その一言で、個人的にはさらに信用できなくなりました<私的録音録画補償金制度での権利者団体の主張について
前回のエントリーも私的録音録画保証金制度が元ネタでしたが、あまりに驚きの記者会見記事を見たあとでは、やはり同じテーマにせざるを得ない(本当は別のことを書きたかったのだけど)気分になってきましたよ。
ITメディアでもこちらに書かれていますが、権利者団体によるダビング10の言い訳(?)記者会見が開かれました。要は悪いのはメーカーということですな。そもそも、"コピワンじゃコピー失敗などでうまく運用できないのはメーカーの責任だ"とか、"コピーワンスという筋の悪いルールを作ったメーカーの不始末の尻ぬぐい(えぇえええ!嘘ぉ~という感じですが)"といった主張を判で押したように繰り返すところなど、徹底的にメーカーとの対決姿勢を打ち出してきた印象です。
でも、この話題の事情を分かっている人で"メーカーが悪い"と思っているなんて、いるんでしょうか?
それはともかく、いろいろと言いたいこともあるのだけど、それはこのコラムの続編として、きちんと書きたいと思います(まさか続編を書くことになろうとは……)。私が思うに疑問は減るどころか倍増しています。どこから突っ込んでいいのか見当も付かないほど疑問がわき出てきたのだけど、このエントリーでひとつだけ指摘しておきたいことがあります。
椎名さんは「JEITAの内部でも、コンテンツに対して一定の理解があり、補償金問題を解決させようという人が、案を容認する方向で説得に当たって下さったと聞いている。権利者がJEITAに対して提出した公開質問状に、JEITAの会長から丁寧な返事をいただくなど、説得がなされている兆しは、折に触れて感じていた」とした上で、「とあるメーカーが、極めて原理主義的に拒否反応を示し、これまでの議論も学習せず、さまざまな策を弄(ろう)して多数派工作を行った結果、と聞いている。メーカー側がやっていることは“ちゃぶ台返し”だ」と話したそうですが、本気で言っているんでしょうか?
メーカー名をここでは明かせませんが、ここに登場してくるメーカーは知っています。ただ、そのニュアンスは"かなり"違います。善意のメーカーの好意を、悪意あるメーカーが無駄にしたという感じの椎名氏の発言ですが、私の知る限り実際の動きとは全然違います(キッパリ)。
とあるメーカー(A社としましょう)が「補償金払ってもいいじゃない。もうこれ以上、長引かせるのはやめよう」と、早々に補償金を払う方向で調整しようとしました。なにせ1台あたり100円程度との試算結果です。家電で100円を削るのは、そりゃあ、ものすごく大変なことですが、北京オリンピック前の商戦期を逃がすことによるビジネス的なマイナスを被るよりはいいじゃないか、ということですよ。
これに対して別のメーカー(B社としましょう)は「お金の問題ではなくて、ハードディスクでのタイムシフト視聴に補償金が必要なのかどうか?という理念の問題でしょう(多少意訳しています)」として反対しました。というか、A社以外は支払うことに積極的ではなかったようなので、結局は「お金の問題じゃないよね」ということでJEITA内部の紛糾もすぐに収まったとのこと。
そもそもですよ? 補償金を払うのをメーカーが嫌がっているから補償金問題が解決しないって、本当にそんなことあると思いますか。商売のことを考えれば、(さして運用面で利点のない)ダビング10をなんとか魅力的なものにしようと開発を行い、ダビング10問題で買い控えしている層も含めて、バンバン売った方が得に決まってます。
もうひとつ付け加えると、各社のダビング10対応はすでに終了しています。新型はもちろん、ダビング10対応前提でソフトウェアが開発されていますし、旧機種に関しても対応を表明している機種に関しては(対応をハッキリ発表していないケースもありますが)ファームウェアの開発が終わっているようです。一部のメーカーには動作の内容もデモも見せてもらいました。対応機種なら衛星ダウンロード一発でダビング10対応になります。
つまり、開発投資はすでに行っているわけで、その投資を回収するためには、補償金を払ってでもダビング10に対応したい、とビジネス的な判断ではなります。しかし、そうではなくて戦っているのはお金が理由じゃないからということになりますね。
別にメーカーの味方をするわけじゃないのですが、今回の「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」による記者会見は、あまりに一方的で交渉相手へのリスペクトが感じられない内容でしたので、ここにエントリーを上げさせてもらいました。
A社の言うことは尊敬はできないかもしれませんが、利益を追求するメーカーとしては気持ちはわかります。B社の言うことももっともで、自分たちが正しいと信じていることを主張するのはいいでしょう。でもねぇ、権利者団体の皆様。記者会見でニュアンスをすり替えるような発言をしていると、個人的には全く発言や主張を信じられなくなります。