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営業担当者による値引き販売とダッチオークション

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先月けんじろうさんのブログで営業とお客様の間で行なわれる価格交渉が取り上げられていました。

けんじろう と コラボろう! > アメリカ人ビジネスマンの最終交渉は譲歩術~事前に決めておかないと大切なものを失う : ITmedia オルタナティブ・ブログ
http://blogs.itmedia.co.jp/kenjiro/2008/05/post-7eab.html

けんじろうさんのエントリの中では

  1. お客様が撤退するポイントの予測
  2. 自分たちが撤退するポイントの決定
  3. 譲歩できる理由の明確化
  4. 譲歩できる条件、項目の優先順位付

という要素が重要であるとして説明されていました。私はお客様との間で開発費用の折衝なども手がけますが、どれも「なるほど!」という内容ばかりです。あの時の失敗はこれができていなかったかな、と思い当たる経験もたくさんあります。

実はずいぶん前にけんじろうさんの会社の営業の方を相手にして、ある製品のライセンスの価格交渉を行ないました。 あまり詳細なことは禁則事項になりますが、営業の方に「ここまでなら下げられる。会社に戻って上司と交渉すれば更にもう少下げられると思う」と切り出されました。散会後、その日のうちに営業の方から電話があり、更に安くなった金額が提示されました。

私はそこでそれ以上交渉してやろうとは思いませんでした。営業の方に権限が不足していたために会社に戻って最終金額を提示されたのか、それともテクニックで提示されたのかはわかりませんが、結果として話はまとまりました。上手なやり方であったように思います。打ち合わせの場で唐突に安い金額を最終金額として提示されていたら、散会後にこちらのほうから電話で「ほんまはもう少し安くできるんちゃいますの?」と言っていたかもしれません。(先日飲み会でこの話をけんじろうさんにしたら笑っていました)

さて話は変わって株式に詳しい人なら知っているかもしれない、ダッチオークションというものがあります。オランダ式オークションとか中国式オークションとも言われるものです。

ダッチオークションは価格をある程度高めに設定しておき、司会者がどんどん値段を下げていきます。参加者は「その値段で買うぞ」と思ったら手を上げて購入を宣言します。普通のオークションと違って一人目が手を上げたら終了です。即座に落札されます。あまりに金額が下がってしまいそうな場合は司会者がオークションを流します。この手法は最近ですとgoogleの株式公開時に使用され、知名度を上げました。

私がこのダッチオークションを知ったのは長崎のハウステンボスに行ったときのことでした。定価3000円のミッフィーグッズが2500円からスタートします。3000円が2500円だと確かにお得な感じはしますが、いかにもまだ下がりそうな気がします。おそらくは2000円前後で動きがあり、2000円を超えても声がかからない場合は半額の1500円前後が勝負になるでしょう。実際は1700円くらいで終わりました。

(ちなみにミッフィーはオランダ生まれ。本名はナインチェ・プラウス=Nijntje Pluis=オランダ語でふわふわのうさぎちゃん。ミッフィーが生まれたところを描いた絵本『ちいさなうさこちゃん』では白黒の柄でおなじみの牛であるホルスタインが誕生を祝いに来るが、ホルスタイン種はオランダが原産。他、太陽が黄色であったり、ミッフィーが自転車に乗るなどオランダっぽい描写がいっぱいあり、それを見つけるのも楽しい。オランダは自転車天国。)

取引というのは買い手と売り手により相場価格が形成されるものですが、相場が作られる勢い等の様々な条件によっては適正と思われる価格と実際に形成される価格にずれが生じてしまうというところがおもしろいと思います。(そういえば私はそれを勉強しに商学部に入学したんでしたっけ。)ダッチオークションにしても営業担当者との価格交渉にしても「まだ安くなるだろう」という期待が価格を下げてしまいます。

例えばこのエントリの上のほうで紹介したソフトウェアの販売のような場合、そもそも目に見える形の在庫がないために希少感がありません。(ダウンロード販売を利用すれば在庫が無限に等しい)また、代わりの機能を果たす同じような製品が複数種類あることが多いです。

