにも関わる問題点を提示できないだろうか。

たとえば、次のようなことである。

1つは、漏水の可能性だ。大事に至る前に、早めの調査が有効なのではないか。水滴の音が大きく続くようなら、録音できれば伝わりやすいだろう。

2つめは、配管内に汚れが付着する可能性だ。
柔軟剤の成分が流れ続けると、プラークのように蓄積していくことは想像に難くない。オーナーさんにとっては、後々に一大洗浄をするよりも、早めに対策することが望ましいのではないか。

3つめは、杞憂にすぎないが、エアロゾル拡散の可能性である。
2003年のSARS禍での、海外の高層マンションのニュースを思い出してほしい。陰圧状態の浴室の排水トラップが乾燥していたために、ウイルスを含むエアロゾルの拡散が疑われた一件だ。可能性は非常に低いとはいえ、ニオイを感知する以上、否定しておきたいところだ。

下水とエアロゾルの関係については、JSTのレポートを参照してください。
国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター ショートレポート 「新型コロナウイルス感染症に関する環境・エネルギー分野における世界の研究開発動向:「水と感染症」編 2020年10月15日版(PDF)

ほかにも、いろいろな切り口が考えられるだろう。一入居者個人の問題に終始しない方法を考えてみるとよいのではないだろうか。

香害は、すべての地球民に関わる環境問題

香害製品ユーザーさんたちは、自分の使う良い香りに包まれて満足していることだろう。
だが、それは自室内の話。複数の入居者が、それぞれ異なる製品を使えば、共用の排水管には、ミックスした香りが流れることになる。配管の通る他の居室では、悪臭となるのだ。

自分の居室内だけの問題ではないことに気付いてほしい。
そしてそれは、他の入居者やビルのオーナーさんや管理会社の問題にとどまらない。
水は循環している。食物は連鎖する。巡り巡って、ユーザーさん自身に振りかかってくる問題でもあるのだ。

香害は、地球に生きるすべてのひとに関わる、大気と海洋の問題なのである。

脱臭機や空気清浄機のある生活を、あたりまえだとおもってはならない。それは、デフォルトではない。かつての、それらが不要だった時代の空気を取り戻そう。

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