オルタナティブ・ブログ > 中村昭典の気ままな数値解析 >

●人、●%、●億円…メディアにあふれる「数値」から、世の中のことをちょっと考えてみましょう

【0.22%】 今年1年で雑誌170誌が休刊…は多いのか

»

 このところ出版業界の不振が止まらないようです。このまま推移すると、書籍と雑誌の売上は2009年合計で2兆円を下回る模様。

  • (前略)…バブル期の89年に2兆399億円となり、初めて2兆円の大台に乗った。96年に過去最高の2兆6563億円まで伸びたがその後は減り続け、昨年は2兆177億円だった。今年は10月末時点で1兆6196億1千万円と昨年同期比4%減で、11、12月の2カ月間で大幅に伸びる要素はない…(後略)

 asahi.com12月13日付け記事より一部引用

 出版社側は発刊点数を増やしてヒットを狙っているようで、「新刊点数は89年の3万8000点から08年には7万6000点と倍増している」(同上)のですが、売上は逆に減少しています。わたしも僅かばかりですが本を出していますので、無関係ではいられない立場にあり、少なからず事情は掴んでいるつもりですが、

  • リスクヘッジのために新刊1冊当たりの発行部数は年々抑えられる傾向にあり、発売直後でも一部の書店にしか行き渡らず、結果として店頭での露出も抑えられてしまう
  • そもそも発行点数が多すぎて書店店頭でのスペースが足りない
  • 新刊が続々と発行され、1ヶ月もすれば売れない本は返品されて新刊と入れ替わるため、じっくり売れるという本には日が当たりにくい

といった悪循環に陥っているように見えます。これより前に、若者の活字離れ、インターネットの普及による書籍情報の必要性が薄れていること、BookOffなど中古本流通に押され、新刊が売れないなど、構造的課題があることはあらためて指摘するまでもないでしょう。

 ::: ::: :::
 
 書籍以上に低迷傾向にあるのが雑誌です。インターネットの普及で情報源として雑誌を購入する必要性が低下していること、また書籍と違って収益源となっている広告出稿が減少していることなどが、雑誌発行にネガティブに作用していることは否めないでしょう。出版社側も、付録による付加価値付け、情報源に止まらない新たなる雑誌利用価値の提供などで防戦していますが、今のところ流れを止められていません。
 
 塩澤賢一氏がユニークなコメントを書いています。Twitterでフォローいただいてから知ったのですが、彼はまだ学生ながらかなりの読書家で、個人ブログで独自の意見を諸処披露しています。

  • (前略)…「携帯電話・携帯ゲーム機の普及で電車の中吊り広告の宣伝効果が低下しているのでは」という仮説から来ている。今に始まったことではないが、電車に乗るとき車内で携帯電話を扱っている人を見ないことはない。当然、そのような人の視線は自分の携帯電話に向けられていて、中吊りには向かない。よって、雑誌の中吊り広告が消費者に認知されず、その結果雑誌も売れなくなっているのではないか…(後略)

 shiozawakenichi blogより一部引用
 
 彼の指摘も合わせ、デジタル社会が雑誌発行を圧迫していることがいろんな側面で見て取れます。
 
 
今年だけで雑誌170誌が休刊したと、先のasahi.comの記事は伝えています。中にはメジャーネームも多数含まれています。かなりの数だと思うわけですが、そもそも世の中に発行されている雑誌は76,322誌もある(2008年、出版科学研究所調べ)ことをご存じでしょうか。計算すれば、休刊した雑誌点数は1%にも満たないわけです。この数値だけを他業界と単純比較することは意味がないのかもしれませんが、一般論として、この新陳代謝率は決して高くないのではないでしょうか。
 
 いや、厳しいという中で僅か
【0.22%】の休刊率はかなり低いと考える方が妥当ですよね。これとて、雑誌が頑張っているという見方もあるでしょうが、わたしにはそもそも7万誌以上もあることが多すぎるように思えます。1988年には37,064誌しかなかった雑誌が、この20年で倍増しているのです。つまり注目すべきは、分子ではなく、多すぎる分母ではないかと。かつて雑誌を作ってきた人間の発言としては甚だ遺憾なのですが。。。

Comment(2)