ソーシャルメディア公式アカウントの運用心得〜「まんべくん」Twitter閉鎖の教訓
先週,まんべくんのTwitterアカウントが炎上・活動を停止しました。既に大きなニュースになっていますので,炎上の詳細な経緯や内容については割愛しますが,組織(このケースでは自治体)がソーシャルメディア運営をする際に考えるべき教訓があるので,振りかえってみたいと思います。
■「まんべくんTwitterアカウント」とは何だったのか?
・まんべくんキャラクターの誕生:2003年「長万部町開礎130年町制施行60年」の記念事業(wikipediaより)
・アカウント名:@manbe_kun
・フォロワー数:95,637
・Kloutスコア:84
(2011/8/24現在)
・アカウント運営開始:2010年10月16日(wikipediaより)
・アカウント活動停止:2011年8月17日(Twitterで活動停止を宣言)
・停止の発端となった発言;
「「日本の犠牲者三百十万人。日本がアジア諸国民に与えた被害者数二千万人。」
「どう見ても日本の侵略戦争が全てのはじまりです。ありがとうございました。」
・アカウント運用の効果
「長万部町」と「まんべくん」のクチコミ出現頻度の推移をグラフにしてみました。(集計ソースはクチコミ係長)
グラフのとおり,「まんべくん」と「長万部町」のネット上の出現頻度には強い相関関係があることが分かります。wikipediaをみても今年に入ってからのイベントやマスメディアへの露出は急増しています。長万部町の認知向上には,大いに役立っていたことが分かります。
ご承知のとおり,多くのメディアが,自治体の面白い活用事例として記事に取り上げていました。私自身も,ある企業向けのコンサルティング業務の中で「この運用を許容して活用している自治体の覚悟は,素晴らしい」と賞賛を込めて紹介したこともあります。
■長万部町の公式アカウントに対する意識
図は,7月末日ごろの@manbe_kunのプロフィール画面です。
図のとおり,プロフィールには,「まんべくん」超公式ツイッターとの記載してあります。目にした大多数の読者は「まんべくん」の公式アカウントと受け取るでしょう。私も,町役場の事務員の中にソーシャルメディアに明るく,経験豊富な方が,町のPRにTwitterを活用することを,上司に進言・説得した上で,運営しているものと思っていました。
しかし,そうではありませんでした。
長万部町のホームページには,今回の謝罪メッセージが掲載されています。
・お詫び
このたびの「まんべくん」の戦争についてのツイッター発言については、皆様に大変ご心配ご迷惑をおかけいたしましたことを、お詫び申し上げます。今回のツイッター上での発言は、まんべくんのキャラクターの商標を許可している株式会社エム社のコメントであり、長万部町の公式な発言でありませんので、ご理解を頂きたいと存じます。
しかし、町のキャラクターである「まんべくん」の発言であり、皆様にご心配ご迷惑をおかけいたしましたことを重ねて深くお詫び申し上げます。
今後の対応については、ツイッターを運営していたエム社への「まんべくん」の使用許諾権を禁止し、まんべくんツイッターは中止となります。
改めてお詫び申し上げるとともに、今後このようなことのないよう十分に注意を払い、更に今回の状況を調査し適切な対応をして参ります。
平成23年8月16日
長万部町長白井 捷一
そして,まんべくんのサイトでは,
このたびの「まんべくん」の戦争についてのツイッター発言については、皆様に大変ご心配ご迷惑をおかけいたしましたことをお詫び申し上げます。 今回のまんべくんのツイッター(@manbe_kun)での発言は、弊社スタッフの個人的な意見であり、長万部町とは全く無関係な発言です。 今後の対応につきまして、長万部町と協議した結果、まんべくんのツイッターは中止となります。 皆様にご心配ご迷惑をおかけいたしましたことを重ねて深くお詫び申し上げます。(中略)
皆様にご迷惑をおかけいたしますがご理解のほどよろしくお願い致します。
株式会社エム
この内容から,「まんべくん」のTwitterアカウント(@manbe_kun)の運営実態は,以下のようなものであったことが明らかになりました。
・長万部町は株式会社エム(以下、エム社と記します)に「まんべくんのキャラクターの商標を許可」していた。
・エム社は,その権利を根拠に「長万部町とは全く無関係」に運営していた。
更に時事通信のニュースでは,総務課の回答として,
・長万部町は書き込みを株式会社エムに無報酬で委託していた。
・エム社からまんべくんの名前でツイッターを始めたいと申し出があって開始した。
とされています。
恐らく,町からすると費用も手間も負担する必要のないPR手法をエム社が提案してくれたので,メリットを感じて,許可したものと思われます。このような経緯と運用後の状況を見ても,町にはアカウントの運用ポリシーはなかった(あるいは「よろしくやってね」というポリシーがあった)状況と推察されます。いや,運用ポリシーはおろか,公式アカウントを運営している意識もなかったのでしょう。事実,まんべくんのサイトに掲載された上記謝罪文は,株式会社エムが発信者になっています。
