あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします。
昨年のマンガ・ベストでは、海外コミックを多く推しました。
エマニュエル・ギベール『アランの戦争』、ヴィンシュルス『ピノキオ』、ニコラ・ド・クレシー『天空のビバンドム』、エド・ブルベイカー、スティーブ・エプティング『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』の4作だが、ここ数年でほんとに多くの海外コミックの名作、秀作が出揃ってきた。昨年11月にも、ブログでヤン作、ロマン・ユゴー画『ル・グラン・デューク』(イカロス出版)の紹介をしましたが、名作とはいわないまでも、娯楽作として優れたものもたくさん出ています。ひよっとして、今年あたり海外コミックも「ブーム」とかって呼ばれるかもしれない。
というわけで、年初にあたり、おすすめの海外コミックを紹介しておこうかと。ごく個人的な好みによる選択だけど、興味のある方はご参考に。
アメコミのヒーロー物からは、まず『キャプテン・アメリカ』シリーズの『ウィンター・ソルジャー』は、すでに出たので、
☆ 『ウォッチメン』 (アラン・ムーア作 デイブ・ギブソン画 ジョン・ヒギンズ彩色 石川裕人、秋友克也、沖恭一郎、海法紀光訳 2009年 小学館集英社プロダクション)
ヒーロー物の歴史を感じさせる群像劇で、主題も相当奥深い。映画もよかった。
☆ 『キングダム・カム』 (マーク・ウェイド作 アレックス・ロス画 トッド・クレイン(レタラー) 秋友克也、依田光江訳 小学館集英社プロダクション 2010年)
これも『ウォッチメン』と似た設定と主題だが、破滅物で、かつ絵が凄い。ほとんどルネッサンス絵画で神話を眺めているみたいだ。
『ウォッチメン』のアラン・ムーアといえば、この作品。
☆ 『フロム・ヘル』上下 アラン・ムーア作 エディ・キャンベル画 柳下毅一郎訳 2009年 みすず書房
いつだったかブログでも書いた気がするけど、これは凄い力のある作品で、暗いけど読み応えはじゅうぶん。ジョニー・デップ主演の映画もなかなか面白かった。名作といってもいいだろう。
名作といえるほどの作品でいうと、やはり、
☆ 『マウス』 アート・スピーゲルマン 91年『マウスⅡ』94年 小野耕世訳 晶文社
をあげるべきだろうか。ユダヤ人の父にアウシュビッツ体験を聞きながら描かれたドキュメンタリー作品だが、このテの重量級作品というのは、日本マンガにはあまりない。
ドキュメンタリーや自伝の優れた作品も多い。
☆ 『ペルセポリス』1,2 マルジャン・サトラビ 園田恵子訳 2005年 バジリコ
イランの女性の自伝的作品で、イスラム社会の実像(の一部ではあろうが)を伝えてくれる。
☆『パレスチナ』 ジョー・サッコ 小野耕世訳 2007年 いそっぷ社
米国人の作家が、パレスチナに住んで描いたドキュメンタリー・コミック。これも面白い。
自伝的作品といえば、これだろう。ベストにあげた『アランの戦争』もそうだが、BDにも自伝的な名作は多いみたいだ。
☆『大発作 てんかんをめぐる家族の物語』 ダビッド・ベー 監修フレデリック・ボワレ 関澄かおる訳 2007年 明石書店
てんかんを持つ兄との生活を幼少時から回想した物語で、それがやがて作者をコミック・アーティストの道に進ませるんだろうな、と思わせる。ヘビー級の質量を感じさせる。
BDでは、まず恋愛物。僕の好みだが、
☆『東京は僕の庭』 ブノワ・ペータース、フレデリック・ボワレ作 フレデリック・ボワレ画 谷口ジロー(トーンワーク) 関澄かおる訳 1998年 光琳社出版
ボワレ氏は、BDと日本マンガの融合を目指し、本作は白黒作品だが、谷口ジローが日本のお家芸であるスクリーン・トーンで諧調をつけている珍しい作品。日本女性とフランス男性の恋愛物。
☆『恋愛漫画ができるまで』 フレデリック・ボワレ短編集 関澄かおる訳 1999年 美術出版社
同じボワレの短編集だが『東京は僕の庭』で共同脚本をしたブノワ・ペータースの脚本、フレデリック・ボワレの画、エマニュエル・ギベール彩色の作品が左開きで本の最後から始っている。お好きな方には興味深いでしょ。
SFやファンタジー、あるいは難解かもしれないが、ハマれば凄く面白い作品系列。『天空のビバンドム』もここかな。
☆『エデナの世界』 メビウス
☆ 『モンスター』 エンキ・ビラル 大西愛子訳 2011年 飛鳥新社
ちなみに、まだ全部読んでいないが、昨年12月、満を持して出たスクイテンの作品、
☆ 『闇の国々』 ブノワ・ペータース作 フランソワ・スクイテン画 小学館集英社プロダクション
とくに2作目の『塔』は、カフカ風でもあるが、僕の中にある原型的なイメージをなぞっているようで、面白かった。
あと、養老院でボケてゆく老人を描いたこの作品も秀作。
☆『皺』 パコ・ロカ 小野耕世、高木菜々訳 2011年 小学館集英社プロダクション
ちなみにリンクは、僕がその作品を紹介したブログの記事。