デザイン、ブランド、マーケティング……。フェラーリから老舗の和菓子屋さんまで、わざわざ顧客が買いに来るビジネスには、必ず意図や戦略があります。世の中のモノやコトを眺めながら、その意図や戦略を勝手に遡ってみる、そんな頭の体操みたいなことを書いてみましょうか。

視点を変えてみると・・・水道の蛇口も機能から体験に。

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最短距離である地点に行くことや効率を追求することが最善策とは限らないし、理屈で正しいことが答えとして正しいとも限らない。アイデアを考えるときには、視点を色々動かしながら、組み合わせる要素を色々と変えながら考えていきます。

そういう際、アタマの隅に何となく入れておいたものが、ふっと役に立つことがあるので、特別構えているわけではないのですが、普段から色々なものを眺めるのは好きな方です。

そんな感じでウェブを眺めている時に、様々なデザインのプロジェクトを紹介している YANKODESIGN のサイトで印象的な水栓金具が眼に入りました。今回はそれをネタに、少し思考の遊びをしてみました。


◆1Limit:機能を体験に変える

記事を読む限りでは、商品化されているものではなく、まだコンセプト段階らしいその水栓金具(蛇口)は、『1Limit』という名称のもの。ブログのフォント表記では雰囲気が出ないけど、ロゴの表記を見れば「1L」と「Limit」を掛け合わせた名称であることが判ります。


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いいなあとワタシが感じたのは、シンプルな仕組みでその全貌が理解できるデザインとなっていることです。通常の蛇口を30秒開けておくと6Lの水が流れてしまうのが、1Lで済むというのが売り。

試験管(あるいはメスシリンダー)みたいなチューブが付いた蛇口のレバーを操作すると、上部の"試験管"に蓄えられた水が落ちてくる。その時に使える最大量が1L。そして、水を止めると再び蛇口上部のチューブに1Lの水が満たされる、この繰り返し。


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具現化していこうとすると、重力で落ちてくる水量を体感的に「ちょうどいい感じ」にチューングしていくのが案外難しそうではありますが、上手く作れれば楽しいものになりそうです。

我々が色々な場所で見慣れている、手をかざすと水が出てくる自動水栓も、タイマーで一度に吐出する水量をコントロールしているので、節水という「機能」で見ると1Limitがやっていること自体は特別新しいことではありません。違いは、節水をバックグラウンドの機能として提供しているか、可視化してユーザーの体験として提供しているかというところでしょう。

商業施設や駅などの洗面で、よくある(くらいに我々は慣れてしまった)自動水栓の蛇口を眼にしても、『自動で便利』か、『雑菌がついているかもしれない蛇口廻りの金具類を触らずに済むので安心』といったことは感じても、節水に意識が向く人は少ないんじゃないでしょうか。それは、ビルや施設の所有者のニーズであって、利用者のそれじゃない。

だから、せっかくカッコ良く仕上げられた洗面スペースだったとしても、『節水にご協力ください』というようなお願いプレートを眼にした瞬間に興ざめ、利用者(顧客)へのホスピタリティよりも提供者側の都合が優先されている様にさえ感じてしまいます。(ワタシが意地悪な性格なだけなのかもしれませんが。 笑)


でも同じ洗面スペースに、この1Limitが付いていたらどうだろう?使用の体験そのものにある種のエンターテイメント的な要素もあるのだから、少なくとも、『節水にご協力ください』という貼り紙(もしくはプレート)は有り得ない気がします。そんなものが無くても、利用者は視覚と体験で何となく水の有り難みも感じるでしょうし。

更には、こういうものを備えることで環境への意識が高い企業として、いい面でのブランドイメージだって持って貰えるかもしれません。(まぁ、ここまでいくと"たられば"話しもキリがありませんが。)

