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スタートアップの本当の魅力を教えてくれる「コンストラクティビズム」とは?

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先日、とあるチャンスがあり、アメリカのボストンにてMITやTufts大学に来訪し、コラボレーションやイノベーションに関する理論を、研究者と議論する機会に恵まれました。その議論の中で出てきた、学習に関する理論(コンストラクティビズム)が、あまりに鮮烈であったため、今回はその内容をご紹介したいと思います。

■今回の論旨
1.表現し創造することは、吸収するよりも強力な学習方法(コンストラクティビズム)
2.創造は、模倣よりも非効率でまどろっこしいが、最高の成長と幸福感をもたらす
3.効率化された現代では、起業(スタートアップ)こそが創造の開拓地
4.スタートアップは、金銭価値より成長価値・幸福価値で捉えるべし

それでは、本編です。

1.表現し創造することは、吸収するよりも強力な学習方法(コンストラクティビズム)

Const02

この議論は、上の絵にあるメモ書きから始まりました。議論をしていた相手のタフツ大学のブライアンは、こう切り出しました。

「学習というと、この左側のように、自分が何かを吸収していくということだと思い込みがちだけれども、コンストラクティビズムでは、この、右側のように、自分が何かを表現し、外に向けて創造していくときにこそ、本当の学習が起きると考えられているんだ」

ん?なんとなく分かるような、分からないような?

そこで、ブライアンは、こんな風に2つのコップをテーブルにひっくり返して、質問してきます。

Const01

「この2つのコップをぶつけたら、どうなると思う?」

そして、こう続けました。

「きっと、自分の知識の中からいくつかの経験則を引っ張りだして、考えたんじゃないかな。あるいは、理系の素養があったら、いくつかの法則を思い出して、それをあてはめて”一緒に動く?”、”反発する”なんて、考えたんじゃないかな?」

はい、僕は理系の出身であるため、まさにそれをやろうとしました。

そこで、再びブライアン

「コンストラクティビズムってのは、こうやってみるのさ」

といって、いきなり2つのコップをぶつけます。ああ、なるほど、こう動くのか・・・

「こうやって、実際にまずやってみると、何か分かるよね。で、今度はコップの重さを変えてみたり、2つのコップの重さを異なるものにしてみたり、ぶつけるスピードを変えてみたり・・・実際にこの状況で、何がどういうときに起きるのかを、自分で試行錯誤して考えようとすると、結構複雑なんだよね」

さらに、ブライアン。

「ピサの斜塔の話であるけれど、鉄の玉と木の玉を同時に落下させたら、どっちが先に地面に着くのか?これって、知識を引っ張りだしたら、一瞬で”同時でしょ”ってなってしまうけれど、本当にそれを導き出そうとすると、大変な作業と試行錯誤が起きるよね」

そうです、これこそがコンストラクティビズムの真髄。何かの法則や状況を、自分自身で試行錯誤し、そこから導き出そうとすると、知識を引っ張りだすよりも、遥かに複雑で難解なことに取り組まなければならなくなります。

この、

何かを表現し、産み出す」という営みこそ、複雑でチャレンジングであるがゆえに、そこに夢中で取り組むことができ、それによって自分が成長し、そして何よりも楽しいことである

というのが、コンストラクティビズムの真髄なのです。

実際に、このコップの話を子供たちにやってもらうと、手を動かし、コップのスピードを変え、様々なことを試行錯誤しながら、夢中になってあれこれと取り組むそうです

2.創造は、模倣よりも非効率でまどろっこしいが、最高の成長と幸福感をもたらす

このように、何かを表現し、創造していくというプロセスは、一般に勉強というと連想されるような、暗記や記憶といったプロセスから見ると、非効率的でまどろっこしいものであるため、ついついその価値が見逃されてしまいます。

「テストのときに、公式を最初から試行錯誤して求めようとして、時間切れで0点になった」みたいなのが、まさにその状況です。

同じ時間でどれだけのアウトプットが作り出せるかという尺度で考えると、この「表現し創造する」というステップは、とても低く評価されてしまうのです。

ですが、何かを表現し創造しようとしたときに、本人に起きることは、測り知れず大きなものがあります。自分が知らないことについて、まず、手を動かして色々な状況をつくってみる。次に、その要素を色々と変化させてみて、何と何がどう関連しているかを見定める。そして、それがどのような全体像を持っていて、どんな法則がありそうなのかを考え、書き留めてみる・・・・

