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グーグルを毎日思いやりがある組織にした男:チャディー・メン・タン マインドフルネス瞑想とEQ開発を合体させた研修プログラムの実践例を探る

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先週「グーグルが突きとめた!社員の「生産性」を高める唯一の方法はこうだ プロジェクト・アリストテレスの全貌」を多くの友人がシェアしていました。

同記事によれば、心理的安全性であったり、他者への心遣いや共感、理解力を醸成することが、間接的にではあるが、チームの生産性を高めることにつながるとしています。

たまたま偶然に、ポジティブ心理学をテーマにしたレポートを11日締め切りで書く課題があり、グーグルにおけるポジティブ心理学(マインドフルネス瞑想)とEQを組み合せた研修プログラムについて調べていました。

このレポート作成にあたり情報を収集した、『サーチ! 富と幸福を高める自己探索メソッド』と『グーグルのマインドフルネス革命―グーグル社員5万人の「10人に1人」が実践する最先端のプラクティス』では、まさに、その部分をどのように実践しているのかが紹介されている書籍です。

前述の記事に興味を持ち、具体的な方法を知りたいと考えている方には少しはお役に立てる情報ではないかと考え、レポートを以下に公開したいと思います。

はじめに

ポジティブ心理学とは「よい人生」について科学的に探究し、その実現に向けて心理学的介入を試みていく学問である [1]

目指すところとして、従業員個人および組織の生産性を上げると同時に、仕事への満足度を高め、生産的であることと満足感を味わうことが排他的な関係とはならないようにしていることは実践家としても気になるところである。

本稿では、マインドフルネス瞑想を含めた、ポジティブ心理学の概念とEQ開発を組み合せた研修プログラム、サーチ・インサイド・ユアセルフ(Search Inside Yourself 以下、SIY)を2007年から行っているグーグルの実践例とその特徴や効果を紹介する。

ポジティブ心理学とマインドフルネス瞑想

ポジティブ心理学の父と呼ばれるセリグマンは、幸福を3つに分類しそれぞれに感じ方の違いがあるとしている。

  • 快楽の人生──ポジティブ感情を持ち、それを強めて人生を過ごす
  • 夢中を追求する人生──物事に没頭し時間が止まる「フロー」の実現
  • 有意義な人生 ──さらに知識や力、善良さを促進する

1の問題点はすぐ慣れが生じること。短期的な喜びの積上げで幸福にはなれないことである。つまり、2および3が、永続的な幸福をもたらすには重要であり、この実現には自身の強みを活かすことが不可欠である。 これまでの調査では、有意義な人生において、相手に感謝の伝える行為や、慈善活動など、他者への思いやり行動が効用を長持ちさせることが分かっているとしている [2]

これは、心の病を治し、自らの短所や悩みを解消するのではなく、それぞれが生まれながらに備わった「強み」や「美徳」をさらに伸ばすことで、今よりもっと幸せを感じることが可能となるというポジティブ心理学の主張につながっていく。

キャサリン・コーリンの『心理学大図鑑』によれば、ポジティブ心理学の流れとして、1994年にジョン・カバットジンが、ストレスや怒りに対処するための「マインドフルネス瞑想」の観念の導入が記されている [3]

Search Inside Yourself (SIY):自分の内面を探れ

現代科学においては、幸せな人の脳の状態として左脳と右脳の状態が把握されており、セリグマンはポジティブな状態が起きる原因、左脳と右脳の活動がどのように幸せに影響するのかを解き明かせるとしている [4]

これまでの調査で最高の結果を出したチベット仏教僧は、思いやりについて瞑想をしている状態でこの結果が得られており、セリグマンの調査とも符合する。

考えたり行動したりすることが脳の構造と機能を変えるという「神経可塑性」という考え方があるのだが、マインドフルネス瞑想を7週間練習した人で、前頭前野の情動設定値が修行僧と同じ方向へシフトしたことを示す結果が報告されている。 これまで人間の情動の設定値は、成人前に確定し変更できないと広く考えられていたが、マインドフルネス瞑想が新たな可能性を開いたのである。

ポジティブ心理学では優秀さの要因として純粋な知性や専門知識よりも情動面の能力が2倍も重要としていることをグーグルのタンは知っていた。そこからテクノロジー部門で業績の高い人の上位6つの能力のうち4つが情動的要素であり、同社のエンジニアにも応用可能であることに着目した。

だが、情動はとても強い生理的要素を伴うため、うわべのトレーニングで能力開発は難しい。タンは神経可塑性を信じ、瞑想をキャリアやビジネスの面でも恩恵のあるものを目指した。そして同社の20%ルールを使いプロジェクトはスタートした [5]

タンはこのプログラム構築に、ゴールマンに協力を仰いでいるが、そこには同社らしい経緯がある。

図 1 EQ導入に至った流れ

図 1 EQ導入に至った流れ当初、マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)そのものを瞑想プラクティスとして導入したが、「ストレスがあるのは忙しい証拠で名誉なことだ」という意識が社員に根付いていためMBSRは、社員の気持ちを引き付けられずにいた [6]

