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「モノ」ではなく「コト」を売る:DXで案件を得るための鉄則

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「担当している製品について、その魅力を、簡潔明瞭に説明して下さい。」

自社のプライベート展示会で、自分の担当する製品を紹介する人たちを対象に、「言葉を磨く研修」を実施しました。「限られた時間の中で、お客様を惹き付け、商談のきっかけを手に入れるためのメッセージ」を作ろうというのが狙いです。同時に、自分の担当する製品についての理解を深め、このイベントだけではなく、その後の営業活動にも役立てようという狙いもありました。

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それぞれの製品を担当する人たちに、5分の説明を作ってもらい、受講者全員の前で説明してもらいました。そして、他の受講者たちが顧客になったつもりで、感想を述べてももらいました。

すると、「何を伝えたいのかが分かりにくかった」という意見がかなりあり、そんな感想を述べている当人も、自分の説明となると、なかなかうまく説明できず、結果として、同じような感想をもらっていました。

彼らの説明には、共通して次のような特徴があります。

  • 資料の各ページに、これでもかと言うほど沢山の文字や図表が詰め込まれている。
  • 説明することで精一杯になり、相手の反応を見ていない。
  • 製品そのものの機能や性能、特徴の説明に終始し、その製品を使う全体の工程がどうなるのかの説明がない。

競合がひしめく中、自分たちの優位を、機能や性能で説明しようとするのは、容易なことではありません。各社それぞれに自分の優位を語ったとしても、それを比較する立場の顧客にとっては、一長一短と映るでしょう。ましてや、同じ会社でその製品について、ある程度の知識があるはずの人たちでさえ、「何を伝えたいのかが分かりにくかった」となれば、前提知識のないお客様に伝わることなどありません。

ではどうすればいいのでしょうか。上記の3つの特長から、その解決策を考えてみましょう。

1.資料の各ページに、これでもかと言うほど沢山の文字や図表が詰め込まれている

担当者はそれぞれに、何十ページにも及ぶ説明資料を持っています。それを5分で説明せよとなって、「何十ページ」を「数ページ」に圧縮しようとしたのでしょう。説明すべき事柄の重要度で内容を取捨選択するのではなく、どうすれば、「何十ページ」の資料に書かれていることを効率よく全て「簡潔明瞭」に説明しようかと考えたようです。結局、1ページに詰め込まれる情報量は膨大になり、そのページで、なにを伝えたいのかが分からなくなっていました。

「限られた時間の中で、お客様を惹き付け、商談のきっかけを手に入れること」という目的は、「限られた時間の中で、自分の持っている情報を全部説明しきること」という目的に、置き換えられてしまったのかもしれません。

展示会での説明に限ったことではありません。日常の営業活動でも、同じような状況に遭遇することは珍しくありません。「もっと話しを聞かせて欲しい」というお客の様の気持ちを引き出す前に、「もううんざり、はやく話すのをやめて欲しい」という気持ちを引き出してしまうようでは、うまくはいきません。

自分が伝えたいことではなく、相手が知りたいことを伝える

まずは、この視点の切り替えが必要です。相手の立場、相手の困りごと、相手がなぜこの時間を作ってくれたのか、そんなことに思いを巡らせ、相手の知りたいことを想像し、それを端的に説明することです。

詳細な説明などどうでもいいのです。「まさにこれが聞きたかった」となれば、「さらに詳しく聞かせて欲しい」と相手が催促するはずです。そんな手順を踏まずに、いきなりいろいろな説明をされても、相手は困ってしまうでしょう。

2.説明することで精一杯になり、相手の反応を見ていない

前節で、「相手が知りたいことを伝える」ことが大切だと述べました。しかし、それは、自分の想像であって、「きっとそうだろう」という仮説に過ぎません。だから自分が、「きっとそうだろう」とひとしきり説明し終えたところで、相手の反応を確認しなくてはなりません。

