中村昭典の、気ままな数値解析:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 中村昭典の、気ままな数値解析

○人、○%、○億円…メディアにあふれる「数値」から、世の中のことをちょっと考えてみましょう

 2010年3月大卒者の就職率は91.8%と、前々回のエントリーで紹介しました。就職できなかったのは8.2% となるわけですが…ただ、この数値は、(就職者÷卒業者)で算出したものではなく、実は(就職者÷就職意向者)で計算されていました。これ、大変大きなポイントなんです。

 文科省・学校基本調査(H21.3)で算出されている数値から計算すると、就職率(就職者÷卒業者)は68.3%となります。そうなんです。大学を卒業しても就職していない人が31.7%もいるのです。気になる内訳を見ると、大学院等進学者は 12.2%。一方で一時的な仕事に就いた者(=フリーター?)は2.3%と少数。ただ、不明者が12.1%もいます。この12.1%には、「就職したかっ たけど何らかの事情で就職してない」人も相当数含まれていると予想します。また大学院等進学者の中にも「就職浪人回避組」が一部入っていると見ています。こうして考えると、91.8%という就職率を、そのまま鵜呑みにはできないということに気づくはずです。就職したかったけど就職できなかった人というのは、8.2%・31,000人だけでなく、もっとたくさんいたのではないかということです。
 
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  さて、そんな状況下、愛知県がこんな施策を発表しています。

愛知県では、このたび厳しい雇用情勢の中、内定が得られないまま大学、高等学校等を卒業した方を対象として、緊急雇用創出基金を活用した地域人材育成事業(未就職卒業者等対象)を実施することとし、参加者を募集します。

  この事業は、未就職卒業者等を県が委託した人材派遣会社において約8か月間雇用し、その間、ビジネスマナー等基礎的な研修を受講の上、民間企業等で職場実習を行い、今後の就職に向けた知識・技能の習得を目指すものです。

 雇用された未就職卒業者等は、毎月【144,000円】の給料をもらいながら今後の正規雇用に向けたスキルアップが図られるとともに、職場実習先での正規雇用化も含めた就職支援が受けられます…(後略)…

愛知県2010年6月4日付け記者発表資料より一部引用

 上記にあるように、今回の愛知県の施策は「就職できなかった既卒者」の支援を目的としています。未就業者とはいえ、一旦卒業してしまうと、就活時には新卒者 と同様に扱われないケースが多く、いわゆる転職者として活動せざるを得ない場合が多々あります。そうすると社会経験者に比べてスキルや知識などで劣る既卒 者はどうしても不利。これだけ新卒者の就活が厳しい中、公的支援を期待する声は世の中でも大きいわけで、そこを支援する仕組みとして今回の施策が登場し た…という主旨はわかります。でもね、どうしても小骨が刺さったような感覚も残ってしまうのです。
 
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  今回の施策を実際に実施するのは、株式会社パソナ(50名)、アデコ株式会社(50名)、そして株式会社インテリジェンス(100名)の民間企業3社。受け入れ期間中は、キャリアカウンセラーによるカウンセリング、社会人としてのマナー・接遇等の基礎的な研修を受けながら、委託事業者が確保した民間企業等での職場実習を経験するというプログラムとなっています。この職場実習には、終了後に正社員として雇用される支援も行うとされています。給料をもらいながら、働くためのスキルアップと現場実習を積むことができ、さらに正社員登用の道もあるというのは、かなり恵まれた制度設計だと言えるのではないでしょう か。
 
 でも、ここまで手厚くフォローすることは、本当に彼らにとってよいことなのだろうか。わたしには、何でもかんでもお膳立てして導くこれまでの教育手法と同じように見えます。ただでさえ受け身姿勢が強いと指摘される昨今の若者たちに、この手法を適用することの是非は、検討の余地があるのではないでしょうか。
 
 また、苦労してやっと就職できた新社会人の中には、満足に新人研修も受けられず喘いでいる者も多いと耳にします。そんな彼らには、「なんだ、就職できなかった方が手厚くフォローされている」と見えてしまうのではないかと。
 
 新卒を採用する企業側にとっても同じような側面があります。受け入れ期間中の月額給与【144,000円】は、緊急雇用創出金で賄われますので、言葉を選ばずに言えば、短期間とはいえタダで戦力を確保できることになります。またこの期間中の働きを見て正社員として雇用するかどうかじっくり見極めができますから、ミスマッチが起こりにくい。企業側にとって、長期のインターンシップともいえる今回の制度は、もちろん受け入れて育てるという負担はありますが、様々なメリットが想定できます。そうなると、手間とお金をかけて新卒採用するより、この制度に乗っかった方が得だと考えてしまう企業も出てくるのではないでしょうか。
 
 様々な関係者の立場から懸念される点を抜き出したような話になってしまいました。そもそも既卒未就職者に必要なフォローって何だろうと考えるとき、なぜ彼らは就職できなかったのかに立ち戻るのが道理です。今回の施策が、その解決策として妥当なのかどうか。就活というのは、若者が自立する活動だと考えているわたしは、一時的にせよ、新卒者に近い給料とスキルアップ研修と職場体験機会をも提供する今回の手法が、手取り足取り教育の延長戦のような危惧を抱いてしまうのです。
 
 やる前から冷や水を浴びせるようなことを書いてしまいましたが、新しい試みに挑むことは、当然評価されるべきことです。異色ともいえる愛知県の今回の試みは、全国的にも注目を集めることでしょう。どんな成果を生むのか、今後に注目し、そしてさらなるバージョンアップに期待したいと思っています。

中村昭典

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コメント
佐川 2010/06/11 12:55

名古屋でも時々、外人さんが街頭でアクセサリーを売ったりしていませんか?以前聞いてみたのですが、何でも、イスラエルでは政府主導で一年海外で働く制度があるということです。せっかくなら、若いうちに海外で働く機会を作るというのはどうでしょう?

中村昭典 2010/06/11 13:07

佐川さん、ご無沙汰しております。イスラエルの制度、政府主導というのが抜群にいいですね。海外で働く意味、素晴らしさは、体験しないとわからない。一度体験すると、一回りも二回りも成長できる。官僚、議員、大企業の重役などには、海外経験が豊富な方が多いはずですから、その良さを知っているはず。日本でも海外就業支援にもっともっと力を入れるべきですよね。
逆にそうしないと、ますます日本全体がガラパゴス化してしまう気がしますね。


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プロフィール

中村昭典

中村昭典

元リクルート・就職情報誌編集長。現在は大学でキャリア支援領域の教育研究者。
「一人でも多くの人に、働く楽しさを伝える」をテーマに、いろいろ試行錯誤する日々です。
趣味は海山畑で食材を調達すること、カフェで一人ボーっとしながら人間観察すること

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