私は今回の最大の問題は、長万部町がこのような不十分な準備・認識で「公式アカウント」としての運用を容認したことにあると思います。上記のような運営実態であれば,
「このアカウントは,町よりまんべくんの商標利用の許諾を受けた,株式会社エムが独自に運営しています。」
といった表現がホームページや,Twitterアカウントのプロフィールページに掲載されてあるべきです。そうしておけば,長万部町の戦争認識に対する批判でなく,そのような発言をする業者に許諾したことが批判の論点となっていたでしょう。
また,運営の目的が「町のPR」として一致しているものの,実践する方法論については,コンセンサスをとっていたとは思えません。公式アカウントと名乗らせるのであれば,発言して「良いこと」「悪いこと」の基準を長万部町が主体的に定義することが必要でした。また,仮に定義したとしても,無償での運用です。町がエム社の運用手法を主導することも,難しかったでしょう。(ちなみにエム社の社長さんは、ご自身のTwitterで「まんべくんは必ず復活させる」とおっしゃっています。)
■「公式アカウント」を運営する組織の心得
今日,多くの企業でTwitterの「公式アカウント」と称したアカウントが運営されています。運用ポリシーに,「発言は,運用担当者の見解に過ぎず,会社の意見を表明しているものではありません」といった注釈を付けられることも珍しくありません。リスク管理の観点から,免責事項を明記することは理解できます。「公式アカウント」と称されるアカウントについて,言葉の用法や運用基準として,世の中にオーソライズされた定義はありません。しかし,読者からすれば,それと名乗るからには,少なくとも「組織の内部関係者が運営しているであろう」とイメージします。今回の件だけでなく,47ニュースの公式アカウント,てくにゃんが閉鎖に追い込まれたことも記憶に新しいところです。このアカウントでも,プロフィールには「会社の公式な見解とは必ずしも一致するものではございませんのでご了承下さい。」との記載がありました。
このように,公式アカウントを運営する以上,
・組織の内部関係者としてふさわしい(あるいは差し支えない)発言を求める運用ルールを設け
・運用ルールを履行しているか否かを評価し,していない場合には指導する(あるいは運用ルールを変更する)
責任は求められることを覚悟しなければなりません。
今回の一件で,その責任を自覚しないで,公式アカウントを運営することは,大変危険なことであることが明らかになりました。当然,コストも労力もかけずに,運営できる代物ではありません。
■ヤマハのソーシャルメディアに関する考え方
ヤマハ株式会社では,事業部門が運営しているアカウントを「公式アカウント」と表現せずに「承認されたアカウント」と表現しています。「公式アカウント」としても,企業の「公式な見解ではない」実態を鑑みての配慮です。必ずしも「公式」という表現を使うべきでないと主張しているわけではありませんが,企業のアカウント運営の参考になると思いますので,紹介します。
ヤマハのホームページに用意されたソーシャルメディアの考え方においては,「お客さまへのご案内」という項目の文中,
会社が承認したアカウントを運営する担当者がソーシャルメディアにおいて発信する情報は、ソーシャルメディアの持っている特性上、すべてを確認してから発信するわけではありません。その点で必ずしもヤマハの公式発表・見解を表しているものではありません。後日訂正させていただく場合もあります。あらかじめご了承ください。公式な発表・見解は、当社ウェブサイトおよびニュースリリースなどで発信いたしております。
と明記されています。
また,「何者が」「どんな目的で」「どんな考え方で」「どんなやり方で」 ソーシャルメディアを活用しようとしているか,をしっかり表明することで,なるべく実態をそのままに読者に伝えることに努めておられます。
活動の透明性を高める試みは,企業の意図を少しでも読者に深く理解してもらい姿勢の表れでもあり,少しでも誤解を招くリスクを抑制する工夫でもあります。
(当社(ループス・コミュニケーションズ)は,ヤマハ株式会社さんのソーシャルメディア運用に関するコンサルテーションサービスを提供させていただいております。)
Facebookページリニューアルのご報告
ループスのFacebookページをリニューアルオープンしました。
日本語の「ループス」も含めたページ名にしたこと、これまで未対応だったチェックイン機能のスポットに対応したこと、主にこれら2点を旧ページ「Looops」から改善しています。
この新ページ限定のコンテンツ・最新情報も発信していく予定です。引き続き応援いただければと思います。