デザイン、ブランド、マーケティング……。フェラーリから老舗の和菓子屋さんまで、わざわざ顧客が買いに来るビジネスには、必ず意図や戦略があります。世の中のモノやコトを眺めながら、その意図や戦略を勝手に遡ってみる、そんな頭の体操みたいなことを書いてみましょうか。

ブランドの魅力づくりには「これまでの歴史」と「これからの未来観」が欲しい

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 皆さま初めまして。林田浩一と申します。プロダクトデザイナーだったり、デザインやマーケティング、ブランドといったことに関するコンサルタントだったり、というようなことで企業の商品企画からデザイン開発、マーケティングまでを色々な形態でお手伝いする仕事をしています。

 最初は、自動車メーカーでのデザイナーでした。そこで10年弱を過ごした後、経営戦略のツールとしてのデザイン活用という、いってみれば「デザインの使いこなし方」という方向へ興味が拡がり、気が付いたら一言で「●●屋」と表せない感じになっていました。(笑)

 デザインやマーケティング、ブランドといったものは、今や中小企業でも無視できないものとなっています。(というより、中小企業こそこれらを上手く活用して、顧客から「指名買い」される存在となって欲しいと考え、日々私もお手伝いさせていただいています)

 そんな訳で、このブログでもデザインとかマーケティングとか、ブランドといったものの「使い方」という視点から書いていこうかなぁ、と考えています。実は同じ様なテーマで、これまで別のところでブログを書いているのですが、今回この誠ブログに参加するにあたって、内容の棲み分けを図るか、こちらへ引っ越しか、というようなことはまだちゃんと決めていません。

 ここまで自己紹介みたいなものを書いたところで、まず1回目に何を書こうかと考えたのですが、私は最初が自動車メーカーだったせいかこれまではクルマ関連の仕事が比較的多いので、まずはクルマ、その中でも少し派手なクルマである、フェラーリとポルシェを今回はネタにしつつブランド価値について思っていることから書き始めようかと思います。(尚ワタクシの仕事につきましては、ジドーシャに関連しないお仕事も、熱烈歓迎・絶賛募集中ですので、お気軽にお問い合わせ下さい!)

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・ブランドの魅力づくりには「これまでの歴史」と「これからの未来観」が欲しい

 現在、我々の廻りには膨大な量の情報が流れており、その量は日々拡大しています。ビジネスの環境としてみれば、ひとひとつのビジネスや企業は、何らかの(顧客にとって意味がある)"目印"がなければその存在が埋もれやすいということにもなります。

 その対応策として、企業のマーケティングでブランドの重要度が増しているのはご承知のとおりです。ブランド戦略というと「継続性」や「一貫性」といったキーワードが、重要なものとして良く聞かれます。確かに、長く続いている有名ブランドには、これらの要素が備わっています。しかし、それだけでは継続的なブランド価値を獲得・維持していくことは難しいように感じています。

 これらに加えて欲しいのは、「末来観」というようなもの。このことを感じたのは、昨年フェラーリの最新モデルである458ITALIAが発表された際に、このクルマについての情報を集めていたとき(もちろん自分が購入するためではなく、仕事上の情報収集です)でした。


 クルマにはスーパーカーやスポーツカーというニッチな市場がありまして、中でもフェラーリとポルシェという2つのメーカーは、モノ(製品)としてのクルマのみならず、商品戦略やブランド戦略を見ていても興味深いものがあります。(もちろん私は、両社共に内部の人として過ごしたことはありませんから、戦略といっても勝手な仮説でありますが)

 どちらも、スポーツカー専業ビジネス。生産規模(世界のディーラーへ販売した数)でいうとフェラーリは年間6,000台少々(2009年)、ポルシェは年間95,000台程度(2010年)と異なり、また対象顧客層も異なるビジネスを展開していますが、どちらも「レース生まれ」をブランドの核に置いた製品開発で、ブランドイメージを蓄積してきたという点では共通しています。そして、世の中の景気が悪いといいながらも、どちらも業績は悪くないというところも。


 先のフェラーリの最新モデル、458ITALIAから感じたのはフェラーリ・ブランドに漂うある種の行き詰まり感のようなもの。これが不思議とポルシェからは感じません。この差を考えた際に頭に浮かんだのは、「末来の方向性」が判り易いか否かという点でした。

 同じように「レース生まれ」を使いながら、フェラーリが市販車(ロードカー)のオーナーへ提供している世界観はレーシングカーの疑似体験。そのためハードウェアやスペックが重要。現在のフェラーリが最も力を入れているレースカテゴリーはF1ですから、そのイメージを訴求する技術的なデバイスやスタイルを、市販車である458ITALIAにも盛り込もうとしているのは理解できます。


