電子書籍の可能性を奪うJASRACの先見性の無さ
「電子書籍には既存の紙媒体を改革する可能性がある」
こんな伊集院静氏の提言からプロジェクトがスタート、写真家の宮澤正明氏が自身のホームページを運営している株式会社エムアップを紹介し、フォーライフミュージックの後藤氏もそこに加わることで活字に音楽や映像を加えた電子書籍「なぎさホテル」になんと井上陽水の楽曲提供が実現しAppleのiPhone/iPad向けの電子書籍として販売開始されたとのことで、その記者会見が昨日都内で開催された。
この会見の中で伊集院静氏は電子書籍で儲けている人は居ないとしながらも、iPad向けの電子書籍として坂本龍一氏の音楽を取り入れるという先進的な取り組みをした村上龍氏の取り組みについて意識はあったようで、「一番最初に誰が作るのかが問題でありその点で村上龍さんは立派」と発言。
村上氏と同様に音楽関係の会社とタッグを組んで電子書籍レーベルを立ち上げた伊集院氏は本来であれば、紙のほうの出版社から(電子書籍を)出せるのが信頼関係の点では良いのかもしれないという考えを示しており、この点に若干の違いが見られるものの、
既存出版社では今まで作っていた形しか作れない…
作家がどこを選んでいくかを選択する道が電子書籍においては出来たと思う…
といった自身の考えや、
「本を若い人、新しい層に読んでもらうためには、新しい発想がなければ駄目だし、若い人がこういう本があってもいいんじゃないか?という事を言ってもらわないと、こういう事というのは近代文学の中での対応という点とは全然違うことだと思う」
という電子化だけではない文学界における課題とも取れる領域への更に踏み込んだ発言もあった。
今回の井上陽水の楽曲はメジャーリリースされた楽曲が電子書籍に収録された初の事例ということで音楽業界の注目を集めるものと見られているが、その費用については友達価格などではなく「音楽の値段はちゃんと払った」の発言では思わず会場の笑いを誘っていた。
iTunes経由での販売では30%をAppleに支払うことになるが、今回井上陽水の楽曲を利用することでJASRACに7%の料金を払わねばならず、この料率の高さに伊集院氏は「JASRACの7%は取り過ぎであり、広げようと思ったら1%か2%にしておけば良いのに、これはもう未来が見えない権化」と一刀両断であった。
記者会見終了後にもエムアップの美藤社長の周りには多くの記者が詰めかけ、収益分配方法などの詳しい数字について質問が寄せられていたが、この点についてApple30%、JASRAC7%、エムアップが15%程度というところでこれ以上の詳しい解説は勘弁してほしいとの事であった。
今回の記者会見では、既存出版業界よりも、音楽や映像などのコンテンツ業界がどうやって電子書籍とのタイアップで新たな販路を見つけることが出来るのか…という可能性を感じさせる会見だったのが印象的ではあったが、音楽がそれ単体でビジネスを成り立たせることが難しい現実をここでもまた見ることになり、
フォーライフ社長の後藤氏が今回の電子書籍へ井上陽水の楽曲提供が実現した話しの流れの中で、
「音楽が作品として扱われるようなメディアになってくれないか…」
と発言していたのが電子書籍発売の会見ではあったはずなのに、非常に強く印象に残った会見であった。