こんなご時世だからこそ読んでおきたい、安部公房の「良識派」
最近「高校生のための批評入門」という書籍を手にする機会があり、マスコミに関するこんな記述が
マスメディアは社会全体が大きく混乱しないよう、ある任意の事件を取り上げそれを例として、ものの見方を教示し世論を自在に導く
確かにこう考えれば、自分がこれまで納得できなかったこともある程度の合点がいくもんだと思っていたところ、同書に安部公房の「良識派」が掲載されていた。
教科書にも掲載されてようで、ご存じの方も多いと思われるのだが、こんなストーリーのお話である。
昔のニワトリは自由ではあったが、(外敵に襲われるなど)原始的でもあった
そこに人間がやってきて、金網つきの家を建てる事を提案してくる
本能的にニワトリも警戒するが、迷っているうちにどんどん人間は小屋を作っている
出来上がった小屋はカギがあり「こんなところにはとても住めない」とニワトリがクレームをつけると、自由になるドアは危険だと言い、エサも毎日運んでやろうと言う人間
1羽のニワトリが、「どうも話がうますぎる」と主張するも、逆にこのニワトリは仲間はずれにされてしまう
人間があれほどいうのだから、一応は受け入れてみよう。もし工合がわるければ、話合いで改めていけば良いという「良識派」が勝ちをしめ、ニワトリは自らオリに入っていった
その後のことは、もうだれもが言っているとおり
ここ数年の体験で日本人の多くの人が、マスコミに登場する権威や肩書きのある人の話もあまりアテにならないというのを実体験していると思うが、同書の解説にあるこの一文を最後に紹介しておきたい。
思考の片鱗すらなく、ただ事なかれの判断だけに聡い「良識派」の流す害毒の話は、もちろんニワトリの世界の話ではない。そして無批判に「良識派」の言を受け入れる多くのニワトリの愚かさもニワトリの世界だけに見られる現象ではない。
ここ最近直接的に表現することがはばかられる事が多く、ブログにもどう表現したら良いのか分からず書けない日々が続いていた自分にとって、今日紹介した、安部公房の「良識派」とこの解説は、何も進んで揉め事起こそうとは言わないまでも、このままで大丈夫なの?という素朴な疑問を感じていた自分の感覚を、喩の世界として的確にまとめていることに思わず苦笑してしまった次第です。