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Apple はサブスクで成功できるのか

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先々週くらいにいくつかのメディアが報じたところでは、Appleがハードウェアのサブスクリプションを検討しているということです。

アップル、iPhone等のハードウェア製品を月額料金で使えるサブスクを準備中の噂

改めて言うまでも無く、世の中はサブスク流行りです。元々は雑誌の定期購読のことですが、ビデオや音楽を月額定額で利用し放題と言うことから急速に普及し、今ではさまざまなビジネスがサブスクに参入しています。今ではコンテンツ的なものだけで無く、ハードウェアへも広がっており、自動車のサブスクなどが良い例です。

button_subscribe.pngこのような中で、Appleや他のメーカーがスマホなどのサブスクを検討することは自然な流れとも言えますが、自動車の例などを見てもまだそれほど普及しているという印象も無く、ハードウェアならではの難しさもあるのではないかと思います。

自動車のサブスクはわかりにくい?

自動運転への移行や電気化など、自動車業界は今未曾有の変革期にあります。各社は背水の陣で新たなビジネスモデルを模索していますが、その中で自動車のサブスクという動きも見られ、各社は「一応」参入を果たしています。しかし、サブスクのメリットをきちんと理解できていると言える人はどれだけ居るのでしょうか? 私もそうですが、分割払とリース、レンタカー、カーシェアとサブスクの違いを理解し、うまく使い分けられる人がどれだけいるのか、甚だ疑問です。つまり、自動車会社はサブスクのメリットを明確に訴求できていないのです。

これはしかし、無理も無い事かも知れません。これまで現金か分割で売っていた同じ物をいきなりサブスクと言っても、なんら従来との差別化も付加価値も無いからです。(私がわかっていないだけで、あるのかも知れませんが)各社とも「新車に乗り換え放題」などと謳っていますが、よくよく見てみると、一定期間乗り換え不可(2022/4/15修正:付加→不可)などの制限があったり、価格的にもお得感が薄い、などの問題が散見されます。サブスクに向いた商材と向かない商材というのは確実にあると思われますし、自動車は現段階では向いていないような気がします。では、Appleはどうなのでしょうか?

Appleが成功できる「かも知れない」理由

Appleには、サブスクで成功できる「かも知れない」要素がいくつかあります。それは、

  • Appleはハードウェアスペックによる差別化に過度に依存しておらず、UXによるエコシステムを確立できている
  • スマホは1-2年に1回買い替えるというサイクルが受け入れられている
  • Appleが既に提供しているサブスク(音楽やビデオ配信など)との親和性が高い

などです。

2番目の点から見ていくと、自動車の買い換えサイクルは9年とも言われており、そもそもそんなに新車に乗りたい人は存在しないわけで、そこをメリットにしても、サブスクが広がらないのは無理もありません。買い換えサイクルが長くなってきているとは言え、まだまだスマホ、特にiPhoneは買い換えサイクルが短く、それが受け入れられているマーケットであると言えます。(その意味で、Macのサブスクというのは少し環境が違うと言えます)

3番目については、iPhoneユーザーは既に多くのサブスクを契約しており、自動車の購入層(サブスクなどの新しいサービス形態に対しては保守的と考えられる)と違ってサブスクに抵抗がないことが上げられます。

AppleはハードウェアではなくUXを提供している

さて、最初の点について考えてみましょう。Appleはハードウェアメーカーですが、創業当初から、今で言うUXに非常に拘っていました。それを具体化したのがMacintoshであり、発表当時のキャッチコピーは「The Computer for the Rest of Us」(残りの私たちのためのコンピューター)でした。当時コンピューターと言えば限られた人が使うものでしたが、それを一般の人にも使って欲しいとのJobsの思いが込められています。そして、その願いが叶ったのがiPhoneだったのでは無いでしょうか。iPhoneは単なる携帯電話では無く、世界初の「誰もが使えるコンピューター」だったからです。

ちょっと脱線しましたが、何が言いたいかというと、Appleは業種としてはハードウェアメーカーに分類されますが、差別化の本質は良質なUXであるということです。最初のiPhoneやその次のiPhone 3Gは汎用の通信チップと汎用の駅所ディスプレイを組み合わせたもので、ハードウェア的には取り立てて目を惹くものはありませんでした。原価もそれほどかかっていないという記事を見た記憶があります。しかしこれらの初期のiPhoneが、iPhoneの成功を決定づけたのです。iPhoneが他社と違っていたのは、言うまでも無くソフトウェアとサービスでした。そして、Jobs自らがアイコンの色やデザインに拘り抜き、タッチによる滑らかな操作感を極めたUI、そしてそれらと緊密に作り上げられたバックエンドサービスとの一体感が、ユーザーの心を掴んだのです。これこそがUXです。

Appleの差別化の中核がUXにあるという例は他にもあります。iPhoneでは、Max、Pro、無印などのモデル間の価格差は画面の大きさやメモリの大きさの違いによるものであり、プロセッサの性能ではありません。これはパソコンなどでは考えられなかったことです。Appleは、自社が提供するハードウェアの価値ではなく、ユーザーが得るUXの価値に価格を付けているということが言えるでしょう。

Appleはサブスクを「検討している」だけで、実際に始めるのかどうかはまだわかりませんが、Appleの決断とその先の成否は、他のスマホベンダーや自動車のような他業種にとっても、サブスクの意義を考える上で参考になるのではないかと思います。

 

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