広告ブロック戦争 「いちぬけた」とアーメントさん
iOS 9の新機能「コンテンツブロッカー」。サードパーティー製アプリをインストールして設定を有効にすると、Safariで表示するWebページから広告が消えるだけでなく、クッキーによる追跡もブロックしてくれるので、読み込みも速くなります。まあ便利。
Appleは広告じゃなくて製品でお金を稼いでいるから(一応広告ネットワークもあるけど)出せた機能です。ティム・クックCEOは「ユーザーの情報をマネタイズするのは間違っている」とはっきり言っており(Googleのように、とは言ってないけど暗に言ってる)、これは、それを具現化した機能といえます。
ユーザーにとっては便利ですが、アイティメディアを含む、企業からの広告収入のおかげで読者様には無料で記事を提供できているメディアにとってはかなり痛い(はず)。たくさんのユーザーが広告をブロックすれば、当然広告収入は減るので、取材にも行けず、記者はリストラ、私のような業務委託ライターは切られ……ひーん。
そうなったらコンテンツの質はどんどん落ちるでしょう。記事だと思ったら広告だった、みたいなものも増えるかも。または、コンテンツが有料になるとか。いずれにしても、これはユーザーにとってもいい話ではありません。
ユーザーとしては「だって記事を読みにくくするような広告なんか出す方が悪いんだ」という気持ちもあります。
広告ブロックアプリで、マナーの悪い広告だけをブロックできればいいんですけどね。右上にちょこんと静かに掲載されている広告などはそっとしておいて、極彩色でちらちら動いたり、ページを開いた途端に全画面を占領する広告はブロック。
でもこれ、アプリ開発者にとってすごく大変です。
広告ブロックアプリはおおまかにいうとブロックすべき広告やトラッカーのURLのデータベースを参照してブロックします(このデータベースの質がアプリの質を左右します)。URLをちゃんと集めてアップデートしていくだけでも気の遠くなる話なのに、ましてやこの中で「これはお行儀のいい広告だからホワイトリスト化しよう」なんてことを完全自動化するのは多分ムリ。
それをやろうかなと思ったけど、いろいろ考えてやめます、と宣言したのが、(日本では公開されなかったけど)16日に「Peace」という広告ブロックアプリを公開したマルコ・アーメントさん。
Peaceは公開後すぐに米国の有料アプリランキングで1位を獲得した人気アプリだったのに、18日にApp Storeから取り下げちゃいました。
アーメントさんは、「広告ブロックアプリは多くの人々に便利さをもたらすが、一方で攻撃されるべきではない人々を傷付けもする」と言います。そして、自分が広告の良し悪しを判定する立場になるのは気分が良くないし、とも。
このアプリの売り上げはかなりなものだったと思いますが、それよりも自分の心の平安を優先したのでした。
アーメントさんのことは、この記事を書いたときに知ったんですが、尊敬してます。Tumblrの創業メンバーで、その後、大事に育てたInstapaperをユーザーを思ってBetaworksに売却したりしてます。お金や名誉よりも、いいものを作って人の役に立つのが楽しい、な人です。
この発表後、案の定アーメントさんに対する誹謗中傷や憶測が飛び交っていますが、本人は「しばらくは自分に関するツイートは見ないしメディアの取材にも応じない」として心の平安を保っているようです。
I appreciate the kind words. Don’t worry about me ??I did what I thought was best to fix a big mistake, and feel good about my decision now.
— Marco Arment (@marcoarment) 2015, 9月 19