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夏目房之介の「で?」

『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』

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映画化にあわせて出版された『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』(小学館集英社プロダクション)。面白いです。

何しろ、アメコミのスーパー・コスチューム・ヒーローは、悩んでいる。キャプテン・アメリカも、もう初っ端から悩んでいて、荒れている。作品の最初のほうで、ライバルの怪人が殺され、その陰謀を巡って話は進むのだが、そこに第二次大戦でのナチとの戦い、ソ連との関係、冷戦時代のKGBとのからみなど、アメコミ・ヒーローが辿ってきた時代が織り成され、暗くて重い話が続く。

キャプテン・アメリカを助けて活躍した少年のその後の話などには、今のアメリカが抱える帰還兵士の問題も投影されているように見える。二次大戦や冷戦の記憶は、たびたびモノクロのイメージで挟み込まれ、いろんな意味で興味深いコミックである。お話そのものは面白く、読み出すとどんどん読んでしまう。

最後の決戦には、ファルコンとアイアンマンが参加するが、アイアンマンは会社の都合で途中欠場だったりするのも面白い。人物の絵は今ひとつだが、色彩や背景はなかなかいい。映像的な魅力で読んでしまうところもある。色彩と陰影の演出がいいのかも。

http://books.shopro.co.jp/comic/amecomi/captain_america.php

ところで、かなり前からアメコミやBDなどの名作が続々翻訳され、ずいぶん作品を読んできた。最初は、日本マンガとはかなり異なる部分が多く、読みにくかったし、その分面白さがわかりにくかった。しかし、次第に読み方に習熟すると、なるほど、これが面白さなんだな、と感じるようになる。ある意味、僕にとっては少女マンガと同じかも。

学習院の同僚教授に、古いBDファンのフランス人先生がいるのだが、その人と話していると、日本人としてはちょっとびっくりするようなことをいう。たとえばドアから入ってきた人物が銃を持ち上げ、会話をしたあと、テーブルの向こうの人物を撃つとする。日本マンガは、ドアを開けるコマ、人物それぞれのコマ、会話、銃を持つコマ、撃つコマ・・・・など、複数のコマで分割して、緻密に場面を追う。場合によっては、同じ人物の顔を何度もコマに分け、表情を追ったりする。

でも、BDでは、これらを一つのコマで描いたりする。その教授が日本マンガを嫌いなのは、やたらコマを分けてたらたらするところで、コマがムダだし、全然面白くないのだという。先日、浦沢直樹さんと対談したときも、彼は同じことを指摘しつつ、当然、日本型のほうが「わかりやすい」と語った。多くの日本のマンガ読者が同じように感じるだろう。

でも、同じことは、BDやコミック読者にもいえて、彼らは逆に感じているかもしれない。つまり、日本マンガが「わかりやすい」どころか、読みにくいのである。もちろん、若い読者には柔軟性があるにしても、古い、慣れた読者はなかなかなじめないものだ。実際、僕らがコミックやBDに読み慣れないと、今ひとつ面白さがわからなかったように。

いいたいのは、日本の多くの人は、自分のマンガの「わかりやすさ」「面白さ」を当然の前提にしていて、それが「読みにくい」「たらたらしている」可能性があるとは考えもしないということだ。そこをきちんと考えたほうがいいだろうと僕は思う。とても単純な「誤解」や「偏見」が、そこから生まれるだろうから。

小田切博がさかんに指摘する諸問題でもあるのだが、日本のマンガ関係者の無邪気な「日本マンガ」前提主義は、ときに無意識に「傲慢」にもなる。自戒を込めていうのだが、このあたりをクリアしないと、マンガも、その研究もうまく海外と交流できないだろう。

同じく映画化にあわせてコミックが出た『カウボーイ&エイリアン』(小学館集英社プロダクション)の原作者インタビューに、インタビュアーがこう聞く場面がある。

〈日本のマンガと違い、アメリカではコミックは”子供が読むもの”と思われがちですが、現在、グラフィックノベルとコミックはどのような層に人気があるのですか?〉

これと同じようなことを、かつて僕も書いていて、まことに赤面ものだが、ことの事情はそう簡単ではない。要するに、日本も含めて多くの国で、マンガやコミックは「子供のもの」という言説が、メディアなどに共有されているが、実際は異なるのだ。原作者スコット・ミッチェル・ローゼンバーグは、こう答えている。

〈アメコミは子供向けだと思われがちだが、それは大きな誤解だ。確かに昔はそうだったが、今ではファンと共にアメコミも成長している。幅広い内容で読者を満足させるコミックも数多く生まれている。〉

ローゼンバーグは、一時期アメコミ界を席捲したアーティストの独立系出版(会社が著作権を持つのではなく、日本と同じように作家が著作権が持つスタイル)を進めたひとりらしい。『カウボーイ&エイリアン』も、絵はいまいちだが、話はなかなか面白い。いきなり正義と神の名のもとに侵略と殺戮をする西部劇時代への批判が始ったりする。

http://books.shopro.co.jp/comic/amecomi/cowboys_aliens.php

ちなみに、この問題を詳しく知りたい人は小田切博のこの本を読んでほしい。

http://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100001744

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