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ピアノ講座その2 「手の中にあるオレンジ」 ショパンの練習曲 作品10-5「黒鍵」

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定期的に開催しているピアノ講座に音大のT教授をお招きしての記事。昨日はショパンの練習曲 作品10-1について書きました。
本日は、ショパンの練習曲、作品10-5「黒鍵」です。右手が黒い鍵盤のみで弾かれるため、「黒鍵のエチュード」と呼ばれています。
 
「演奏は、指の運びに気をとられすぎて曲としてのニュアンスが足りませんでしたね。練習曲だけれども、理想としては洒落っ気があって、一種のサロン風音楽、という風な方向性で仕上げていくと良いと思います。
冒頭のフォルテは、メッツォ・フォルテに近い形で。練習し始めの段階では、強いところは強く、弱いところは弱く、というようにメリハリをつけてくっきりと弾くのは良いと思う。しかしこのままだと、ショパン作曲というよりもプロコフィエフ作曲、というようなムードに近づいてしまいますね。」
 
「左手の伴奏形は、和音のオクターブのうち、どちらかを軽いバランスで弾くと楽しめる音楽になります。そして音量はいらないのです。全体的にペダルは軽く仕上げるように。全部踏みすぎないようにすると良いですね」
 
「良く練習してきていても、聴いているお客さんには『こんなの簡単で、朝飯前に弾けるんだよ』という雰囲気が欲しいタイプの曲なのです。」
 
文章だけ読むと厳しい指導のように思えますが、実際はとてもよく弾けていて、今すぐ演奏会に出しても恥ずかしくないくらいの内容でした。
技術的な曲の場合、つい格闘してしまい、それが表現に出てしまうのはよくあることです。サッカーの試合のようになってしまうのですね。
ここをどう乗り越えるかが難しいところです。

「24小節からの左手のオクターブ、よく歌うように。
ジャック・ルビエ先生によると、歌うオクターブはメロディになる親指の方だけ取り出して練習するようにと言っていました。そんな厄介なことしてるのかな?と思いましたが、している形跡はありましたね。」
 
「41~48小節の左はチェロのように。左を浮き立たせるために右はすごく絞ったほうが良いですね。」
 
「ショパンのエチュードはほとんどが『左の音楽』なのです。右は伴奏。
しかし伴奏だからって易しいかというと、全然易しくない。音楽の本質はどこにあるかというと左手にあるのです。」
 
「5の指(小指)だけが伸びてタッチしていますね。
音色がここだけ違って聴こえます。他の指と同じように立てて弾くと音が揃いますよ。
実際のレッスンでも、最後の仕上げの時、指のクセについてもっと言っておけばよかったといつも思います。結局そこで100点満点のところにマイナス点がついてしまう。このクセがピアニストの将来に全部関係するわけですね。」
 
中国人ピアニストのラン・ランが、指揮者でピアニストのバレンボイムにレッスンを受けに行ったときのこと。バレンボイムは『ああ、この曲はね、こうやって弾くんだよ』と言って冷蔵庫からオレンジを一個取り出してきました。オレンジを手の中にいれて落っことさないように上手く回しながら、目にもとまらぬ速さで終わりまで見事に弾ききった。
オレンジを落っことさないということは、手は丸い形になる。そこで、小指を伸ばしたり、親指を反らせたりしたら、オレンジはつぶれるか、すり落ちる。だからこのオレンジを手の真ん中にいれて回して、この姿勢を崩さすに持っていく。指にクセがある場合はオレンジにふさわしくないというわけですね。
 
オレンジを落とさないことが目的ではないですが、こういった曲を弾く場合においては手の型を一定にして右手が同じ音質で転がすように引き続けることが必要です。
ショパンはとかく右手に手の込んだパッセージが多く用いられますが、本来は左手に音楽の主導権を握らせています。ショパンが、バッハの音楽をとてもよく勉強していたというのはうなずけますね。
 
しかし、作品10-5の右手。なんと洗練された伴奏なのでしょう。

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