Amazonのダンボールはなぜ大きいのか?
Amazonで商品を注文したことのある方は、なぜ商品に対して大きなダンボールが使われるのだろうと思うことと思います。これは「コンテナリゼーション」という言葉から説明することができます。
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それでも Amazonのダンボールを大きいと言えるか?
コンテナリゼーション
コンテナリゼーションとは、貨物をコンテナにつめて輸送する物流方式のことです。鉄製の堅牢なコンテナが中の荷物を守ることで、揺れる船で荷物が壊れることも、積み下ろしの時間も、盗難も少なくなりました。加えてコンテナが20フィートや40フィートという規格化されたサイズであることで、大幅な機械化がもたらされました。それにより物流コストも下がりました。我々の身の回りには数えきれないほどの外国製品がありますが、たとえ発展途上国の安い人件費で製造できたとしても、物流コストが高ければ日本まで運んだときにトータルで高くなってしまいます。コンテナを利用することにより物流コストを下げることができる、そのことをAmazonは上手に利用しています。
段ボールの標準化
Amazonの段ボールは確かに大きいのですが、それほど種類は多くありません。少ない種類の段ボールに様々な商品を詰めるため、ものによっては大きな隙間ができてしまうと考えられます。それでも段ボールの種類を減らすのはなぜでしょうか。コンテナの例を参考にすれば、作業、機械、資材を単純化・標準化することができるからであるというのが回答になります。
- 作業が標準化できるということは、まず作業員の教育を簡単にできます。研修期間も短くなりますし、特殊な技能を必要とすることもありません。
- 作業が単純であれば機械化できる比率も高まります。
- 資材も多品種を少量ずつ購入するより少品種を大量購入した方が安くなります。
特に作業と資材が単純になる点は、新たな国でサービスを開始する際の初期コストを小さくするという点でもメリットが大きいと言えるでしょう。機械も汎用品をそのまま使ったり、改造するとしてもその度合いを小さくしやすいと考えられます。果たして標準化のメリットはどれほどのものなのか。普段の生活で実感する機会はなかなかありませんが、職場で上司に渡す資料や会議の配布資料を「B5サイズ」に印刷してみるとわかるかもしれません。
配送の密度の効率性
これだけではありません。大きめのダンボールは配送の効率性を大きく向上させる可能性があります。
配送の効率性とはどのようなものでしょうか。例えば箱が1種類しかなくて、トラックには10個の段ボールが載せられる場合を考えてみましょう。100個の荷物を運ぼうとすればトラックは10台、1000個の段ボールを運ぼうとすればトラックは100台です。
これが箱が10種類あるとどうなるでしょうか。荷物は積み方によってムダが大きくなったり小さくなったりします。箱が互いにぴったりと収まるサイズであればギッシリと詰め込むことができますが、箱が何種類もあるような場合にはどうしてもムダができてしまいます。
では段ボールの種類を減らすことでいつでもギッシリと詰め込むことができるでしょうか。多少は効率が良くなるかもしれませんが、必ずギッシリというわけにはいかないでしょう。それよりも重要なことは、トラックを必要な台数だけピッタリと呼ぶことができる点です。
大手業者で引越しをした方は覚えがあることと思いますが、見積もりのためのシートに回答をするとそれぞれの容積を見積もった数値が記載されています。冷蔵庫が10ポイント、ベッドが20ポイント、炊飯器が3ポイント、などです。それを足しあわせて200ポイントだと2トントラックで10万円、300ポイントだと4トントラックで15万円というように見積られます。
引越しでは引越し当日に積んでみて、全部が載らないと非常に困ります。トラック1台を借り切る場合ですと、多めに余裕が見積もられ、実際には思ったよりスカスカで損をした気持ちにさせられます。(相乗りする場合などは運んでもらう量だけの料金であるようです。)これを毎日、膨大な回数繰り返すAmazonでは損をした気持ちというレベルでは済みません。かといって宅配が早いことを売りにしていますので、トラックを少なめに見積もることもまたマイナス要因になります。
(上の段落を一部修正しました)
もしWebから注文された時点でどれほどの容積の箱に収まるかが判断できれば、できるだけ無駄なくトラックを手配できることになります。
※自社の保有するトラックと固定給の運転手ですべての荷物を運ぶ場合であればムダになるのはガソリン代くらいですが、おそらく流動的に外注していることと思います。
※容積だけでなく重量も考慮点ですが、Amazonについては重量オーバーというのはよほど珍しいケースではないかと思います。
配送の経路の効率性
トラックの配送には容積・重量という要素とともに、締め切りと配送経路という要素も関係します。1台のトラックはできるだけ短い経路を通って荷物を配り、帰ってくるほうがガソリン代が安く済みます。また、締め切り時刻を守れなくては顧客満足度が下がってしまいます。
