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ニュースを読み解く 米アップルが電気自動車開発

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今日のYahoo!ニュースに「米アップルが電気自動車開発に本腰、2019年の出荷目指す=WSJ」(ロイター)なる記事がトップページに表示され、300以上Tweetされている。アップルのクルマは大きな話だが、連休中のネタ不足を埋める程度のニュース価値しかない記事(下記)だ。

[ 21日 ロイター] - 米アップルが電気自動車(EV)開発を「注力プロジェクト」に指定し、出荷目標を2019年に設定したと、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が21日、関係筋の情報として報じた。
WSJによると、同プロジェクトのコードネームは「タイタン(Titan)」。アップルは同プロジェクトの指導者らに、現在600人で構成されるチームを3倍増にする権限を与えたという。
アップルからコメントは得られていない。

アップルのEV(電気自動車)開発はだいぶ前から報じられてきた。Teslaなどから人材をアグレッシブに集めている話は、小生もよく聞いた。今年二月の時点で200人(参考「With 200-strong team, Apple "Titan" EV to be ready by 2020」)。

EVの肝はバッテリーだが、アップルは、バッテリーメーカーのA123 Systemsからは、その件で訴えられた(参考「Here is the proof that Apple is secretly developing a car battery」5/14/2015 Business Insider;なお本件は5月に和解が成立)。この記事には状況証拠もまとめられているが、東芝やパナソニックからも人材を引き抜いている。

7月には、元クライスラー経営陣のDoug Betts(a former global quality executive at Fiat Chrysler Automobiles)をヘッドハントしている。

なお。テスラの技術者を$250,000の入社ボーナスと60%の給与アップで、アップルは引き抜いていると、イーロンマスクは文句を言っている。もっとも、テスラ自体がアップルから150人ほど引き抜いたので、お互い様でもあるが。

テスラのアップルからの採用は、ビジネスモデルを象徴している。卓越したブランドとプロダクトデザインのもと、世界のよいものを集めて組み立て、高価格の製品化をするテスラのモデルは、アップルさながらだ。こんどはアップルがテスラのお株を奪う番か。

2月の200人から、現時点で600人、まだまだ雇えるだけ人材を集めるアップル。BMWなど既存メーカーのトップとも話しているようだ。コードネームTitanだが、バンの形とも言われるが、最終的にどんなクルマになるかお楽しみ。

また、XiaomiのEV開発も合わせて考えたい。昨年、Xiaomiは、EVコードネームMisilaをRMB 39,999=76万円での発売に向けて開発中と報じられた。クルマ関連の特許も出願が目立つ。

ちなみに、今春のシリコンバレーでは、"Xiaomization"なる言葉が流行っていた。それは、記事「HAXLR8Rのレポートに見る、ハードウェアスタートアップのトレンドと予想 | TechCrunch Japan」にあるように、

これからは構造がシンプルな製品はみな"Xiaomization"されるリスクにさらされる(Xiaomi(小米)の新しい流通モデルに破壊されるリスク)。Xiaomi は既にSamsung、GoPro、Dropcamなど多くと競合関係になっている。

ということだ。スマートフォン市場の風雲児Xiaomiは、他の市場にも攻め入っている。EVもその一つだ。

■どう見るか?

アップルに対して、低マージンの重い製造業に入るのは得策でないと否定的な自動車業界のベテランもいる(参考「Ex-GM CEO tells Apple: Don't make cars」)。しかし、Teslaで示された事業の現実性も考えねばならない。ハイエンドのブランドを築けば、この課題を乗り越えられるだろう。

一方、日産のゴーンCEOは「アップル社のEV市場参入は自動車メーカーにとって朗報」と発言している。これは、昨年のEV世界シェア6割近いルノー・日産にとって、EV市場を拡大・活性化するためにプラスと考えているからだ。

考えてみれば、日本国内では若者のクルマ離れが年ごとに進行し、深刻な状況となっている。アップルがクルマの社会的な認識を変えてくれるならプラスだ。

しかし、日本の自動車会社は、この大転換期に準備ができているだろうか?

アップル参入で市場拡大の電気自動車 日本車は勝ち抜けるか」│NEWSポストセブン によると、電気自動車開発に積極的なのは、残念ながら日産自動車1社といっても過言ではない、そして燃料電池車の前に電気自動車を普及させたほうが、よほど現実味があるとのこと。それでは、このEV市場を明け渡してしまいかねない。それでよいのか?

またEVは、専業メーカーでなくても立派なビジネスとして成立し得ると指摘している。Xiaomiのような新規参入者に、ローエンドはもっていかれる可能性がある。すると、ここでは低マージンだから戦いたくない、となる。

すると、この問いは、そもそものクルマ市場・産業の青写真をどう描き、それに向かってどう手を打つかという、基本的かつ根本的なものを意味する。単に一企業のEV開発という点だけ見ても、本質は見えてこない。

<参考 市場調査レポートより>

According to a report published earlier this month by Transparency Market Research, the global on-road electric vehicles market is forecast to record 64.4 million units in volume of sales by 2019.

Revenue is expected to reach a value of more than $271 billion by 2019, growing at a compound annual growth rate (CAGR) of nearly 20% between 2013 and 2019 -- a year before Apple would supposedly enter the market.

Geographically, North America dominated the on-road electric vehicles market in 2012. It is expected to retain its dominant position during the forecast period thanks to several government initiatives for promoting the adoption of electric vehicles in North America.

The report noted that Nissan Motors, General Motors, Tesla Motors, Honda Motors, and Toyota Motors are among of the leading players in this market, and collectively accounted for more than half of total marketshare in 2012.

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