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もしも洞察力があったなら……。

泣けるビジネス書

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ビジネス書で涙なんか出るはずがない。普通はそう思う。私もそう思っていた。しかし、この本は、違った。歴史上の人物が推進した窮状の藩を立て直した物語。現代の企業経営で学べることは何か。これを紐解いた本。読中、不覚にも、涙が止まらなくなった。

ジョンFケネディが尊敬する日本人の一人に挙げた
上杉鷹山の経営学--

長く身分としきたりを守り続けてきたために、財政難に陥り、存続危機にあった米沢藩が新しく迎えたリーダーは、弱冠17歳の若人藩主、上杉鷹山であった。彼は、破産寸前の米沢藩の現状を棚卸し、改革チームを創り、身分の上に胡坐をかく者を追い出し、殖産興業を行い、藩の危機を救ったといわれている。

同書では、鷹山の改革を家老や領民とのエピソードを交えながら、現代の企業が改革を推進するときにどのような視点で、何を考え、行動すべきかを紐解いている。バラバラになりそうだった藩士たちの気持ちが一つの方向を向き、改革が前に進み始める、そんなエピソードについ、感動をしてしまったのだ。

さて、よい改革とは、藩主の存続のために行うのではない。ましてや、官僚たちの私利私欲のためであってはならない。よい改革とは、領民のためにやるのである。領民が、窮状を脱し、少しでも豊かな生活を営むことができるように、誰もが発想しなかった根源的な課題を解決し、未来を創造していくために行うものなのだ---

このようなことが淡々とつづってある。

鷹山の改革の方針を聞いた藩士たちの反応は様々だったという。

1)素直に感動をする者
2)格式を重んじ、真っ向から改革の考えに反対をする者
3)トップとしての態度に疑いを持つ者

著者の竜門冬二氏は、大別したこの三種類の反応をこのように分析する。
1)協力派
2)反対派
3)シラケ・脱走派

過去の行政改革は緊縮政策。モラールの向上がおよそ難しい改革を推進していた。

「改革を進めるには、まず改革主体のモラールをアップしなければならない。また改革される側が喜んでその改革を受け入れるようにしなければならない。改革を喜んで受け入れたり、モラールアップをしながら改革を進めるということは、改革する側もされる側も改革の趣旨をよく理解し納得して、自発的に協力するようなムード作りが必要なのだ。それには、改革の目的そのものが、究極的には、誰かさんのために役立つという意義が設定されていなければならない。」

モラールの向上は、とても難しい。
自身の中に「モラール自家発動機」のようなものが組み込まれていれば、どうということはないが、そんな人はめったにいないのである。モラールとは、やる気、気力、士気のこと。それを支えるものは、使命感だったり、欲だったり、人によって本当に様々である。

話がかわるが、元気のない子供たちに、「やる気を出そう」と言っても、ほとんど意味がわからないようだ。やる気とは、湧き出るものであって、出そうと思って出るものではない。個々のやる気の源泉を刺激することによって、初めて出てくるのだと。

つまり、よい改革を推進するためには、自分を含め、誰か(何か)の役に立ち、いつかすばらしい未来がやってくることを理解する必要があるのだ。これがなければ、改革は受身になり、受けた痛みは痛みでしかない。上杉鷹山は、改革を進めながら、領民がはっきりと感じるように、少しずつだが、窮地から脱出する手伝いをしたのだ。

メッセージを発し、行動変革があり、実際の成果が、改革の正しさを証明する。

このサイクルを創ることができれば、イノベーションにジレンマを持つリーダーは成功にまた一歩近づけるのだ、と思う。

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