こういった条件がありますので、価格は下落しやすいです。通常の商品であれば、「これが最後の1個ですよ」とか「工場で生産が追いつかないのでこれを逃すと1か月先の入荷になりますよ」という手法で価格を維持したり上昇させたりすることができます。クリスピードーナツはミスタードーナツより高くても行列が途切れませんし(といか意図的に作ってるというのが定説みたいですが)バターや小麦製品が最近高いですが、どうしても欲しいという需要が多いために価格が上昇しています。自分はマーガリンでいいや、とか、日本人なら米を食えという人がたくさんいたら価格はそのまま、販売数量だけが減ることでしょう。

対するソフトウェアではFirefoxが1日で800万ダウンロードとかモンハンが200万本とかメタルギアが50万本に迫る勢いというニュースになっているように需要に供給が追いつかないということは発生しにくいです。DSやWiiのようなハードは製造が追いつかないことがありますが、ディスクやカートリッジは比較的供給がしやすいようです。となると価格の下落に歯止めがかけづらくなってしまうのでしょう。(ただしゲーム製品はコピー制御の恩恵で複製が難しく、おもしろいタイトルはブランドが確立されているなど模倣ソフトにとって厳しい環境であるために人気があるソフトの価格は高めに推移します。オプーナとか。)

Firefox 3、24時間で800万ダウンロード超え - ITmedia News
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0806/19/news036.html

「モンスターハンターポータブル 2nd G」国内出荷本数200万本突破――では販売本数は? - ITmedia +D Games
http://plusd.itmedia.co.jp/games/articles/0804/25/news144.html

週間ソフト販売ランキング:もっともPS3で売れた「メタルギアソリッド4」 - ITmedia +D Games
http://plusd.itmedia.co.jp/games/articles/0806/19/news062.html

多くの有償ソフトウェアは違法コピー&フリーソフトの攻勢に耐えねばならず、最近でもATOKが月額300円になるとかDB2がオープンソースになるとか(無償/有償やDB2 Express-Cとの関係などは不明)、Lotusから無料オフィススイートSymphonyの正式版が出るというような話が聞かれます。これはやはり複製可能で代替品が多いというソフトウェアの性質を反映して競争が大変になっていることを反映しているのでしょう。とおるさんがブログでご紹介の通り、Sunからも多くの無償オープンソース製品が出ています。

ATOKを月額300円で 定額サービス9月開始 - ITmedia News
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0806/18/news048.html

スラッシュドット・ジャパン | IBM、DB2のオープンソース化を検討か
http://slashdot.jp/it/article.pl?sid=08/06/17/2057238

IBM、無料オフィススイート「Lotus Symphony」正式リリース - ITmedia News
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0806/04/news036.html

代替案のある生活 > サンが、アプリケーション・サーバのオープンソースを推進する、ということ : ITmedia オルタナティブ・ブログ
http://blogs.itmedia.co.jp/daitaian/2008/02/post-4328.html

それでも利益を得るための方策は、ソフトウェアを無料OR低価格化して+サポートで儲けたり、上位ラインナップや周辺ソフトを提供して儲けたり、売り切りで1万円と言わずに月額で500円くらいにしてみたり、頻繁なバージョンアップを行なったり、独自フォーマットを広めてデファクトスタンダードにしてしまったり、ものすごくわかりづらいライセンス体系にしてユーザが節約しようとする気力を根こそぎ奪ったり(笑)、というような努力が見られるところにあるかと思います。

「まだまだ安くなるだろう」という期待はダッチオークションを楽しむには欠かせない要素ですが、ソフトウェア系の製品を扱う営業担当者にとっては頭の痛い問題であるようです。ソフトウェア価格の下落が消費者にとって必ずしもプラスになるかどうか、というところも含めてATOKの月額300円に期待しておるところです。がんばれジャストシステム!

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