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官僚の仮想敵化が日本を滅ぼしてしまう件について

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最近、様々な機会で、同世代の現役官僚と接する機会が増え、彼らの日常レベルでの国政への関わり方や姿勢、日々の苦労や思いなどを聞くことで、実は自分たちが政治にかなり簡単に、大きな影響力と貢献ができることに気付かされた。
同時に、今回紹介する「仮想敵」化によって、とても勿体無い状況が生み出され続けていることを大いに反省すると共に、今後の政治への関わり方の変化と、官僚のみなさんへの見方の変化を大いに期待する。

◯今回の要旨
1.誰もやりたくないが、先送りできない政治課題がある
2.それでも、官僚を「仮想敵」化することで、先送りは繰り返される
3.情報が少ない相手のことは「仮想敵」に仕立て上げやすい
4.官僚が個人で情報発信すれば、誤解が解け、「仮想敵」にならなくなる
5.実は官僚の情報発信は全然可能なので、僕らがそれを大いにサポートしよう

それでは、本編です。

■待った無しの「誰も喜ばない改革」

「年金改革」「税制改革」は、誰も喜ばない改革と呼ばれている。
これは、例えば「輸入関税の撤廃」という改革であれば、輸入により利益を上げる貿易業者は喜び、それによって打撃を受ける国内生産者は怒る、というように、改革により特定の誰かが喜び、積極的に議論を進めたいと願うのとは対照的だ。

ではなぜ、誰も喜ばない改革を政府は行おうとするかといえば、これらの問題が「これ以上先送りになると、この国がとんでもないことになる」からに他ならない。言い換えれば、「みんな分かってると思うけど、この問題、もうこれ以上スルーできないぜ」というわけだ。

少子高齢化により、1980年代は働く人7人で1人の高齢者を支えていた構造が、2000年には4人に1人、2010年には3人に1人、そして2030年には2人で1人を支えなければならないのだから、税金は遥かに高くしなければならないし、年金の金額をカットしなければいけないのも、ほぼ自明だ。

■「仮想敵」化メカニズムが本質的議論を許さない・・・

ところが、こうした最も大切な議論は、これまで何度も何度も、「仮想敵」化によって先送りにされてきた。本当に本当に、これは日本という国全体にとって勿体なさすぎるメカニズム。

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上の図に示す通り、こうした「誰も喜ばない改革」に対処するための下準備が進められ、政府が国会での改革検討を表明する。すると、堰を切るように、本質的な議論を妨げる、官僚・政権与党への批判が巻き起こり、国会での審議の時間の大半が、個人的なスキャンダルの検証に使われる。TVを始めとするメディアは、国民に鬱積している将来の負担増に対する辛い感覚を、官僚陰謀説や「ムダの排除が不十分」といった根性論で煽り立てる。

こうして、ほとんど本質的な議論が行われず、アクションに結びつかなかったり、アクションが行われても、その内容が骨抜きになってしまい、さらに時間が経過し問題が悪化、次の改革表明を待つという悪循環に陥ってしまうわけだ。

■知らないことは「仮想敵」に仕立て上げやすい

そう、官僚はとにかく「仮想敵」にされやすい。彼らがどんな事を考え、どんなプロセスを踏み、何を大切にして仕事をしているのか、ほとんど僕らが知らないからだ。

「仮想敵」化は、自分たちがよく知らない、情報が不十分な相手に対して、とにかく起こりやすい。

身近な例でいえば、毎晩毎晩遅くに帰宅する旦那のことを、奥さんが「本当は遊びまわっているんじゃないか?」「私や子供のことに関心がないんじゃないか?」という風に悪く勘ぐるのと同じだ。これが、例えばどうしても倒産を防ぎ、サポートしてあげたいクライアント企業のために、時間を削って夜中までミリミリと夫が仕事をしているということが分かれば、奥さんの捉え方や、応援する姿勢は全くといっていいほど変わる。夫はそのとき「仮想敵」ではなく、支援すべき相手に変わるのだ。

こうしたときに、「それは、情報発信しない方が悪い」と批判していては、それ自体が「仮想敵」化の罠に陥っていることになる。だが幸いに、「情報発信」に関しては、情報が受ける側の努力によって、その開示や、情報発信を促進してもらうことができる。

そこで、この記事で提言したいのが、官僚がどんな仕事をしているか、実際にはどのようなプロセスで、法案や議論が行われるのか、どんな力学が働いているのかを、フラットに知れる環境を作っていくことにある。的外れな「仮想敵」化が起きようとしても、僕ら有権者が「そりゃあ的外れでしょ?」と反論し、正しいインプットや姿勢を表明し、本質的な議論に関係者一同が集中できる環境をつくるのだ。

