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世界一予約のとれないレストラン「エル・ブリ」に見る、「マシンを敵に回すのではなく、味方につけて創造的な仕事をする」の実例

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先週末の時間を利用して『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』を観た。

メニュー開発のために半年休むという噂は聞いていたけれど、実際どんなレストランで、どんなメニューが出てくるのか、そのコストを負担できるような値段は幾らなのだろう?など自分なりの興味のポイントは幾つかあったのだが、

料理という観点よりも、個人の能力(技術・才能)を開花させ、そのあとどう組織を動かしているのかこの映画から学ぶことはできるだろうか?と思いながらiTunesの映画レンタルのお世話になった。

『エル・ブリ』の料理の創造性、独創性については多くの方が語ると思われるので、私なりの感想を書きたいと思うわけだが、

その感想に触れるまえに今日はまず『機械との競争』この書籍のことも紹介しておかないと今日は話が通じない。

テクノロジーは雇用を奪うのか…

この雇用の喪失説について、自分の関わってきた音楽業界では、電気楽器の出現からデジタル本格時代に突入、リズムマシンやシーケンサーの登場によりプレーヤーの仕事が激減したり、iPadなどの端末を利用して多くの人がガレージバンドで音楽を手軽に作れる時代となって、音楽・楽器産業の位置づけの変化、構造的な変化は凄いものがある。

またホームページ制作業界においてもこの15年程の技術的進歩は凄まじく、ここ数年はコンテンツマネジメントシステムの浸透による更新案件の減少だったり、無料サービスやWebサービスの出現で、制作予算の下落傾向と併せ制作会社にとっては厳しい環境が続いている。

その他にも30年程前なら食べられていたであろう、フリーランスの人たちの生活がここ最近非常に不安的になってきている気がしており、そこにもやはりテクノロジー失業が原因では…と考えられるところが幾つかあったりする。

こんな時代ではあるけれど、『機械との競争』の中では、googleの自動車運転、IBMの機械翻訳などこれまでは無理とされていた分野にどんどん進出、テクノロジの指数関数的な進化が我々を驚かせるのは、まだまだこれからだとしている。

では、人間が比較的優位を保てる分野が無いのかというと、それは肉体労働の分野と、創造性を必要とする分野については、人間のほうが非線形処理の出来る安価な汎用コンピュータシステムとして活躍できると言うのだが、肝心なポイントは

競争に勝つカギはマシンを敵に回すのではなく、味方につけることなのだ

ここに尽きるように思われる。

それでは話を「エル・ブリ」に戻させていただくと、この「エル・ブリ」オーナーシェフのフェラン・アドリアは映画の中でこうはっきり言っている。

「創作と調理は別なものと考えろ」

これはオープンを1ヶ月後に控え、メニュー開発が大詰めになってきている時期にスタッフとの勉強会で発せられた言葉。

半年の休業期間の中で、フェランと数名のシェフのチームは一つの食材に対して、これまでの経験や直感などを駆使しつつ、様々な調理法を10回、20回とチャレンジを続け、まだ誰も味わったことの無い料理を創造、創作することに懸命にチャレンジする姿がこの映画で全編を通じて描かれている。

毎日かなり長時間食材に向かってメニュー開発をしているであろう事は素人でも創造がつくが、スタッフ3人がノートパソコンを前にこれまた長い時間ミーティングしている様子は印象的。

ある日運悪くPCのデータが消えてしまった事を聞かされたフェランは「なぜバックアップを取っていない」と激怒して、これだけの数のメニューを全部紙で保管するなんて…とこぼすシーンは現代の仕事現場でいかにITが浸透し必要とされているかを痛感させられる場面である。

大きなボードに手書きのメニューを書出したり、調理現場用としてリング式のノートを利用するなどデジタル、アナログ双方の特性をうまく利用していそうな様子は随所に見られるのだけれど、この『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』で描かれているのは、機械が苦手とする直感と創造性を駆使してレシピを開発し、毎年何百ものメニューをデータ化して利用しているのはとても印象的である。

だが、一部の優れた人材が毎年優れたメニューを開発されても現場が回らなければレストランは成立しないわけで、現場では「機械のように動け」という号令のもと、35品目、3時間、ひとつの時間ロスがどれだけ影響するかをスタッフに説明している様子も印象的で、45席しかないシートに世界中から年間200万件もの予約希望が殺到するレストランを運営する大変さをここからも伺うことが出来る。

「エル・ブリ」では『機械との競争』で指摘されていた人間がまだ優位を保てる領域としての、直感と創造性、そして肉体労働の分野において、マシンを敵に回すのではなく、味方につけている具体的な成功例をそこに見ることができたような気がした。

最後に『機械との競争』ではこうも指摘している、

中間的スキルを持った膨大な数の労働者、もう一方にはどんどんコスト安になるテクノロジー。この二つをうまく組み合わせた新しいビジネスモデルを開発できるなら、価値を生み出すことができるだろう。

終身雇用か外れてしまった立場においては、ますます生存競争が激しくなると思うのだが、すでに起業している人、これから独立や起業を考えている人には、今日紹介した『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』と『機械との競争』とはちょっと時間の余裕があるときに是非手にしてみてほしい作品である。

果たしてあなたがこれからやろうとしている仕事は機械に置き換えされずに、数十年続け、食べていける仕事であろうか?

ポイントは「機械を味方」にのようである。

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