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人材業界にとっての本当の脅威は、LinkedInではない

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10月末にLinkedInの日本語版がローンチされたこともあり、僕のまわりではLinkedInの話題で持ちきりです。人材業界の方はもちろん、その他業界の方からも、「LinkedInが普及すると既存の人材サービスにはインパクト大だね」というようなコメントをいただいたり、「武田さんはどう考えてるの?」という質問をいただいたりします。

自分の中でもまだ整理しきれていない部分も多くありますので、ちょっと雑な考察になってしまう部分もあるかと思いますが、個人的な見解をこの段階でまとめておきたいと思います。

LinkedInは転職サービスではない、という大前提

LinkedInの第一人者でもある谷口さんがブログや勉強会でいつもおっしゃっていますが、LinkedInのサービス価値は「ビジネスパーソンの生産性向上」であり、転職を目的としたサービスではありません。これをご覧のみなさんは僕なんかよりもよくご存知かもしれませんが、これを前提としておかないと議論が進まないので、改めて記載しました。なお、LinkedInの機能などについては谷口さんのブログ記事をご覧いただければ、イメージがつくかと思います。

LinkedInが人材業界に及ぼす影響を考える

さて、本題に入りたいと思いますが、LinkedInの日本本格参入は、人材業界にとってどのような影響を及ぼすのでしょうか。ここでは、就職サイト、転職サイトと人材紹介ビジネスにフォーカスして考えたいと思います。

就職サイト、転職サイトへの影響

LinkedInでは、低価格での求人広告掲載と、ユーザーデータベースを検索してアプローチができる、いわゆるスカウト的なサービスがあり、この2つのサービスが既存の就職サイト、転職サイトのビジネスモデルと共通するところです。ここがどう影響してくるかについては、当然のことながら「ユーザー数」と「価格設定」が大きなポイントになります。現時点ではまだまだ国内ユーザー数が多くはないこともあり、求人広告を掲載しても応募が来ない、データベースを検索しても要件を満たすユーザーに出会えない、という2つのハードルがあるかと思います。ただし、従来の就職サイト、転職サイトと比較しても低価格な料金設定ですので、今後ユーザー数が増えればもちろん大きな脅威になりえます。

実はこの2つよりもさらに大きなハードルも存在します。日本においては企業の人事部門が採用予算を管理して媒体出稿を行い、面接から現場にスイッチするのが主流であるのに対して、アメリカでは現場の責任者が採用予算を管理して面接まで行うケースが多く、自らデータベースを検索してアプローチする、というアクションが起こりにくいのが現状です。この辺についてはTechWaveに掲載いただいた記事に詳しく述べていますので、ご覧ください。

この制度的なハードルを乗り越えないと、LinkedInが従来の就職サイト、転職サイトの代替になる、というのはちょっと難しいのではないかと考えています。母集団形成を従来の就職サイト、転職サイトで行い、少し違う切り口でのスカウト活動をLinkedInで行う、という形である程度住み分けられるでしょう。ただし、小規模なベンチャー企業などのように経営者が人材採用も最前線で行うケースや、生命保険会社のように現場の責任者が採用の主導権を持つタイプの企業では徐々にではあるもののシフトが進むことも十分考えられます。

人材紹介ビジネスへの影響

このような状況の中、日本で先に変化が起こるとすれば人材紹介ビジネスの方かもしれません。人材紹介会社は良い人材をスカウトし、企業に入社した際に年収の30%程度のフィーを得るビジネスモデルです。日本語対応したばかりのLinkedInには必然的にグローバル志向の強い人材の密度が高いことが想定されますので、人材紹介会社にとっては魅力的なデータベースとなる可能性も高いです。外資系企業に特化した人材紹介会社はかなり以前からLinkedInでデータベースを検索しアプローチしています(僕自身もこうした人材紹介会社からのアプローチが来たことがあります)。ただし、当然ですがこちらもユーザー数の伸びと価格次第というところです。

本当の脅威は、LinkedInのサービス自体ではなく、LinkedInが象徴するワークスタイルの変化だ

上記に述べた通り、日本では組織構造的な課題もあり、就職サイト、転職サイトに取って代わるサービスになるにはまだまだ時間がかかるのではないかと思っています。

では、人材業界はこのままのビジネスモデルで生き残れるのか。

この問いについては僕はNoだと思っています。LinkedInのサービスそのものが脅威なのではありません。むしろ、LinkedInに象徴されるワークスタイルの変化そのものを脅威と捉えるべきでしょう。ワークスタイルが「パーソナル」「ボーダレス」「マルチタスク」化していく中で、個人が企業に就職(もしくは転職)する、という概念そのものが変化していきます。仕事そのものがより広範な概念に変化し、リクルーティングは営業活動と同化していく。当然のように転職潜在層、転職顕在層などのカテゴライズもなくなっていく。

詳しくは以前書いた記事をご覧いただければと思いますが、このような変化こそ、人材業界に携わる人間が脅威と捉え、機会に変えていくべきものです。人材業界のビジネスモデルは、何であれ人と仕事のマッチングに対しての手数料課金です(ポストペイかプリペイかなどの違いはあるにせよ)。ワークスタイルの変化によって、このマッチングの回転率が急激に上がり、一方で1つの仕事がより細分化される。アルバイトよりももっともっと短期のマイクロタスクが生まれてくる。仕事の受発注や納品プロセス、決済も変わっていく。その中で、人材事業者はどんなビジネスモデルを確立するのか。僕個人の頭の中では考えがまとまりつつありますが、ここではいったん控えさせていただきます(笑)。このテーマに関しては多くの方と議論したいと思っていますので、ぜひお気軽にお声がけいただけると嬉しいです。

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