この「官僚の情報発信の強化」による、「仮想敵」化スパイラルの防止こそが、僕らができる大いなる政治、自分たちの社会への貢献だ。

■官僚も政治家も普通の人、応援によって行動が変わる

これは、友人の官僚から聞いた話だが、彼ら官僚はもとより、彼がサポートする政治家たちも、「本当に、そこらへんにいる普通のおっちゃんたち」だそうだ。

その意味は、もしもスキャンダルや理不尽な批判などを受ければ落ち込むし、正しいことを推進する気力が萎えるし、逆に、もしも自分たちがやっていることを正しく理解し評価してもらえれば、その声に沿って、いくらでもがんばれる、というものだ。

だからこそ、「仮想敵」化によって的外れでネガティブなインプットをするのではなく、彼らの正しい状況・感情・置かれている立場・議論の進め方の仕組みなどを理解し、その上で本質的に僕らが思うことや、方針に対する賛否を表明していけば、上記の「仮想敵」化スパイラルを抜け出し、試行錯誤しつつ、色々な改革が実行に移され、それを評価し、次の改革の手を打つという、企業での事業推進の本質でもあるPDCAサイクルが回り始める。

■現役官僚はしがらみで情報発信できないというのは、全くの誤解

ここまで考えると、現役官僚達に実名ブログで情報発信をしてもらうのはとても有効だと思いつつ、「実際には、そんなことしたら叩かれたりするから、できないんだろうなあ・・・」とも感じ、以下のような質問を、知り合いの官僚数人に投げかけてみた。

・書いたら出世に響くから書かないんじゃないの?
・書いたらハブられるんじゃないの?
・法律で禁止されているんじゃないの?
・機密漏洩になるんじゃないの?

すると、なんと、これらについては基本的に全てNo、実名ブログなどで情報発信をする妨げにはならないそうだ。これには、非常に驚いた・・・。

▼現役官僚に聞いてみた、実名ブログについての一問一答(回答者;複数人)

出世に響きませんか? 「内容にもよりますが、むしろ自分の考えがしっかりとしているということで、プラスに評価されることも多いんじゃないですかね」
職場でハブられるんじゃないですか? 「普通の企業でも愚痴や偏った意見を表明したら関係が悪くなるだろうし、そういうことをしなければ、ハブられなんかしないし、逆に応援してもらえる。」
「官僚は事実とロジックを重んじるので、よくTVでやっているような元官僚による事実と異なる批判などをしなければ、問題ない」
法律で禁止されているんじゃないですか? 「個人の意見と、組織としての公式見解をしっかりと切り分けて表明していれば問題ないはず。」「個人でブログを書いてはいけない、警告を受ける、ということはない。」
機密漏洩になるんじゃないですか? 「仕事上で知り得た秘密などは、公開できないものがありますが、それは企業も同じかと思います。」「まだ未公開の重要情報などについては当然守秘しますが、それ以外の、例えば仕事の進め方だったり、決定に至るプロセスなどは、機密漏洩という話にはならないはず。」

こんな風に、「書きたくてもそれをストップされる」という強い制約があるわけではない。

では、なぜ実名ブログなどで意見表明をあまりしないのか?

■官僚は「自分たちには興味がないだろう・・・」と思い込んでいる

いつもいつも、TVや報道で叩かれ、批判されることが多い現役官僚の多くは「そんな自分たちの仕事の内容や意見、考えを、誰も興味なんてもってないだろう」と思っているらしい。

これは、完全なる誤解。そして、とても勿体ない誤解。実際に、私の友人が開設している実名ブログで「法案が可決されるまでの実際のステップ」という記事を紹介したところ、他のコンテンツに比べてもとても大きな反響があり、大変驚いた。

▼法律ができあがるまでのプロセス(内部的な調整などを含め)を紹介した現役官僚のBLOG記事
http://ameblo.jp/senshoyasuhiro/entry-11173825864.html

さらに、この反響を目の当たりにした友人は、意見を表出し、そこにフィードバックが返ってくる感覚(これは、必ずしも直接的なメッセージではなくとも、アクセスしてくる人の数の増加や、”いいね!”などの数だけでも、とても勇気づけられたとのことです)など、これから情報発信にもっと力を入れていこうと、大いに感じるきっかけになっていた。

■僕らができること:ダイレクトなフィードバックを返し続ける

このようなことが起きるのであれば、僕らがここに貢献できることは、彼らが忙しい時間の合間に書いてくれる記事やコンテンツに対して、感じたこと、考えたことをダイレクトにコメントなどでフィードバックし、「これは友人にも知ってもらいたい内容」と思ったら、FacebookやTwitterなどを通して、積極的に拡散していくことに他ならない。

こうしたフィードバックは、彼らに「自分が仕事で取り組んでいること、考えていることに対して、手応えを感じられる」という、”自己統制感”を与え、さらに多くの情報発信を促すに加え、日々長時間労働の中で取り組んでいる仕事へも、大きなエールになることは間違いない。

そして、こうした僕らと官僚との関係によって、取り組まなければならない大きな課題が改革議題になったときに、本質的でない「仮想敵」化を笑い飛ばし、真剣に議論すべきことに、関係者、そして僕らが集中できる状況が、創りだされていくのではないだろうか?

あなたは、「仮想敵」という敵をどう退治していきますか?

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