レストランとか商業施設の洗面にこんな蛇口が付いていたら、何だか楽しくなっちゃいそうだなぁ。

スタイリングの好き嫌いはあるでしょうし、CGでコンセプトが表現されているだけなので、『作動の様子を見て楽しめ、心地よく使える』というモノとしての最大ポイントの実現度合いも判らない段階です。しかし、節水を「機能」だけでなくそれ以外の「何らかの価値」を付加しようとしているところに、問題解決のデザインの使い方としては上手いなぁと、記事を見て感じたのでした。



◆理屈が正しくても、人の行動を引き出すとは限らない

エコや環境対応といったテーマは、今や多くの人がその必要性は理解しているでしょう。しかし、それらのことを生活の中に採り入れる段階で、これまでの習慣に対してある種の不便や、手間が増えるといったことが伴う場合、行動に移すことが出来る人は減ってしまうのが現実でしょう。

これまでの我々は、より便利に、より快適に、より効率的に、より安全に... といったことを切り口として、モノやサービスを作ってきたから。新しいモノやサービスを使うことで、多少メンドウクサイこともあるよね、っていう方向は、ごく最近になって我々が体験し始めたことで、まだ慣れないことなのかもしれません。

だから、エコだとかサスティナビリティだとか、(地球という視点で、今後も我々が生活してくための)理屈として正しいことの認知を図るのも大切ですが、行動できるよう背中を押してあげる"仕掛け"も商品やサービスには必要だなぁと思います。我慢や不便を楽しみやジマンなど、気分を転換するような「何か」で。


例えば、エコバッグなんかは浸透が上手くいった例なのでしょう。行動の中身だけを取り出せば、『買い物に行くときには買い物袋を持って出掛ける』という昔ながらのスタイルに逆戻りして、面倒だと感じた人もいたでしょうけれど、バッグのファッション性だったり、(その人にとって意味のある)『エコバッグを持つワタシ』をライフスタイル表現するツールだったりといったことが、不便や面倒から気分(価値)を転換したという面もありそうです。

もう少し高額なものでクルマはどうか?少し前までのエコカー減税や補助などがあった時期に、ハイブリッドカーが随分売れました。その一方でここ10年くらい(もっとかな?)クルマの買い換えサイクルはどんどん伸びてきて、長く使うのがトレンドでした。これがハイブリッドカーでも続くのか、個人的には興味があります。ハイブリッド走行用と従来車と同じ12Vのバッテリー交換の時期が訪れたとき、高額なその交換費用を通常の車検費用とは別に支払う、ということを人々は受入れることができるのか、ここがポイントになりそうです。

さあ、これまで通り「長く乗る」トレンドが続くのか、それとも「バッテリー寿命と共に使い捨て」というエコなんだかどうだか良く判らない時代がくるのか。いよいよ電気自動車も始まりますし、暫くは混沌としてトレンドらしきものの形成には時間が掛かるのかも。


ひとつの蛇口の画像から、連想ゲームみたいに考えてみましたが、いずれにせよ『意味の創造』の重要度は高まるばかりだなぁと、自分の仕事へも眼を向けつつ思うのでした。



林田 浩一



◆製造業(中小企業)向けモノづくり講座のお知らせ

下請けによる部品製造受託業務だけでなく、最終プロダクトをつくることを目指す製造業向けに、顧客起点からのモノづくりビジネスを事業化することを目指す講座『マイクロモノづくり経営革新講座』をこの度リリースしました。

主催は、中小製造業支援を事業としている株式会社enmonoで、ワタシも講師の一人として参加します。中小企業による最終プロダクトの取り組み事例と、製品企画のためのコンセプトメイクからWebを使った販売まで、上流から下流までのビジネスプロセスをワークショップを中心に、全9回の講座となっています。

この講座は、単に学習して終わるのではなく、講座修了後に参加企業の方が最終製品づくりを事業化していくことの後押しを狙いとしています。なので、講座での体験をプレ事業化での、最初の小さな失敗の場として活用していただくこともお勧めしたいですね。


マイクロモノづくり経営革新講座_ページ_1のコピー.jpg

詳しいお問い合わせ先(事務局): info@enmono.jp
株式会社enmonoについて: http://enmono.jimdo.com/


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