458web_yellow.jpg

公式ウェブサイトより>

 

 モデルが新しくなるごとに最新技術を投入し、一般路上では使い切れない程のパフォーマンスを追求していく(同時にイージードライブも)。フェラーリを購入する顧客には、走らせること、高性能を乗りこなすことを価値とする走り志向の人だけでなく、コレクターとまではいかなくとも、希少性と所有そのものに価値を置いている人も少なくありません。なので、これまではこういった展開のさせ方は、戦略的には正しかったのだと思います。

 しかしフェラーリのラインナップの中でもミドルクラスである458ITALIAでさえ、性能的にはある意味究極のところまできてしまっているのを見ると、現状のF1(のイメージの)疑似体験の先は、フェラーリはどこへ向かうのだろうとも感じるのです。(ハイブリッドカーの実験車などもモーターショーなどで公開していますが、まだまだPR的な雰囲気の方を強く感じてしまいます)

 私が商品開発やデザイン、ブランドマネジメントなどの仕事でお手伝いさせていただいている顧客に、フェラーリのカスタマイズを始めとする、アフターマーケットビジネスや点検整備などを手掛けている企業があります。ここの顧客(エンドユーザー)は、所有よりも走り志向のフェラーリユーザー方が多いようですが、こういったタイプのフェラーリユーザーの方々が、最新の458ITALIAにあまり興味を示さず、購入もしていない雰囲気なのも、これまでと様子が少し変わってきたなぁと思う点です。更には、少しずつながらも市場への供給量を増やしてきていることは、事業の拡大という面とこれまで価値のひとつであった希少性は希薄化していくという面があります。そのバランスを彼らがどこで取ろうとしているのかも興味深いところです。

 

 他方、ポルシェの方から感じるのは、ドライビングの楽しみを提供する先にレースもあるという世界観。ポルシェにも、自動車雑誌が「最新のポルシェが最良のポルシェである」という言い回しが昔から使われるように、性能志向な面もありますが、どちらかというとクルマは媒体でありアイコンである感じです。だから、彼らはラインナップ上で、トップレンジのスポーツカーと位置付けている911シリーズの中にはGT3RSのように、レーシングカーにもなるロードカーを商品として持つ必要があると考えているのではないでしょうか。

 そしてポルシェ自身が行うレース活動においても、顧客が購入することができる911GT3RSの延長線上にあるハイブリッドレーシングカー「GT3R Hybrid(写真の右)」を走らせるなどして、少し先の未来への方向性を見せていくことにも熱心です。「環境問題など世の中が求めることへ対応しつつも、日常からサーキットでのレースまで、ドライビングを楽しむ人たちを今後も支援し続けますよ」と。

 事業の稼ぎ頭は今やスポーツカーである911ではなく、SUVや4ドアセダンのモデルに移っている現在でも、彼らのブランドの見せ方という面での行動からは「スポーツカー専業の量産メーカー」であることを重視していることが感じられます。昨年のジュネーブモーターショーで発表したハイブリッドのスポーツカー「918スパイダー(写真の左)」を、ショーだけのコンセプトカーに留めず生産へゴーサインを出したのも、販売したという実績を重視しているからなのでしょう。現在開催中のデトロイトモーターショーでは、進化版ともいう「918RSR」を発表しました。(プレス発表の模様:リンク先動画


911GT3Hybrid.jpg


 フェラーリとポルシェから感じられるブランド戦略の違い、それぞれ対象顧客層も異なりますから、どちらが正しいというものでもないし、458ITALIAから感じた「行き詰まり感」も私だけが感じているものかもしれません。

 ただ、ブランドは顧客側のアタマの中に形成されるもの、と考えると「過去から現在」と「現在から未来」と時間軸に沿ったメッセージを感じる点で、今の時点ではポルシェの方が強いなぁと思った次第です。そのブランドが向かおうとしている未来が感じられた方が、現在と未来の顧客共に期待感につながりますしね。


 どちらもブランド力は強力ですから、この先は判りません。それぞれの次の手が楽しみでもあります。どちらも公式ウェブサイトやFacebookでの、ユーザーやファンへの情報提供やコミュニケーションを積極化させていることも注目しています。

 ことフェラーリの方は、ひと昔前のブランドイメージからすると、違和感がある程の(笑)フレンドリーさですから、これから何が変わって何が変わらないのか、暫しその行方を注意していきたいと思っています。

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