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自分改造計画で個性を開花させたピアニスト

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ルイサダ。
パーマヘアーに、華奢なメガネ、個性的でおしゃれないでたち。ジャン・マルク・ルイサダ(1985〜)はフランス人ピアニストです。
NHKのスーパーピアノレッスンで知った方も多いのではないでしょうか。

5年に一度のショパンコンクールに2度挑戦し、一度目はプレッシャーのため舞台に出る前に泣き出してしまい、予選落ち。5年後の2度目は1985年、天才と言われたブーニンが出場した年、見事5位に入賞しています。

ある日曜日の午後、ルイサダのリサイタルに向かった私は、初めて訪れるホールへの道に迷ってしまいました。
やっとホールの前にたどり着き、時計をみるとちょうど開始時間の14時。「ああ〜っ、もう始まっているかも。一曲目は聴けないわ」と覚悟していました。すると、ホール前にタクシーが乗り付けました。なんと、タクシーの中から現れたのがルイサダご本人。
普通だと当然舞台袖で待機しているか、ステージでピアノに向かって歩いている時間です。ニコニコと車から降りる姿を見て、私はすぐに、これは意図してこの時間に到着したのだろうとすぐに察しがつきました。

ピアニストによっては、公演ギリギリまで違う環境に自分を置くほうが良いタイプと、しっかりと時間に余裕をもってホールでスタンバイするほうが良いタイプがいます。
ショパンコンクールでのエピソードを聴いたことがあったので、まさに前者のタイプだろうと思いました。

ルイサダは、見た目麗しい譜めくりの青年を伴い、そのままステージへ。

そういうわけで私はルイサダの演奏を落ち着いて1曲目から聴く事ができたのです。

ルイサダは、コンクールを受けていた時期を「もう忘れたい、おぞましい記憶なんだから(笑)。」「まったく没個性の、人々の印象に残らない人間だったんですよ。演奏もしかり。コンクールではまったく認められなかった。」と言います。

その後、ルイサダは「自分改造計画」を開始。髪を七三に分けて黒ぶちのメガネをかけ、地味なスーツを着たまじめそのものの風貌だったのを、外見から変えて、徐々に中身も変えて、さらに練習も重ねて、認められるように自分をしむけていったのだそう。

演奏家とは、繊細であらねば、人々の心をゆさぶるような音楽はできません。
しかし、繊細である一方、大勢の前で図太い神経を持って自分の音楽を披露するのはまったく別の能力が必要なのです。
内気で繊細すぎる音楽家にとって、本来の自分を保ちつつ、舞台に立つ事を行うのは大変な作業です。

・・・そこで、ルイサダの「自分改造」。
これは、私も良くわかります。

「違う自分に変身する」
人は本来いろいろな自分を持っています。
少なくとも5種類くらいは持っていて、気がつかないものもいれると何十種類もあるかもしれません。その引き出しの中から、舞台用の自分に変身する。これは、自分の能力を最大限に発揮するためのプロの知恵と技法ではないかと思います。

ルイサダの心の琴線にふれるようなショパンのワルツは本当に素晴らしい。

雄弁に語りかけ、心をくすぐるようなルバートや間合いがすべて手の内におさまっています。センス抜群でこちらまで幸せになってしまうショパンです。
それでは、本日はルイサダの演奏でショパンのワルツ第一番を聴いていただく事にいたしましょう。

リンク→ジャン・マルク・ルイサダ、ショパン:ワルツ第1番 変ホ長調 「華麗なる大円舞曲」作品18


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