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設計するということ - ソフトウェア、文章、キャリア、人生を考える

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こんにちは、プロセスデザインエージェントの芝本秀徳です。

きょうは「設計するということ」についてです。
ソフトウェア、文章を書くこと、そしてキャリアや人生に共通する、設計という概念について書きます。

■ 設計が苦手な人がもつある一つの特徴

私は建築物の設計はしたことはないけれど、ソフトウェアの設計と、本や文章を書く(=文章を設計する)という経験は、いくつもしてきた。後輩や部下、もしくは顧客先でソフトウェア設計や、文章を書くことについてレクチャをすることも多い。

その経験のなかで、ソフトウェア設計や文章を書くことを苦手としている人にはある一つの特徴があることがわかった。それは「決まった手順があると思い込んでいる」ことだ。

すばらしいソフトウェアのアーキテクチャがそこにあったとする。設計が苦手な人は、そういった設計が手順を追っていけばできると思い込んでいる。1から100までが順番に仕上がっていくものと思っている。

文章も同じだ。すばらしくわかりやすい、要点をついた文章があったとして、「どうしたらそんな文章が書けるようになるんですか?」という。出来上がったものだけを見ていれば、そこに至るまでのプロセスが見えないので、そう思うのも無理はない。

■ 設計にアルゴリズムはない

私自身、ソフトウェアの仕事を始めたときは、プログラミングをまったくしたことがないずぶの素人だったので、「設計するということ」がどういうものかわからなかった。何か決まった手順、解法のようなものがあるものと思っていた。だから、答えを探して本を読みまくったが、どこにも答えはなかった。いま考えれば当たり前のことだけれど、そのころに自分にはそんなことはわからなかった。

経験豊かなプログラマ、アーキテクト、もしくは文章を書くことを仕事にしている人にはわかるように、「設計すること」にきまった手順はない。設計とはアルゴリズムではなく、ヒューリスティクスだからだ。

アルゴリズムとは「こういう手順でやれば、たいていは答えがでる」という道筋のことだ。知らない場所にいくとき、目的地の所在地がはっきりしていて、あらかじめ道順がわかっていて、そのとおりに進むのであれば、それはアルゴリズム的だといえる。

一方で、ヒューリスティクスとは発見的なアプローチだ。試行錯誤を繰り返して、およそ正しいであろう答えに近づいていく。目的地のだいたいの場所はわかっているが、正確な住所はわからない。そんなときに、だいたいのあたりをつけて、行きつ戻りつしながら目的地の範囲をしぼっていくのが、ヒューリスティクスだ。

設計にはアルゴリズムはない。「設計=ヒューリスティクス」といってもいい。設計には「決まった手順はない」ということを知ることが、設計に熟達する第一歩なのだ。

■ 設計がうまくなるためにいちばん大切なこと

ソフトウェアを設計するのも、文章を書くのも、ただ一つの正解があるわけではなく、目的を果たすためのベターな解は無限にある。これはアルゴリズム的なアプローチでは答えはでない。試行錯誤を繰り返して、洗練していくしかないのだ。これを段階的洗練とか、段階的詳細化という。

段階的洗練をするために、いちばん必要なのは「捨てること」ができることだ。一度つくったものを壊すことをいとわない人は、どんどんよくしていくことができる。労力をかけてつくったものを捨てたり、崩したりすることは、なかなかつらいことかもしれない。しかし、それこそが発見的アプローチの一部なのだ。

一度つくったものに執着してしまうのは、目の前にある「カタチ」にこだわってしまうからだ。しかし、あくまでもそのカタチは、よりよいものをつくりだすためのプロセスで出てきた中間成果物に過ぎないのだ。捨てること、崩すこともプロセスの一部であって、中間成果物はカタチとしては見えなくなるかもしれないけれど、より洗練されたカタチのなかに内包されていくものなのだ。

■ キャリアも人生もおなじ

考えてみると、キャリアの設計も同じことがいえる。キャリアを重ねていくプロセスに、アルゴリズムはない。思っていた通りに進むことのほうがまれだ。さまざまな出来事に遭遇しながら、自分の人生のゴールに近づけるように、試行錯誤を繰り返すしかないのだ。

さらに、よりよい人生、よりよいキャリアを設計するためには、それまで培ってきたものを捨てることも、崩すことも必要になる。しかし、捨てたもの、崩したものはけっしてなくならない。こ。の先のキャリア、人生でかならず役にたつ。

目的地に着くのが多少遠回りになったとしても、そこに至るまでのプロセスのなかで、お気に入りの店を見つけたり、景色のよい公園を見つけたりするかもしれない。それが人生を豊かにするはずだ。プロセスこそが人生であり、成果なのだ。結果はそれを内包したものにすぎない。

長い人生のなかでは、路線変更を余儀なくされたり、それまで培ったものが崩れていくように思えるときもある。しかし、それもプロセスであって、未来は過去を内包しているのだと考えることができれば、どれだけ人生は豊かになるだろうか。

ソフトウェアも文章も、キャリアも人生も、決まった手順があるわけでない。発見的アプローチで、プロセスを楽しむことがよりよい結果を生み出すことになる。そんなふうに考えることができれば、苦手としている設計も、文章を書くことも、そして生きることも上手になるかもしれないと思う。



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