「P2P によるファイル交換」は「CDの売上げ」を減らしているか
先日のエントリの主旨を裏返していえば、「P2P によるファイル交換は CD の売上げには(たいして)影響していない」というのが結論です。どうして田中氏のレポートのようなものがもてはやされるかというと、著作権者側が「P2P によるファイル交換によって CD の売上げが減少している」と主張してしまうからでしょう。著作権者側である日本レコード協会(RIAJ)が出している調査報告に書かれているとおり「ファイル交換ソフトの現在利用者(=過去1年間の利用経験者)は9.6%」「目的は音楽ファイル=59.3%」であるなら、「ファイル交換ソフトが音楽市場に与えている影響は調査対象の6%弱」のはずです。全員がファイル交換ソフトを使わなくなったとしても、単純計算で6%弱の回復しか見込めません。
JASRAC のプレスリリースにも「Winny による被害相当額は、音楽ファイル4.4億円」とあります(※注 月あたりの額)。この金額から逆算すると、1曲あたり1円以下という計算になるので、おそらく現行では管轄外である原盤のネットワーク配信権などを無視した上で「JASRAC に支払われるべき対価」が計算されているのでしょう。JASRAC の年間収入は1000億円程度ですから、Winny を全面的に禁止できたところで“JASRAC が”回復できる収益は、やはり 5% 程度ということになります(この総額にはカラオケのような、およそ無関係のものも入っているので、ちょっと短絡思考ではありますが)。いずれにせよ、著作権者側のレポートを見る限り、「ファイル交換ソフト」が使われなくなったとしても、CD の売上げや JASRAC の収益に与えられる影響は、せいぜい数%だということです。
それにもかかわらず、著作権者が「P2P によるファイル交換によって CD の売上げが減少している」と言い続けてしまうと、ファイル交換ソフトが本当に禁止された(禁止できた)場合に「ほらみろ、禁止したからって CD の売上げには向上しない。結局、影響はなかったんだ」という反論の余地を与えかねません。前エントリにも書いたとおり、ファイル交換ソフトの宣伝効果と主張する人はいるわけですが、著作権者側としては「ファイル交換ソフトに宣伝効果などなく、禁止しても CD の売上げは減少しない」という程度の主張にとどめておくべきではないかと思います。売上総額への影響が比率として小さいとしても、真面目に対価を払っている人が馬鹿を見るという状況を防ぐために対策を取ることはおかしなことではないのですから。
そもそも、音楽市場は崩壊しつつあるのでしょうか。以前のエントリでも取り上げましたが、「着うた/着うたフル」に代表される音楽配信市場(着メロを含む)は、CD の売上げ減少額を補って余りあるほど成長しているようです。そこにも書いたとおり、ここ数年の新譜の数を見ると、明らかに増加傾向にあります。たとえば、2002年に出た新譜CDは12,968(シングル/アルバム合計)ですが、2006年は18,334と、実に1.5倍近くも出されているのです。80~90年代のバブル期ほどではありませんが、「CDが売れなくなっている」というより、「ユーザーが音楽配信に移行している」「CDを出しても1枚あたりの売り上げが伸びない」というところではないかと思います。
ところで、ファイル交換ソフトとは別に、RIAJ が出している違法着うたサイトに関するレポートでは、モバイルインターネット使用者中の違法サイトの使用者率は37.1%となっており、ファイル交換ソフトよりもずっと使用が広まっているようです。ここでは CD 購入に対するアンケートも行われており、(容易に想像できることですが)購入する機会が減ったことになっています。これを見る限り、「違法着うたサイトは、音楽市場に影響しているか」という質問には Yes と答えざるを得ません(しかし、3人に1人以上って相当深刻な数字という気がするのですが、本当なんでしょうか……)。また、ファイルローグ事件のことを思うと、それこそ「運営者を追求すれば済む話」ではないかとも思います。こうしたサイトは、(Winny のように匿名性が高いわけでもないので)運営者を特定することはそれほど難しいわけではないと思うのですが、どこかに高いハードルがあるのでしょうか。