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目の前を追って、突き詰めない、コンシューマー商品・サービスは自社を滅ぼす

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これは、日本マーケティング協会の月刊HORIZONの2017年第二号(特集「突き詰めたい」)に寄稿したものです。

突き詰めない、できない理由とは?
いますぐの衝動に支配されず、存在意義を打ち立てる

2016年は「君の名は。」「シン・ゴジラ」という邦画のヒット作がみられたが、コンテンツの世界は突き詰めた中からヒットが生まれるという。もちろん、突き詰めた作品でもヒットとならないものはあるが、突き詰めるのは当たり前と聞く。

当たるも八卦的に思われがちなコンテンツでもそうなのだから、コンシューマー向けの商品・サービスではもっと突き詰めてよいだろう。

しかし現実には、小売に並ぶ新商品は、突き詰める余裕もなく出されたものが大半を占めている。それはなぜか?

いますぐのリターンへの欲求

一昨年、『「衝動」に支配される世界』なる本が話題になった。著者ポール・ロバーツは原題の「The Impulse Society インパルス・ソサエティ」という言葉を通して、「単なる気まぐれな消費者文化などではない、いますぐの「リターン」への欲望が高まった結果、社会経済システム全体が自己破壊に向かっている様子を描こう」とした書だ。ロバーツは次のように論じている。

近視眼的で自己中心的に振る舞うインパルス・ソサエティでは、富は奪い合うものでしかない。

ヘンリーフォードが作り出した大量生産の時代から始まり、これが売れなくなると、GMにみられるように毎年のモデルチェンジと多様な車種構成によりヴェブレンのいう顕示的消費を作り出すことに成功し、さらにクレジットという手段まで編み出した。

企業は次期四半期の利益向上のため、効率的で短期に利益をあげるため、消費者にできるだけ多くを購入してもらうべく、戦略的に仕掛けている。

なおロバーツは、政治も有権者の感情を煽り、自らブランド化することで選択肢を単純化し、得票数に結びつけようとしているが、長期的な問題を解決する能力が失われてしまっている、と指摘しており、最近の欧米での現象を予見しているかのようだ。

効率第一の考え方を批判せよ

目の前のリターン/利益に飛びつき翻弄されるのは、企業だけでなく個人もだ。

ロバーツは、大手小売りが単なる「消費者」になる効率の良さを提供して、ほとんどの人はこれを喜んで受け入れていると語っている。

しかし、消費者はいつまでも愚かなだけではなく賢くなりつつあるし、パワーを持ち始めている。なにより、もはや「売れない」時代になっている。

日本市場ではこれに加え、人口減少と高齢者比率の上昇が進む。そうでなくても消費者の変化への対応が問われており、市場の激変により、これまでのやり方は通用しなくなるだろう。

ロバーツは、常に最速で最大のリターンをめざす経済戦略に疑問を呈することから始めるべきだという。それは「効率」そのものでなく、効率を最高の美徳とする信念やイデオロギーを批判的に見ること、そして長期的視点と短期的視点のバランスをとりながら見定めること、と指摘する。

非効率が存在意義を高め、結果を生む

本号でJR九州や鳥貴族の事例を紹介したように、突き詰めた例はメーカーだけではない。小売にも突き詰めた好例はある。

米国で靴のネット通販で首位のザッポスは、顧客サービスを突き詰めている。コールセンターへの電話には制限なしで何時間でも応える(最長記録は10時間)。自社に在庫がなければ、他店の在庫を調べて伝える(だからザッポスのファンになる)。

これらは、ロバーツが言うような目の前の効率を追う企業では、考えられないことばかりだ。しかし、だからこそ圧倒的な差別化となり、多くの熱心なファン層を築き、価格競争に巻き込まれず成長している。

成城石井は、他のスーパーが低収益であえぐ中、一般的なスーパーの粗利益率の20%台に対して、成城石井は40%弱、売上高営業利益率も6%を超えるなど、高収益で拡大している。

だが成城石井は、一見すると非効率だ。

海外買付など独自仕入れの成城石井にしかない商品が沢山ある。ワインが700種類、チーズが210種類と本場ヨーロッパでも驚くほどだ。他社なら、そこまで品揃えが必要か?と問われるだろう。

しかも、たとえ1ヶ月に数個しか売れなくても、固定ファンの付いている商品は店頭に並べ続ける。他社ならアホかと言われるだろう。

二千点を超える「オリジナル商品」を開発しているが、総菜や加工食品は一流のホテルやレストラン、和食店などで働いていたプロの料理人を採用し、吟味された食材を使用し、基本的に自社工場で手作業を経て、顧客に最高のものを届けることにこだわっている。人気お惣菜のポテトサラダ用に茹でたジャガイモの皮を手でひとつひとつ剥いている。しかも、店員が商品を他の店に運ぶなど、手間もかかり、移動には費用も発生する。他社なら、そこまでやることはない、コストを下げろと言われるだろう。

目先の利益を考えるととても非効率的だが、「お客様のため」という考え方を成城石井は大切にしている。儲けのためとは思えないことの積み重ねが、存在意義を確立し、結果的に儲かる成城石井をつくっている。

成城石井もザッポスも、「衝動」に支配されず、自らの信条を貫き突き詰めて存在意義を高めているから成功しているのだ。

自らのアイデンティティを打ち出す

早稲田大学の入山章栄准教授は、自分から離れた遠くの知を幅広く探し、それを今自分が持っている知と新しく組み合わせる「知の探索」がイノベーションには大切だと唱える。

こう聞くと、「突き詰める」のは置いておいて、外部のネタに頼ろうと考える人もいるだろうが、それは間違いだ。このところ大企業向けのオープンイノベーション関係セミナーが流行っているが、外と交流さえすれば結果が出るわけではない。

エコシステム(生態系)戦略の要諦の一つは、自らのアイデンティティである。自社の魅力や存在意義、スタンスがはっきり打ち出せないと、すぐれた外部はよりつかないし、組み方も分からない。

だからこそ、「知の探索」に臨むには、「突き詰める」ことでアイデンティティを確立することが先決なのだ。

もちろん、言うは易く行うは難い。

まずは、自らの足元から問い直してはいかがだろう。短期あるいは低コストで易きに流れた商品づくりが多くなってはいないか?ロングセラーを目指したいが、商品の改廃を繰り返してはいないか?

どの企業も、よさ強さの要素はあり、突き詰めが足りないだけだ。基本に立ち返り、いますぐの衝動に支配されず、存在意義を打ち立てる。やればできると自らを信じることから始められたい。

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