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話題のIT(主にソーシャルメディア)関連の記事を深掘りしてゆきます

人の口に戸は立てられぬ。ソーシャルメディア時代の言論統制

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■九州電力のやらせメール

 松本前復興相に続き,九州電力も大変な非難を受けています。
 7/6の予算委員会で笠井衆議院議員が,いわゆる「やらせメール」を追求。その夜,九州電力の社長がその事実を認め,一斉にマスコミが報道を開始しました。

時系列に経緯を整理すると,

6/22 九電が関係会社に件名「国主催によ佐賀県民向け説明会(原子力発電所の安全性)」
   なる電子メール(やらせメール)を配信する
6/26 佐賀県民向け説明会が開催される
7/2  日本共産党が発行する「しんぶん赤旗」にその事実が掲載される
7/6  予算委員会で追求。九電社長がその事実があったことを認め,マスコミが報道を開始する

といった流れです。

やらせメールからは,関係者の世論をコントロールしようとする,強い意志を感じることが出来ます。
ネット上では,どのような発信がなされているでしょうか?
7/2に「しんぶん赤旗」の記事を受けて,Twitter上で,「怒りのツイート」が多数確認できますが,それ以前の情報を調べてみると,次のようなブログを確認できました。

・6/25 「ずるずるべったん(ニックネーム)」さんのブログ

 小学校の親子ドッチボール大会で同じチームの九電関係者の方が,「九電がコンプラ違反」をしている事を愚痴られたことが記されています。更には,今となっては有名な「やらせメール」を見せてもらったとも記されています。見せてもらっただけで,曖昧な記憶を辿って目にした内容を纏めておられます。その内容は,公開されてた文章と概ね一致していますので,同一の文章であったと思われます。コメントを読み進めると,7/1までに,ずるずるべったんさんは,マスコミや原発稼働に反対する団体に,この内容を知らせていることも,書かれています。


・6/26 「紙屋研究所」さんのブログ

 こちらでは,「電力会社の関連企業(福岡県)の方から文章をもらった。」とあります。文章中の「発電再開容認の一国民の立場から真摯にかつ国民の共感を得ることができるよう,意見や質問をメールしてください」という件をもとに,ご丁寧に投稿メールの文案テンプレートを,3種類用意されています。勿論,所業に呆れての痛烈な皮肉です。

 上記,2つとも文書を受け取った(指示を受けた)関係者から,情報は流出した模様です。どのようにすれば,漏洩を防ぐことができたでしょうか?電子メールでなく,社外秘印や書類ごとにシリアル番号でも付けていれば,抑止できたでしょうか?そのような手段を講じても,恐らく同じ結果になったのではないかと私は思います。理不尽であったり,違法なこと,世間の常識から大きく乖離した命令を受けると,反発することは自然な感情でしょう。ニュース記事によると,メールが配信された子会社の社員数は2,300人。仮にすべての人に指示があったとすると,1人/2,300人(0.04%)が行動に移せばよいことです。その1名が,上例のように,ネット上にメッセージを発信できるメディアをもつ人に伝えれば、よいことです。行動を統制するには,配信した全員の行動や言動を常に監視するか,全員の「心」をコントロールすることが必要になります。何れも現実離れした所業です。仮に,大変厳しい罰則を設けて,脅迫したとしても,終身雇用という慣行の希薄化が進む中,心を支配する影響力は年々薄れてきています。更には,「理不尽な命令を強要された事」は記憶として残り、その企業に対するネガティブな感情を育むことにもなります。

■コモンウエルズバンクのソーシャルメディア・ポリシー

 今年の2月に,オーストラリアのコモンウエルズ・バンクでも,内部文書が公開され大きな騒ぎになりました。問題となった文書は,社員向けのソーシャルメディア・ポリシーです。通常は,問題となりにくい類の社内文書ですが,その内容の一部に批判の声が多数あがりました。

オーストラリアのビジネス系ニュースサイトBusiness Spectatorブログ記事の執筆者Charis Palmer氏は,銀行スタッフから文書を入手したことを,明らかにしています。社員44,000人に共有されたソーシャルメディア・ポリシーです。1人/44,000人が行動したことで問題が明らかになりました。
話題となったのは,

「あなたの友人が,あなたのfacebook wallやブログなどで当グループにダメージを与える投稿をした場合には,あなたを解雇することもある。」

といった内容です。
どうやって友人(投稿するのは友人以外のことも十分考えられます)の言論を統制するのか?
どうして友人の発言にまで責任をもたなければならないのか?
といった意見が沢山ネット上を飛び交いました。
 銀行の規約です。情報統制を強化したい思いは重々理解できます。しかし,不可能なことを強いる姿勢に対して,行き過ぎを感じた社員が,リーク行動を起こしたのだと思われます。

■IBMのビジネス・コンダクト・ガイドライン

 九州電力の場合は,協力会社や子会社は親会社の命令には従うもの,コモンウエルスバンクの場合は,企業側のリスクは最小限に押さえるために,その責任を極力社員に転嫁したいといった思惑が透けて見えます。このように「正義を曲げて,企業の都合の良い方向」に人々の意見を誘導・制御できるとの考えは,もはや通用しません。無茶な命令を発しないこと,不満を蓄積させないことを考えなければなりません。
 IBMは社員一人ひとりが遵守すべき行動基準「ビジネス・コンダクト・ガイドライン」をホームーページに公開しています。

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勿論「何でも,誰にでも内部情報を公開する」ことを認めているわけでは,ありません。許可無く機密情報を開示してはならないことも「当然のことだから守れ」とはせず,「どうして、開示してはならないか?」ということをしっかりと規約内で説明されています。

 文中、「基本方針」では、

IBMのインテグリティ,名声そしてブランドは皆さんひとりひとりにかかっていると言っても過言ではありません

とあります。社員が担う重い責任を自覚してもらうための言葉も,散りばめられています。裏返せば,企業が社員を信頼したうえで,重い責任ある役割を任せているというメッセージでもあるでしょう。

透明性が叫ばれている昨今,企業が社員や関係先と向き合っている有様を公開することは,リスク回避にも繋がる姿勢でもあります。

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