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You are what you read.あるいは空気を読むなら本を読もう

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10年くらい前に社内向けの「施策立案トレーニング」を作った。
変革プロジェクトで一番重要な「ビジネスをよくする抜本的に施策」を発想する方法についてのトレーニングだ。
そこで大好きな写真を2枚紹介している。


1枚目は京成のマナー向上ポスター。

323_本を読むなら.jpg
「本を読むなら空気も読もう」
はい、クソみたいなご意見ですね。
クソすぎるから、1周回ってこのポスターが大好きだ。

毎日淡々と大過なく過ごす人生を目指すなら、もちろんこれでいい。周囲の空気を読んで迎合して生活した方がいいし、本なんか読まなくても生きていける。

でも社会や会社を、抜本的に良くしていきたい、何か面白いことをやっていきたい、と思うならば、これじゃダメだ。空気なんか読まずに本を読まなければならない。

個人的な話をしよう。僕は中1からコロナ前まで、なんと35年間も満員電車で通学通勤してきた。その最中、ずっとこんな感じで本を読んできた。特に中1の時は身長が138cmしかなかったから、完全に大人に埋もれてしまっていた。だからこのポスターよりも、もっと無理やりな状態で本を読んでいた。

新京成電鉄が訴えるように、満員電車のなかで本を読む行為は、隣の乗客に迷惑をかけていたと思う。
でも知ったことではない。満員電車を解消するのは乗客ではなく鉄道会社の仕事だし、他の乗客だって、そういうのが嫌ならば早起きして空いてる電車で通勤すりゃいいのだ(いまならリモートワークできる会社に転職するとか)。それをしない以上は、好き好んで満員電車に乗っているのだ。

そんなことよりも、大量の本を読んで社会に影響を与える人間になる方がずっと大事なことだ。本を読むというのはそれくらい大事なことだ。
ちなみに僕自身、読書は娯楽であって別に社会に影響を与える目的で読んでいた訳では無い。だが結果として、ずっと本を読んできたからこそ、仕事を通じて多少なりとも人々に影響を与えている。

もう1枚はこれ。
323_ロンドン空襲.jpg

第二次大戦中、ロンドンはドイツ空軍から猛烈に爆撃されたが、その時の写真らしい。
(それにしては異様にキレイで、あまりにも出来すぎた構図なので、フェイクかもしれない)
真偽はともかく、この写真が語りたいことは明確だ。野蛮な連中がどれだけ邪魔をしようとも、知的な営みを止めては人間おしまいだよ、というメッセージだ。


なぜこの2枚を「施策立案トレーニング」で紹介したか。
僕らのお客さんは自社のビジネスについて、僕らコンサルタントよりもずっとよく知っている。そういうお客さんが考えたことのないアイディアを僕らが発想するには、「異物であること」が大事だ。
異物であること、業界の常識に染まりすぎていないこと。
それを活かせなければ、高いお金を出して雇っていただく意味がない。

そして、最も手っ取り早く異物になるためには、本を沢山読むことだ。
だからドイツ空軍にも負けずに本を読むべきなのだ。満員電車なんかに負けないのは言うまでもない。空気なんて読んでいる場合じゃない。

そして、単に多く読むだけでなく、他人とは違うものを読んだほうがいい。
例えば15年ほど前までは、僕らのお客さんは例外なく日経新聞を読んでいた。競合他社がどんな発表をしたとか、株価がどうとか、実によくご存知だった。
だからコンサルタントも日経新聞を読むのが当然とされていた。そうしないとクライアントと話を合わせられないからだ。どこかのブログでは「日経新聞を購読していないコンサルタントはいない」と断言していた。すみません・・。
でも、僕は「お客さんと同じ物を読んで、同じような人間になってもしょうがないでしょ?」と思い、他の人が日経新聞を読んでいる横で別な本(例えば「コンテナ物語」だの「最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか」だの・・まあなんでもいい)を読んでいた。


"You are what you eat."という言葉がある。
あなたの体や心の状態は、食べたものによって決まるよ、という程度の意味だろう。
それには同意するのだが、僕はこれをちょっと変えた
You are what you read.
の方がずっと好きだ。

人間は、読んだものの結果でしかない。
僕の場合、お客さんとやっているプロジェクトの現場で発する言葉、自分の会社の経営方針、ブログや本に書くこと。これらは全部、10年とか15年前に読んだ本(what you read)が僕を通して主張しているだけだ。
たまに10年ぶりくらいに本を再読していると、「あ、いま当たり前だと思っているこの方針はもしかしたらこれがルーツなのかもな・・」と思ったりする。
僕なんてしょせん、かつて読んだものの残りカスでしかないのだ。
I am what I read.

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