例えば軽トラックの荷台の床を120センチ×180センチとします。ジャンプの単行本をギリギリの小さな箱に入れたとして、面が12センチ×18センチで高さが3センチくらいとします。ということは1階層分で100冊を敷き詰めることができますので、たった30センチの高さまで積んだところでもう1000冊です。1日8時間労働として、1時間に125冊、2分で1冊配るペースとなります。ダッシュしている運送会社の方を見かけることがありますが、どんな住宅密集地でもこれは現実的なスケジュールではありません。
また、実務上は「不在」という場合もあります。仮に単行本がすべて同じ漫画であり、宛先ラベルが貼られていなかったならば留守があっても問題なく配送することができるでしょう。しかし現実はそうではなく、配送できなかった荷物はトラックに持ち帰って格納し、別の家に向かってすぐに出発しなくてはなりません。もし必ず在宅していることが約束されているならば、出発前に一筆書きで配送経路を計画することができます。しかし配送に行った場合には不在でも、その日のうちの早い時間帯に「再配達」の依頼が来ることがあります。もちろん再配達依頼を受理できる時刻を限定すれば応じる必要はないのですが、積極的な再配達は顧客満足度を上げることにもなりますし、倉庫から配送品を減らすことにもなります。つまり配送経路もギリギリのところまで効率化を追求することは難しいということになります。
配送の見積もり
配送とは、
- 限られた時間内に
- できるだけ少ない台数のトラックで
- できるだけ多くの荷物を届ける
という問題であるわけですが、上で述べたように様々な阻害要因があってトラックに荷物をギッシリ詰めて一筆書きの経路を配らせるという配送形態は絵に描いた餅です。それよりもWebサイトから集まった注文を集計し、ある地域向けの配送量は容積●●立法メートル(●●キログラム)であるということを早い段階で把握してトラックの所要台数を正確に見積もることの方が遙かに現実的と言えます。
トラックの見積もりが正確で早いとどのようなメリットがあるでしょうか。他社よりもずっと早い段階で必要とするトラックの台数を伝えるという約束は、配送パートナーとの価格交渉で非常に有利に働きます。配送パートナーも別の仕事を受注できる可能性があり、稼働率を上げることができますので交渉に応じるメリットがあります。もちろん配送パートナー側にそれに応じるトラックおよびドライバーの管理ノウハウがあることを前提とします。
まとめ
考えてみればコンテナ輸送というのは鉄製の重いコンテナに、場合によっては既にパッケージングされた商品が入っていることすらあるわけですから利用密度という点で言えばコンテナ1個1個のは非常に効率が悪いはずです。おそらくはAmazonの段ボールがかわいく見える事例がたくさんあることでしょう。しかし世界最大のコンテナ船であるエマ・マースクなどは最大で1万個とも1万5千個とも言われる20フィートコンテナを搭載できるそうです。海運では1回の航海で膨大な量を運べる代わりに、ちょっと足りないからもう1隻、というと膨大なコスト追加になってしまいます。その一方で、予定通りに1万5千個分の1個としてコンテナを運べば、非常に安いコストで荷物を運ぶことができます。そのため利用密度には目をつぶってもコンテナで運んでもらうというやり方が世界中の標準となっています。世界の工場と言われる中国の成長はめざましいものがありましたが、コンテナなくしては実現しないものであったことでしょう。そしてそれを見越してコンテナ港を整備した中国政府は本当にあなどれません。今や世界のコンテナ取扱量の多い港の1位こそシンガポールですが、2位3位4位は中国です。
トラックは船と比較すれば1回で少しの荷物しか運べませんが、その代わりに柔軟に配車の予約をすることができます。そのメリットを活かし、段ボールを標準化することでAmazon.co.jpでの受注から配送日、配送地域ごとの配送量を割り出して効率的にトラックを割り当てていく、それがAmazonのやり方ではないかと思います。
メーカー倉庫からAmazonの物流倉庫などバックボーンにあたる配送や、最近始まったAmazonからコンビニへの「バルク」的な配送についてはまた機会があれば考えをまとめたいと思います。また、コンテナ型データセンターの誘致を考えるのであればITの「データセンター」の視点だけでなく「コンテナ」の視点も必要かと思います。
ちなみに段ボールはリサイクルの優等生と言われています。想像ですが、多少段ボールが大きくても、トラックをムダに走らせるよりはきっと環境に優しいのではないかという気がします。
『株式会社トーモク 段ボールは環境の優等生』 http://www.tomoku.co.jp/environment/honor.html
『環境に優しい包装。ニーズに合わせたトータルパッケージ****日之出紙器工業株式会社「リサイクル」』 http://www.hinode-shiki.co.jp/recycle.htm
『大豊製紙株式会社 :: TAIHO PAPER MANUFACTURE CO., LTD. :: 段ボールのリサイクル』 http://www.taihoseishi.co.jp/sub01_recycle.html