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ウォークマン30周年に思うiPhone/iPodにソニーが負け続ける理由

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 昨日(と思って書き始めましたが、一昨日になっちゃいました)、毎日jpにこんな記事が出ていました。ウォークマン30歳ということで、ちょっとウォークマンに気を遣ったのかもしれませんが、ちょっと視点、切り口がズレてやしないだろうか。いや、もしかしたらオレがズレているのだろうか?
 ズレてると思うのは、ハードウェアを切り口にウォークマンとiPodを比較していること。それに新ハードウェアによって、巻き返しを図っているという結び。この視点ではウォークマンが負けた歴史も、これからも勝てない(このままじゃ)理由が見えてこないんじゃないかな。
 iPodの強さとして秀逸なデザインがよく挙げられますが、むしろ操作や楽曲データに対する扱い方の一貫性、各機種におけるコンセプトの明快さ、そしてなによりサービスとの密に結合されたトータルのユーザー体験の演出。このあたりが明確にiPodの強みと言える部分じゃないかと思います。

 初代ウォークマンの頃は小学生で、ウォークマン・デラックスが出た時は貯金を貯めても買えず、なんとか小遣いとお年玉を貯めて工面できた頃に発売されたウォークマンIIのカラバリ(赤と黒が追加。赤をチョイス)版を購入。その後、スポーツ・ウォークマンやレコーディングウォークマン、ウォークマンDDなど、バイト代を注ぎ込んでいったあの頃は、確かにハードウェアが勝負を決めていました。
 ウォークマンが覇権を失った理由はいくつかあると思いますが、それはどれもハードウェアに起因するものではないでしょう。

 ひとつはインターネットを介したサービスをハードウェアと統合し、トータルでのユーザー体験レベルを引き上げるという発想が無かった事。無かった……というと語弊があるかもしれないが、SonicStageとiTunesを比べて最も不自由だったのは、ポータブルプレーヤとのシームレスな連携、ソフトウェアとハードウェア、サービスの結合の弱さでした。プレーヤ、管理ツールとしての出来は、言われているほど差はなかったと思います。

 そもそも、"ネットワーク"と銘打ちながら、たいしてネットワークな感じを感じさせないウォークマンを多発し、時代遅れ感を何年も払拭できないどころか、ほぼサービスとハードウェアの統合に関して何も取り組まず、放置していたのだから、存在感がなくならない方がおかしい。しかも、これはエンジニアの責任ではなく、明確に事業の判断を見誤った当時のトップと事業責任者にありました。

 もうひとつの原因はソニーがSMEを持っていた事でしょう。音楽出版社がCDのコピーに頭を悩まされる中、安易に現状の音楽ビジネスを守るための厳しい制限が、ネットワークウォークマンには課せられていました。
 すでにMP3によってDRM無しの音楽データが流通していた時代に、リッピングデータを再生できるのはリッピングしたコンピュータと3台の端末(パソコンでも再生する場合は2台まで)でしか聴けないなんて制限をしていたんですから。
 これはSDMIという規格の運用規定に沿ったスペックなんですが、SDMIが事実上、崩壊してからも、しばらくの間、ソニーはこの制限を撤廃しませんでした。もちろん、違法コピーは良くありませんが、元々DRMがかかっていない購入したコンテンツなのですから、ユーザーは納得しません。

 その後、ソニーはウォークマンAで新しいソフトウェア「CONNECT Player」を提供したけれど、しかしその後、品質を高められずに挫折。その後はまた、自分たちの殻に閉じこもってしまったような気がする(ハードウェアとしては、MP3、AACへの対応などオープンな方向には向かっているが、それはつまり"ハードウェアによるギミック"という、自分たちの世界に引きこもった事を意味している)。

 記事中にある国内販売シェア(ソースが示されていないが、gfkか何かのデータだろうか?)、iPodが55.2%に対してウォークマン31.3%というのは、僕的には「そんなにウォークマン売れてるのか?!」という、高橋記者とは逆の感想を持ったぐらい。まだそこまでウォークマンのブランドは生きているのか?と感じました。

 ソニーエリクソンがAndroid端末を開発していることは公表されていますが、同時にソニーはウォークマン関連の機能やナブユーの機能もAndroid上に実装していると聞いています(同時にBlu-rayレコーダの機能もAndroidにポーティングという話が聞こえていますが、こちらは未確認)。他にもMyloのような端末も持っているソニーなので、これらのソフトウェアスタックを一つのプラットフォームに統合し、さらに使い良いサポートソフトとそれらを繋ぐサービスインフラが提供できれば、あるいは様々な製品分野で新しい提案ができるかもしれません。
 とはいえ、さて、そのあたりのシカケが得意じゃないソニーに、どこまで出来るでしょうか。
 日本人の一人としては、日本企業にもサービスとソフトウェアとハードウェアを統合し、柔軟なAPIも提供するプラットフォームを作って欲しいという期待も持っているのですが、今のところは"期待"というところまで気持ちを高められません。良い意味で期待を裏切って欲しいものです。

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