これは、単純に何かを暗記し、それを思い出すといった作業に比べて、遥かに高度な作業を要求されるため、やり遂げていく最中で、多くの成長が本人にもたらされます

そしてブライアンは、こう続けました

「子供達への教育では、こうした状況を、大人が自分の持っている固定概念を捨てて、新しいものを創りだそうとすることをじっくりと見守って、そしてそれを子供と一緒に楽しむということで、物凄い成長を引き出すことができる

「大人も、本質的には子どもと同じでこれができるはず。ただ、君がさっきやったみたいに、大人は、多くの自分の知識を持ってしまっているので、創造モードに入りにくいんだ。そこだけが、大人と子供の違いだね」

と。

3.効率化された現代では、起業(スタートアップ)こそが創造の開拓地

この議論はとても新鮮で、その後日本に帰国してからも、何人かの友人たちとの議論や会話の中で、ずっと引っかかっていました。

そして、まさにこれが当てはまるなと感じたのが、新しく自分でベンチャーを起業するという、スタートアップの場面のことでした。

実際にやってみるとよく分かりますが、0ベースで企業をつくるのは、とてもまどろっこしくて非効率な作業です。
例えばですが、大企業では当たり前に行われる給与の支払いだったり、健康保険だったり、そもそもの株式会社としての登録だったり。本業のビジネスの組立で以前に、そんな雑務のようなところに、物凄い時間を取られます。

さらに、本業のビジネスモデルをつくるときも、新規性の高いものであればあるほど、試行錯誤と非効率な日々が続きます

大企業が日々繰り返し、多くの企業が採用しているビジネスモデルは、流石に中々よくできているもので、そつなく回っていきます。

ベンチャーが新しく始めたビジネスモデルは、傍目から見たり、後で自分たちで振り返ってみると「うわぁ・・・こりゃ酷い(笑)」って思うくらいに、とても非効率で、利用者にとっても不便であることが多々あります。

ですが、こうした非効率を、日々試行錯誤しながら育てあげていき、斬新で世の中にインパクトがあるものに仕立てあげていく感覚は、本当の意味で頭脳がフル回転し、充実し、何よりも幸せそのものです

4.スタートアップは、金銭価値より成長価値・幸福価値で捉えるべし

こう考えていくと、「なるほどね、事業計画の採算性とか、人生の費用対効果とかでスタートアップ(起業)のGO/NoGOを考えるなんて、ホントにナンセンスだよなあ」という結論に至ります。

私も、0ベースでの起業に関わる場面、新規事業の立ち上げに関わる場面が多いのですが、こうしたプロセスで常に話に出るのが「それって、採算性は?」という話です。

やってみるとよく分かりますが、こうしたビジネスの多くは、実際に手を動かして進めていくと、当初とは大きく異なったことが連続して発生しますし、時代の変化が速いため、当初計画に沿ったことが起きるなんてことは、まずありません。
そして何より、「何が起きるかが予測できる」ようなものであれば、そこには既に新規性がないため、モデルそものもが成功するわけがありません。

個人で言えば、「自分が起業してあれこれやるよりも、今の会社でそのまま勤務した方が生涯賃金の期待値は高い」という捉え方のみで是非を判断するのは、非常に勿体無い。

ここで罪なのが、「数値化」というもので、金銭対価の計算は「金銭」という数値化されている尺度があるため、検討しやすく、把握が容易です。
それに比べて、「成長」や「幸福感」といったものは、定量化が難しく、そのため過去の先人の経験に関しても、どの程度のものだったのかをきちんと把握することができません。

結果として、起業についても金銭対価での側面の評価の割合が大きくなり、本質的な「成長感」「幸福感」といったものを、中々知ることができなくなります。

だからこそ、改めて思います。

こうしたスタートアップに取り組んでいる人と接し、自分もできる範囲から、新しいものの創造へと取り組んでみて、その感覚を体感できるようにする努力は、とても大切であるということを。

あなたは、これから何を表現し、創造していきますか?

それでは

▼今回の記事のブライアンが所属する、タフツ大学CEEO(Center for Engineer Education and Outreach)のサイトはこちら

http://ceeo.tufts.edu/

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