中村昭典の、気ままな数値解析:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 中村昭典の、気ままな数値解析

○人、○%、○億円…メディアにあふれる「数値」から、世の中のことをちょっと考えてみましょう

 7月に入ったばかりなのに、2010年卒者の就活戦線はもう終盤戦だと言われています。そんな中、リクルートワークス研究所から、2010年卒者の大卒求人倍率が発表になりました。早速結果を見ていきましょう。

  • 民間企業の求人総数は72万5,000人で、昨年の94万8,000人より22万3,000人減
  • 求人倍率は【1.62倍】で、昨年の2.14倍から0.52ポイント低下

 求人数が昨年から1/4も減少しているという現実は、厳しさを伝えるのに十分な数値かもしれません。メディアでは氷河期という言葉も使われ始めています。しかし、もう少し俯瞰して見てみましょう。バブル崩壊後に2度あったと言われる就職氷河期ですが、その頃の状況を振り返ってみると、

  • 第一次氷河期(1996年卒者):求人総数39万700人、求人倍率1.08倍
  • 第二次氷河期(2000年卒者):求人総数40万7,800人、求人倍率0.99倍

 だったことをご存じでしょうか。あくまでもマクロ数字上の話ですが、過去2度の就職氷河期は、今年の就活よりもはるかに厳しい状況であったことが判ります。

 言うまでもなく、この数値は実感とイコールであるとは限りません。実は2008年卒者の求人倍率が2.14倍であり、実はバブル崩壊後最高を記録してました。ところが昨年から急激に採用環境が悪化したせいで、心理的に厳しさが増幅されていると思います。しかし、イメージではなく事実をちゃんと見れば、捉え方は少し違ってくるのではないでしょうか。

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 もう少し掘り下げてみましょう。この大卒求人倍率調査では、企業規模別や業種別などの因子も調査されています。

  • 1,000人未満の企業の求人総数:739,300人→565,600人 173,700人減
    1,000人未満の企業への希望数:173,700人→155,900人  17,800人減
  • 1,000人以上の企業の求人総数:208,700人→159,700人  49,000人減
    1,000人以上の企業への希望数:269,400人→291,100人  21,700人増

   ※数値は2009年卒者→2010年卒者で表記

 見てお判りのように、企業規模を問わず、2009年より2010年は求人数を絞ってきていますが、当の学生は、より大手企業を目指す者が増えているのです。大卒者の大手企業志向は今に始まった話ではありませんが、2009年卒者でも0.77倍だった求人倍率(大手企業)が、2010年卒者ではさらに狭き門となり、0.55倍となっているのです。

 もっとも現実はさらに極端で、大手企業の中でもさらに一部の人気企業に応募者が殺到していると言われています。大手企業と一括りで言っても、大半は学生の知らない企業であり、実際に学生が知っている一握りの企業には、エントリーシートだけで1万通を超える応募がきているのです。仮にその大手企業の採用予定者数が100名、エントリー者数が1万人だとすれば、倍率は100倍になります。早い話、100人に1人しか内定がもらえないのです。メディアでよく取り上げられるような事例の大半は、こうした人気企業の例です。ここに応募して内定を勝ち得る学生は、能力の高さだけでなく、能力の高さを伝えられるコミュニケーション力、長く辛い選考プロセスを粘り抜く忍耐力、そして運の強さなどを持ち合わせた僅かな者だと言わざるを得ません。

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 こうした実態を合わせて考えれば、「昨今の就活は大変だ〜」とおおざっぱに捉えて必要以上に不安をかき立てるのは、いかがなものかと感じます。繰り返して言いますが、先の例で紹介した倍率100倍の企業に10社エントリーしても、受かる確率はかなり低いのです。厳しい言い方かもしれませんが、能力だけじゃ通用しないくらい狭き門なわけで、そこを受け続けて落ちている多数の学生は、

 落ちるべくして落ちている

のかもしれません。そんな現実を踏まえずに、「どれだけエントリーしても内定がもらえない」と凹む必要なんてないんです。メディアで流れる、超人気企業だけをクローズアップして厳しさを助長するようなニュースに右往左往してちゃいけないんです。

