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IT技術者教育に携わって25年が経ちました。その間、変わったことも、変わらなかったこともあります。ここでは、IT業界の現状や昔話やこれから起きそうなこと、エンジニアの仕事や生活について、なるべく「私」の視点で紹介していきます。

ひと目でわかるAzure「基本から学ぶサーバー&ネットワーク構築」

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今さら言うまでもないが、クラウドコンピューティングは、IT環境を大きく変えた。これからOSの技術者は激減するだろうし、ネットワーク技術者の役割も変わるだろう。アプリケーション開発手法も変わってくる。ある意味では「仕事を奪われる」ということになるが、見方を変えれば時代の変化を体験できるチャンスである。

過去にIT業界は何度も大きな変化を迎えてきた。UNIXによるソフトウェアのオープン化、PCサーバーによるハードウェアのオープン化、インターネットによる通信のオープン化である。しかし、これらの変化はエンドユーザーを直接巻き込んだわけではない。クラウドはIT環境そのものをオープン化する。

クラウドが与える影響に最も近い過去の例は「パソコン」の登場である。BASICマシンとして登場したパソコンは、その後CP/MやMS-DOSなど個人用OSを搭載し、多くのアプリケーションが動作するようになったが、IT部門から最初は無視された。そのため、自腹で買ったPCを職場に持ち込む人や、電卓やタイプライターに準じる「事務機」として部門に導入された。

クラウドも、部門レベルでの導入が始まっており、IT部門があわてている。昔のパソコンと違い、インターネット接続が前提だから、勝手につながれると少々問題がある。問題はあるが、クラウドの部門利用や個人利用の流れは止まらない。SIベンダーも利用者部門に対する営業活動が活発になっていると聞く。

9月10日に発売予定の拙著「ひと目でわかるAzure 基本から学ぶサーバー&ネットワーク構築」は、マイクロソフトが提供するクラウドサービスMicrosoft Azureを使って個人でサーバーを構築する方を対象としている。そもそもサーバーを立てること自体が、数年後にはまれになると言われているが、逆に言うと数年間は十分な需要がある。それに、趣味としての「サーバー構築」は案外残るんじゃないかと私は思っている。業務用無線では大昔に廃止された無線電信(モールス符号を使った通信)がアマチュア無線ではある程度生き残っているようなものである。

個人でのサーバー構築だから、以下の内容は割愛した。

  • サイト間接続ネットワーク…インターネットに接続された固定IPアドレスと、IPSec VPNが使えるルーターが必要
  • Azureサイトリカバリ…Windows Server 2012 R2のHyper-Vが手元に必要
  • PowerShellの利用…個人の場合は、一連の操作を間違いなく実行することの重要度が比較的低いので最小限に留めた

いずれも企業システムでは必要な機能である。特に「サイト間接続ネットワーク」は必須に近いので、要望が大きければ改訂版で追加したいと思っている。

また、Azureの管理には「クラシックポータル」と呼ばれる旧サイトを主に利用しており、新しい管理ポータル「Azureポータル」または「プレビューポータル」は付録で簡単に紹介するに留めた。Azureポータルはまだプレビュー版であり、機能的に不足している部分がある上、UIが頻繁に変わる。実際、本書執筆時点とは名称などが大幅に変わっている。校正時に気付いたのだが、印刷スケジュールの関係で、画面を差し替えることはできなかった。

新ポータルが正式版になった時点で、さらに要望があるようなら新ポータルを使ったものに加筆・改訂したいのだが、それには本書がある程度売れる必要がある。改訂版が欲しいのに、現在の版を買わなければならないというのはおかしな話だということは分かっているので、新版が欲しい方はぜひ出版社に直接要望をあげて欲しい。

なお、オンラインを含む一般書店には9月10日から並ぶようだが、9月2日(水)から9月4日(金)まで開催されるマイクロソフト主催のイベント「Microsoft FEST 2015」では先行販売される予定である。

最後に、本書の前書き部分から引用したい。本書を執筆した主な動機である。

私がコンピューター関連の雑誌記事や書籍を書き始めた頃、自分でサーバーを構成するのは少々面倒でした。まず、サーバーOSを入手しなければなりません。Windows Serverは高価ですし、Linuxのインストールは今よりもずっと面倒でした。何よりインストール可能なPCを調達する必要がありました。

そのうちに、VMware Workstationが登場し、仮想マシンが使えるようになりました。Windows 8.1にはWindows Server 2012 R2とほぼ同等の機能を持つ仮想化機能Hyper-Vが標準搭載されています。

Windowsはもちろん、現在のLinuxにはHyper-Vゲストのサポート機能が組み込まれているので、インストールも格段に簡単になりました。しかし、LinuxはともかくWindows Serverは製品ライセンスの価格が高く、個人的な興味で試験的に利用するには少々ハードルが高いことには変わりありません。数日間のテストのために高価なサーバー製品を購入するのは無駄な話です。

そこで、目を付けたのがAmazon Web ServicesやMicrosoft Azureといったクラウドサービスです。これなら、誰でも簡単に、短時間で自分専用のサーバーを立てることができます。しかも時間単位の課金なので、短期間であればわずかな費用で済みます。

実は、前著「グループポリシー逆引きリファレンス厳選92」や「プロが教えるWindows Server 2012システム管理」も一部はAzure上で検証している。また、Windows 10の画面ショットもAzure上の仮想マシンで取った。Windows 10のようなクライアントOSは、通常クラウドサービスとしては提供されないが、開発者向けのAzure契約ではテスト目的で利用できるようになっている。他社のクラウドにはない利点である。


▲Microsoft Azureのイメージキャラクター「クラウディア窓辺」の使用許可が得られた。
台詞は、ちょっと「涼宮ハルヒ」風である。

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