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夏目房之介の「で?」

NHKスペシャル「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」

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https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20160515

さっきまでやってた。いやあ、じつに面白かった。
最近あった韓国の囲碁チャンピオンと人工知能のたたかい(4勝1敗で人工知能の勝ち)を縦軸に、ディ-プラーニングという、自ら学びながら「創意」と「直感」を再現してゆく人工知能、さらにそこに「感情」パターンを再現させ、「倫理」的な判断もできるようにする試みなどを、羽生がロンドンや日本で開発者を訪ねて紹介。さらに、国家=都市全体を人工知能で管理しようとするシンガポールの現在なども紹介。日本のソフトバンクでは、感情で勝手に動くペッパーを開発していて、羽生と花札勝負をする。まず取材カメラに驚き、不快な感情になり、羽生に負け続けて落ち込み、画面上には「怒り」「不安」などの項目の領域が発色するスクリーンが映る。が、最終的には、羽生が勝つたびに周囲が喜んでいるのをみて、「喜び」「面白い」などの感情領域に移行する。これら感情要素は、人間の脳科学の成果を取り込んで作られているらしい。羽生は「知性」とか「人間」とかを、どう定義するか考える必要がありますね」といっていた。さすがに頭がきれる人だ。
ディープラーニングと呼ばれている自主教育システムは、これまでの対ゲームのコンピューターのように、すべての可能性を演算して選ぶのではなく、羽生が将棋で発揮しているような、最初に全体を見回して、あとは部分に集中して直感を働かせてゆくのと同じような構造で思考するようだ。つまり、人間自身が認識できない「曖昧」な領域を再現している、ということなのかもしれない。このシステムで、人間やこれまでの医療機器では発見できない、1ミリ以下のガン細胞も見つけられるコンピューターもあるという。つまり「経験」を志向的に積み上げて、「直感」を働かせる、ということなのか。ただ、こうなってくると、開発者でも人工知能の中で何が起こっているのかは、わからない。その出力された結果によって判断するほかなくなってくる。
となれば、あらかじめ「倫理」や「感情」、あるいは必要とする「価値」を与えておく必要が生じる。たとえば、仲間のロボットが作ったものを壊せと命令されると、それをいやがるロボットなどが紹介された。そうなのだ。まるで、かつてアシモフが想定し、『鉄腕アトム』を通じて知ったような世界と同じことが起きつつある。シンガポールの試みは、市民の個人情報を集積しているようで、まるで『火の鳥 未来編』やロボット反乱のSFを連想させる。そんな奇妙な既視感とともに番組をみたのであった。
中国では、スマホで会話して、自分仕様の対応をしてくれる人工知能「小氷」と結婚したいという男性も紹介されていて、興味深かった。人間は、ロボットに「知性」が生まれれば、必然的にそれを人間化してみるのである。

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