「このようなことで、お困りになられてはいませんか」や「このようなやり方にご興味はありませんか」などの問いかけで、相手の考えを引き出すことも、ひとつの方法です。

伝えたという自分の満足に浸るのではなく、よく分かったという相手の満足を引き出す

「よく分かった」とは、内容が理解できたと言うことに留まりません。説明を聞いた相手が、「これは聞く価値がありそうだ」という気持ちになることまで、丁寧に確認し、次につなげられなければ、相手の満足は生まれません。

そのためには、「相手が知りたいこと」を見極め、まずはこれに絞って、相手に伝え、「相手の反応を確認」して、相手に関心があるのか、ないのかを丁寧に確認することです。そして、関心があれば、さらにそれを深く突き詰め、関心がなければ、相手の関心についての仮説を他のものに切り替え、別の話題に切り替える。そういう臨機応変な対応が必要です。

プレゼンテーションはコミュニケーションである

相手の反応に応じて内容をダイナミックに切り替えられてこそ、魅力的なプレゼンテーションになります。そんな相手の反応の可能性を全て想定して説明資料を用意しておくことが理想と言えるかもしれません。しかし、説明資料などなくても、自分が担当する製品やサービスについて、突き詰めていれば、言葉だけでも伝わります。

では、どのように突き詰めればいいのでしょうか。それについては、次節で説明します。

3.製品そのものの機能や性能、特徴の説明に終始し、その製品を使う全体の工程がどうなるのかの説明がない

「他社ではまねのできない世界最速の製品はいかがでしょうか。」

この説明は、相手の気持ちに刺さるでしょうか。つぎのような反応が返ってくるかも知れません。

「この工程だけが、高速になっても、前後の工程がいまと同じままなら、工程全体が早くはなりませんから、そのような製品は、必要ありません。最速でなくてはいいので、もっと安いものはありませんか?」

この研修の受講者にも、このような話をして、次のような課題を課しました。

  • 自分の担当する製品が使われる工程の全体を書き出し、その中のどこで、どのように使われるのかを説明して下さい。
  • あなたの担当する製品をその工程に組み入れたとき、工程全体としては、どのような改善が期待できますか。
  • あなたの製品をその工程で使うとして、前工程、後工程でどのような変更が必要ですか。

残念なことに、「全ての工程」を説明できる人はほんの一握りでした。当然ながら、全体の工程がわからなので、続く質問に答えられる人たちはさらに限られていました。

相手が求めているのは、工程全体の価値です。その製品を使うことで、工程全体がどうなるかを説明できなければ、その善し悪しを判断できません。

「この川にかける橋を作りましょう」

相手が求めているのは、この川の向こうに行くことだとすれば、橋を架けること以外にも次のような選択肢があるはずです。

  • 川の景観を損ねないために、川の下にトンネルを通す。
  • 川の景観を楽しみながら向こうへ行くために、ロープウエーを渡す。
  • 川の向こうには山があるので、山も合わせて越えられるエア・タクシーを運行する。

「橋を架ける」は、「川の向こうへ行く」ための手段のひとつでしかありません。また、最適な手段は、その目的や背景によっても変わります。しかし、自分たちは、「橋を架ける」という製品しか持ち合わせていないので、それを採用してもらおうとしますが、相手にしてみれば、「余計なお世話」、あるいは、「的外れ」な提案になってしまうかも知れません。

「モノ」を売るのではなく、「コト」を売る

「モノ」を売るとは、「モノ」そのものの機能や性能、コストなどで、他社との差別化を図り、魅力を訴求するやり方です。一方、「コト」を売るとは、工程の全体の価値を高めるための物語を描き、そのもの語りで、他社との差別化を図り、魅力を訴求するやり方です。

「橋」と言うモノを売ることではなく、「川の向こうへ行く」という工程を、その背景を踏まえて物語として描き、その「物語」を売ることが、「コト」を売ることの本質です。これができなければ、相手の心を掴むことは困難です。

相手を幸せにできる物語を描き、その魅力で競合に勝つことが、「コト売り」の本質です。

流行のDXも大いにけっこうですが、DXとは、お客様にどのような物語を提供するのでしょうか。当然お客様ごとに物語は違います。それを描くことができずして、DXを叫んでも、相手の気持ちに刺さる提案は、難しいでしょう。

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斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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