その後、瞑想の目的を「EQの向上」に変えて「SIY」を開発したところ参加者が急増し、社内で大きな広がりを見せるようになったのである。

SIYの特徴

5万人の社員を抱えるグーグルで、その10%が瞑想を実践するまでになっている。SIYへの参加は自主的なもので、その特徴をあげるならば、宗教色の排除と、EQ開発と連動している点であろう。
トレーニングにあたっては、具体的には次の3つの領域に対して行われる。

  • 注意のトレーニング:認知的能力や情動的能力の基礎
  • 自己認識と自制:自分の認知プロセスや情動のプロセスを知覚できるようにする
  • 役に立つ心の習慣の創出:「この人が幸せになりますように」と、まず反射的に思う習慣があれば職場が一変する。誠実な善意に他の人たちが気づき、建設的な関係につながる信頼を生み出す。

参加者は7週間の期間中、合計20時間を教室で過ごすことになる。座禅にはこだわっておらず、座っておこなうタイプと日常生活の中で気軽に取り組むタイプが準備されている。

1日30分~1時間程度の瞑想が理想とされているが、多忙な人の多い会社だけに、アプリを利用して2分からでも実施可能な工夫がなされているのは同社らしさと言えよう。

具体的な瞑想内容を取り上げるには紙面が足りないが、仕事への満足度を高めることに貢献し、従業員個人および組織の生産性を上げるよう体系化されていることも特徴のひとつである。

  • 自信につながる自己認識
  • 自己統制の力を伸ばす
  • 自己動機づけの技術
  • 相手を理解し、心を通わせることを通して共感を育む
  • リーダーシップと社会的技能

さらに、この仕組みを公開して、他社も自由に使えるようにしていることも本事例の大きな特徴である。

導入効果

SIYは受講者への匿名インタビューで5段階中4.75程度の高評価を得ている。実施効果の代表的なところは以下のようなものである。

  • ストレスが軽減され、仕事の生産性が上がる
  • 感情のコントロールができるようになり、感情的な判断ミスをしなくなる
  • 思いやりの気持ちが育ち、チームワークが向上する

その他にもタンは、ジム・コリンズが『Good to Great』で紹介している極めて有能な「レベル5のリーダー」育成には思いやりの3要素が重要であるとしている [7]

図 2 「レベル5」のリーダーを際立たせるふたつの特性

図 2 「レベル5」のリーダーを際立たせるふたつの特性 出所:チャディー・メン・タン: Googleには毎日思いやりがある | TED Talk | TED.comより

成功・効果的な実施のための条件

本事例を参考した取組みを行うためには最低でも以下の環境が必要となる。

  • マインドフルネスを含めたポジティブ心理学の理解
  • 企業は瞑想がビジネスのためになることを理解する
  • 宗教色を排除したプログラムであることを知ってもらう
  • 継続を支援する仕組み

効果の点で、タンは瞑想が効果を上げることで、美徳と強味の強化につながり、それがおのずと自己成長やリーダーシップを醸成していくと考えている。だがこれがメカニズムとして機能するには、相当に高度な自律性を有する組織以外では困難であろう。

グーグルのビル・ドウェインは職場において、感情をださず、できるだけ自分を抑えることを善とする傾向があるが、「vulnerble(脆弱)」になることで人間関係が信頼のおけるものとなり、仕事がうまくいくとしている [8]

自分がオープンになることで信頼関係が生まれ、相手がオープンになることでより深い信頼関係が生まれる。このサイクルを取り入れることも成功、効果的な実施には重要なキーワードであろう。

まとめ

本稿では、グーグルのような才能という強味をもった人々が集まる組織で、ポジティブ心理学で紹介されている知見を活かし、夢中を追求し、他者への思いやり行動を行うことが、個人と組織、社会にどう効果を及ぼすのかの実践例を紹介した。

物事の受け止め方、考え方を変えることで人生は大きく変わる可能性があるが、情動のコントロールや気質を変えることは容易ではない。だが経験の結果として脳が変化し続ける神経可塑性が注目される現在、継続的なトレーニングの可能性に着目すべきであろう。

2012年、グーグルはプロジェクト・アリストテレスという生産性向上計画に着手した。このプロジェクトについてThe New York Timesが報じており、その記事ではチームワークを生み出すには「psychological safety(心理的安全性)」が重要だとしている [9]

そして同記事に関する日本語解説記事では、他者への心遣いや共感、理解力を醸成することが、間接的にではあるが、チームの生産性を高めることにつながると解説している [10]

プロジェクト・アリストテレスで報告された結果は、タンやドウェインが紹介しているSIYの効果と合致する点が驚くほど多い。 このような報告が出されたことで、SIYやポジティブ心理学(マインドフルネス瞑想)への注目度が高まるのではないだろうか。

参考文献

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