 逆に言えば、こうした企業はほんの、ほんの一握りでしかありません。世の中には本当にたくさんの企業があるのです。「諦めろ」「挑戦するだけムダだ」なんて言ってるんじゃありません。凹んで、疲れて、落ち込むくらいなら、世の中にある無数の企業に目を向け、自分にベストマッチの会社・仕事を探すことに力を注ぐことが、本来の就活だということを忘れないで欲しいと思うんです。

 長期間続く就活の厳しさは現実です。ただ、イメージやうわさ、一部のニュースに振り回されると、自分を見失います。求人倍率1.62倍というのは、100人の学生に対して、162人分の採用枠があるという意味です。学生さんはもちろん、彼らを見守る周囲も、現実をちゃんと捉えた上で、あきらめずにがんばって欲しいと思っています。

 ※タイトル末尾に誤った数値を入れてしまいましたので、削除しました(2009年7月10日15:45)

中村昭典

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コメント
佐川 2009/07/10 13:43

今はウェブサイトもあり、学生がいろいろな企業の情報を得る機会は昔よりよっぽど充実していると思ったのですが。一部企業への集中が進んでいるというのがとても以外でした。情報量の充実は学生の行動には影響しないのでしょうか?

中村昭典 2009/07/10 16:32

佐川さん、率直なコメントありがとうございます。
 
ネット活用によって、学生が手に入れることができる情報量は、一昔前とは比べものにならないくらい増えています。
ただ、情報洪水に溺れてしまい、自分を見失っている学生も多いように感じます。
豊富な情報は、功罪両面をもたらしています。
 
また大手志向と同時に、安定志向、終身雇用志向も強まっています。
世の中に漂う閉塞感が、学生の保守化傾向に拍車をかけているのではないでしょうか。
就活だけが、学生だけが特殊というわけではないように思います。

K 2009/07/10 22:41

僕の勤めている会社は長年にわたり新卒の採用をかなり絞ってきました。
現在、若い人の退職者も多く、人材の空洞化が起きてしまい、ベテランと新人ばかりの会社になってしまいました。
この2年くらい積極的に採用をしているようですが空洞化が改善されるわけではないので今後が心配です。
全体的に中小企業は似たような傾向にあるのではないかと思います。
募集をかけても思ったほど応募がないと聞いたこともあります。
いつの時代でも同じかもしれませんが安定していて高収入で有名な企業が人気です。
若い人が安定や収入だけでなく、自分の能力を生かす仕事や、やりがいを重視するようになってほしいです。

中村昭典 2009/07/13 10:17

Kさん、リアルコメントありがとうございます。
 
新卒を定期的に採用し、人員のピラミッドを計画的に築く・・・というのは一部の大企業の話であって、
数多くの中堅中小企業においては、Kさんが指摘されたような悩みが渦巻いているんでしょうね。
マスの数値や一部大企業のイメージで語ると、氷河期だ、大変だ、みたいな話にもなるんでしょうが、
実社会では、学生を求めている中堅中小企業がたくさんあるわけで、
マッチングができてないというのが最大の問題なわけです。
どの仕事にどんなやりがいがあるのか、これが学生に等身大で伝わる仕組みがもっとあれば、
学生の就活も大きく変わると思います。

jomm 2009/07/14 01:14

はじめまして。
2010年卒で就職活動を終えた大学院生です。
今の段階で内々定をとっていない学生には「大手病」が多いことは事実ですね。ただ、企業側が高学歴(有名校)を敬遠しているケースもあります。
結局は合う合わないの問題になってしまいますね。そういった意味でも、見えにくい企業に目を向けるということに大賛成です。

中村昭典 2009/07/14 13:28

jommさん、就活現役者からコメントいただけて嬉しい限りです。
記事に賛同いただけるところがあったようで、ホッとしました。
 
就活は新しい自分を発見する機会だと、私は考えています。
がんばって活動すれば、いろんな出会いがあり、思わぬ気づきがあったりします。
そこを意識して、食わず嫌いを避け、何にでも興味をもって覗き見してほしいと思いますね。
 
jommさんはすでに内定を勝ち得たようですね、おめでとうございます。


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プロフィール

中村昭典

中村昭典

元リクルート・就職情報誌編集長。現在は大学でキャリア支援領域の教育研究者。
「一人でも多くの人に、働く楽しさを伝える」をテーマに、いろいろ試行錯誤する日々です。
趣味は海山畑で食材を調達すること、カフェで一人ボーっとしながら人間観察すること

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